四天王急募(事務職経験のある方優遇) 1
「四天王を再編しようと思う」
「はあ」
書類仕事の休憩中、魔王が急にそんな事を言い出した。
突拍子が無いのはいつもの事なので、秘書のカペルコは特に気にする事なくお茶を用意する。
「解散してから1ヶ月ぐらい経つか?やはり居てもらわないと困るなと最近つくづく思ってな」
「はあ…先日のように突然勇者様がいらっしゃった時の様な事ですか?」
「いや、この膨大な量の書類をどうにかしたい」
魔王とカペルコの机の上には仕事に手が付かないうちに溜まりに溜まった膨大な量の書類が山積みになっていた。
それぞれの席からお互いに顔を見て会話しようとすると、上体を逸らして紙の山を交わすような動作が必要になってくる。
「それはまあ…そうですけど。先日の魔王様と勇者様の戦いの際の修繕やらなんやらの後処理も諸々発生しましたし」
「うむ、補足ありがとう。でもそんな冷たい目でワシを見ないでくれ」
「ただこういった業務を任せるとなると、普通に事務を雇った方が良いと思うのですが…」
「そこはついでだ。やはり魔王軍たるもの、四天王の存在は必要だろう」
「はあ…では求人を出しますけど、何か条件とかご希望はありますか?」
というか、四天王って求人で募集するものなんだろうか?とカペルコは思った。
深く考えても仕方無し、とりあえず提示される条件をリストアップする為に紙とペンを用意する。
「うむ、とりあえずは文字の読み書きがしっかりと出来る事だな」
「事務というか、社会人として当然に必要なスキルですね」
「あとは連絡無しに休んだり、裏で陰口を言ったりとかしない人間が望ましい」
「社会人というか、人として望まれる要件ですね」
「あとはやはりバランスだな。こればかりはどんな奴が来るかにもよるが…」
「バランスというと、前四天王のように男2女2にするという事ですか?」
「いや、女は3以上でも良い」
「バランス悪くないですか?」
カペルコはペンを置いた。
「3以上って事は、4でも良いって事ですか?」
「4でも良い。なんなら5以上でも良い」
「バランスが悪い上に四天王ですら無いですよ。というか『以上』ってどれだけ欲しがりなんですか」
「勘違いしてくれるな。ワシは男女比などという些事を気にしないだけで、中身の話をしているんだ」
「中身ですか…」
「具体的に言うと…例えばそうだな、ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、デレデレとかがいいかな」
「何から突っ込めばいいか迷うのですが、そこまでデレが多いと胃もたれしませんか?」
「ワシも自分で言っててバランス悪いなと思った」
「というか、そういう点で言っても男性が入ってた方がバランスが良いと思うのですが…それなら逆に男4でも良いって事ですか?」
「絶対ヤダ」
「募集してくる方が全員男性だったらどうするおつもりですか?」
「死ぬ」
「ええ?ちょっ…いや分かりました。分かりましたから仮定の話でそんな濁った目をしないでください」
「あとは…まあそうだな。オフィスソフトがちゃんと使えたり、簿記の資格を持ってたりすると尚良い」
「その…四天王としての力量というか、魔力を測ったりとかはしないんですか?」
「ペンは剣よりも強しと言うだろう。今回の四天王はインテリ系で行く」
「普通に事務を雇った方が良くないですか?」
あまり多くを言っても無駄な事は分かっているので、カペルコはとりあえず言われた内容を羅列しておいた。
――――――――――
「面接当日になったな〜」
「面接当日になりましたね」
面接当日になった。
面接会場としてセッティングされた玉座の間には、出入口近くに応募者用の椅子が一脚。
その少し離れた位置に長机と、面接者に向かい合うようにして座るカペルコ、そしてソワソワと落ち着きの無い魔王がいた。
「いや〜緊張するな。昨日の夜はよく眠れなかった」
「魔王様、あまりソワソワなさらないで下さい」
「分かっておる。応募者の前ではどっしりと構えるぞ」
魔王が腕を組んで鼻を鳴らす。
多分無理だろうなとカペルコは思った。
「して、面接希望者は何人いるんだ?」
「それがですね…」
「こないだのアンケートみたいに10000人超えてるとか無いだろうな。そうなったら流石に手に負えんぞ」
「23人です」
「23人」
魔王は抑揚無くカペルコの言葉をオウム返しした。
「…23人?」
「23人です」
「すっっっっっくねぇ…え、23人?230人とか2300人とかじゃなく?」
「23人です。流石にこの桁で0の数を間違えようがありません」
「ええ…だって四天王だぞ?地位は安定してるし、高収入だし…」
「前四天王解散の噂が一人歩きして悪いイメージが流れたか、単純に四天王という役職の重責が忌避されたのかもしれませんね」
「うーむ、もしくは四天王を募集している事が広く知らされていなかったかもしれん。あ〜アレやれば良かったかな。よく街中を軽快な音楽とともに走り回る宣伝カーみたいなやつ」
「四天王のイメージにそぐわないのでダメです」
「え〜だって、女性優遇、高収入って…」
「四天王のイメージにそぐわないのでダメです」
「はあ…まあ仕方ないか。この23人の中に有能な者がわんさかといる事を祈ろう」
「では、早速応募者の方をお呼びしますか」
「出来れば大人しい感じの真面目な子が居てくれるといいな。控えめだけどワシの事を立ててくれて、あわよくば上司との恋に抵抗が無い子だと尚良い」
「最初の方、どうぞ!」
カペルコは魔王の事は無視して通路で待機している応募者に聞こえるよう、大きな声で言った。
一拍置いて玉座の間の扉が勢い良く開かれる。
「失礼します!!」
加減を知らない声量で挨拶してきた、ガタイの良い如何にも体育会系といった風のサイクロプスは入室するなり目の前の椅子にどっかりと座った。
カペルコはチラリと横を見やる。
スン…と無表情の魔王がそこにはいた。
どうなる事やら、と面接者に気付かれぬようため息を付いた。
――――――――――
「ちょっっっとこれはひどいな…」
魔王は頭を抱えていた。カペルコにも疲労の色が見て取れる。
面接は特に難しい事を行うではない。名前や志望動機等質問をいくつかして、作文の音読や計算問題などの簡単なテストをするのみだ。
後は退室してもらい、後日採否を報せる事を伝える。
そう、たったこれだけだ。
にも関わらず、今のところ採用の見込みのあるものは0と言っても良かった。
まず、作文の音読の時点で躓く者が多かった。
いくら識字率が高くない魔族とはいえ、募集の件を知ってこの場にやって来たという点を鑑みればこの数は異常に低い。
その後の計算問題と合わせると最早壊滅的なレベルだった。
また、その点をクリアしても(クリアしていない者もいたが)腕比べや下克上と称して魔王に挑みかかってくる者が何人かいた。
例外無く魔王にあっさりと返り討ちにあっていたが。
また明らかに魔王を篭絡する目的で色仕掛けをしてくる者もいたが、そういった者はカペルコが追い払っていた。
「魔王軍ってこんな馬鹿ばっかの集まりだったか…?なんかワシ元気無くなってきた…」
「みなさん魔力は相当のものでしたし…武の方に際立って生きてきた方々なのかもしれません」
「それにしたって限度があるだろ。まさかかけ算も満足に出来んとは思うまい」
「トラヴィスジャパンの方みたいになってましたよね」
「TravisJapan」
「良いイントネーションで喋らないでください。ちょっと似てましたけど」
「もう少し教育関係に力を入れるべきかもなあ…」
「ところで魔王様、良いご報告と悪いご報告があるのですが」
「おおっ、ドラマとかでよく見るヤツじゃないか。ちょっとテンション上がるな」
「どちらから聞きたいですか?」
「う〜んそうだな。希望は後に残しておくとして、悪い報告から片付けておくか」
「応募者が残り4人になりました」
「残り4人」
魔王は抑揚無くカペルコの言葉をオウム返しした。
「残り4人…」
「残り4人です」
「…まあ薄々気付いてはいたというか、10人超えたあたりから意識的に数を数えないようにはしていたが…」
「このままでは四天王は四天王では無くなる可能性が非常に高いかと」
「…零天王みたいな洒落にならん話にはならん事を祈ろう。で、良いニュースは何だ?」
「応募者が残り4人になりました」
「うん…うん?」
「こんな事を言うのはなんですが、かなり疲れたというか、絶望感を感じています…この面接自体が不毛に感じられて…」
「ああ〜なんかカペルコを口説こうとする馬鹿もいたしな。追い払ったが」
「応募者をボコボコにするのはどうかと思いましたが、助かりました…」
「ワシが言うのもなんだがしっかりしてくれカペルコ。お前がしっかりしなかったらこの物語はお終いだ」
「はあ…」
「…まああれこれ考えても仕方無し、残りも片付けるとするか…」
「そうですね…では次の方、どうぞ」
そうカペルコが言い終わるや否や。
「いよぉーっす!!」
玉座の間の扉が勢い良く開かれ、そこから1人の女性が現れた。
その女性は、強大な覇気を放っていた。
無造作に伸びた緋色の髪からは禍々しく歪んだ角が伸び、開いた口からは鋭い牙と長い舌が見え隠れする。
へそ出しのタンクトップが豊満な胸部をギッチリと抑えており、ホットパンツを合わせて革のジャケットをラフに着たその格好は露出度が高い。しかし引き締まった体躯からは、淫靡さよりも活発な印象を受けさせる。
また、やや縦長の瞳孔に黄金色の虹彩はその者の快活で攻撃的な性格を表していた。
腰からは自らの腿程の太さの尾が生えており、その表面には爬虫類を思わせる掌程の鱗が美しく並んでいる。
魔界の中でも最強の一角を誇る魔族、竜種。
この玉座の間にまるで自らの実家のように入ってきたその魔族は、二人もよく知る、元四天王のうちの一人であった。
「おいおいなんだ、しけた面しやがって!まさか面接が上手く行ってねえのか?」
「エフレナ様…!」
「よっカペルコ。久しぶりだな、元気してたか?」
エフレナは目の前の椅子にどっかりと座ると、右足を左膝の上に乗せ、自らの脚に片肘を付く。
粗野な仕草だが、エフレナがやると様になっていた。
「まあ周りの奴らもショボそうな奴らばっかだったからな〜。まあ安心しろよ!俺が来てやったんだ、沈んだ大船を引き上げるつもりでいな!」
「エフレナ様、捻り過ぎてよく分からない言葉になってます」
「へへ、よせって!」
「一応言っとくが褒めてる訳じゃないと思うぞ。あとちょっといいか?」
カペルコは魔王の周りの空気が冷えているのを感じ、少し身構えた。
「ようロムレクス。相変わらずしみったれた面しやがって、なんだよ?」
「お前今までどこで何やってた?」
「あぁ?そりゃお前、戦ってたんだよ。魔族の矜恃のままにだな…」
「ほうぼうで飲み歩いた挙句に所構わず暴れ回ってた訳では無いのか?」
「ばっ、ばばっバーカお前、俺をなんだと思ってんだよ。四六時中飲んでると思ってねえか!?」
「じゃあそういう事はゼロなのか?」
「…ま、まあちょっとは」
「今日なんでここに来た?」
「そりゃお前、四天王に戻る為だよ」
エフレナは足を組み直すと、大仰な身振りで話を続ける。
「一度は周りに流さ…色々あって四天王を抜けたが、やっぱり俺の力が必要だろうと思ってな〜」
「金が無くなったんじゃないだろうな?」
「おっ…お前、そんなんじゃねえよ!俺の四天王時代の給料、知ってんだろ?」
「今の所持金はいくらだ?」
「なっ、なんだよ、本当だって!蓄えがあったんだから、まだ大丈夫だっての!」
『まだ』
カペルコにも何となくエフレナの現状が理解できた。
「そうか、じゃあ最後に一つ聞かせてくれ」
魔王の言葉には感情がこもっておらず、冷たい。
「お前、面接希望者に何かしてないだろうな?」
「し、してないよ」
傍目から見ても明らかに目が泳いでいる。
「メンチ切ったり恫喝したりして応募者を帰らせてないか?」
「知らねえな〜。周りの奴らにちょっと挨拶して回ったりはしたけど、そんな事してねえけどな〜」
「特にインテリっぽい応募者に対してそういう事してないか?」
「な、何のことか分からねえなあ〜…」
「そうかそうか」
エフレナをジト目で見る魔王とカペルコ。
初めこそ素知らぬ顔をしていたエフレナだったが、沈黙が続くにつれその顔は引き攣り、額には汗が滲んでいった。
「な…なんだよ!大体四天王に必要なのが事務の能力っておかしいだろ!だったら普通に事務雇えよ!いいか、四天王に必要なのは力だろ!邪魔者や言う事を聞かねえ奴を捩じ伏せる力が必要なんだよ!そういう頭を使う役回りの奴が入ったって別に良いけどよ、四人全員はバランス悪いだろ!」
カペルコも事務を雇えという言い分については全くその通りだと思った。
エフレナは魔王に詰め寄ると、机越しにずいと身体を寄せて自分を指差した。
「力の強え奴が必要だろ!俺みたいな!な!?」
「…まあバランスが大事だとはカペルコとも話しておった」
「おお!だよな?」
「分かった、面接はOKだ。ちょっとこっちに来てくれ」
「お?おお」
エフレナは言われるままに玉座の間の奥にある窓の前に移動する。
カペルコは念の為手元の書類等を整理して避難させた。
「うむ、そこで良い。ちょっと立っとれ」
「何だよこんな所に…あっ分かった!イメージ写真でも撮るんだろ?」
「うんうん、すぐ済むからジッとしてろよ?」
「なんだよ〜そんなのがあるならもっとビシッとキメてきたのに!綺麗に撮ってくれよ?魔界中に俺の美貌を知らしめてやらねえとな!」
「シャイニング…」
「ん?」
「ゴッド…!!」
「ちょっ…!?」
魔王を中心として魔素が揺らぎ、磁場が発生し、時空が歪む。
カペルコは机の陰に隠れつつ胸の中で十字を切った。
「ブレイカァァァァァアアアアアア!!!!!」
「おわああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
言ってみればそれは単なる正拳突きであった。
だがその振り抜かれた拳は周りの魔素を、空間を、干渉し得るあらゆる物を巻き込んで衝撃波を発生させてエフレナを襲う。
轟音を立てて魔王城の壁面が破壊され、エフレナは空の彼方へと吹っ飛んで行き、光り輝く星となった。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「…」
「…」
「…魔王様」
「うむ」
「修繕作業が…」
「…すまん」
「いえ、良いんです…責めている訳では無いんです…」
ただ、虚しいだけなんです…
カペルコの呟きは、二人が見つめるその先。
壁にポッカリと空いた穴の向こうに広がる、澄んだ空に吸い込まれて消えていった。
続
――――――――――
※1 シャイニング・ゴッド・ブレイカー
魔王が叫んだ技名だが、別に決まった名称がある訳では無く完全にその場のノリで決めて叫んでいる。
エフレナはお星様となったがしっかり生きている。ギャグ小説なので。
因みにこの技名は作者が『こんな技があったような…』と思ったものだが、改めて調べるとシャイニングゴッドフィンガーだった。惜しい。




