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御一行、入城す 下

「お、王様。これは…」


ビラを見てわなわなと声を震わす宰相、プルゴス。

いちいち声をかけるのが面倒になったので、ウェーロが途中で魔界中にバラまく為に作ったものだ。


「うむ。これは…」


アニエス国王、ヒュブレニアスは険しい表情でビラを見つめる。

紙の質感を入念に確認するように、指先で慎重に文字をなぞった。


「ほんのりと温かい…」

「王様」

「冗談だ」


王はビラを卓上に置くと、その文面を見つめて深くため息をついた。


魔王が人類に宣戦を布告する決起会


完全に油断をしていた。

現状人間側と魔族側の交戦は少ない。局所的に小競り合いはあるが、それは軍という単位での話ではなく個人や、せいぜい村程度の規模の話だった。

或いは資源や素材を求めて敵地に侵入し、そこで戦闘が発生する場合だ。

その行為自体を諫めることは難しい。なぜなら我々は『人類』で、彼等は『魔族』である。

どうしようもなく敵同士であるお互いが、己の利の為に戦うことは一つの自然の摂理とさえ思える。


だがしかし、魔界の新たな王となった男、ロムレクスは争いを好まないとの事だった。

実際に彼が王となってから人類と魔族の争いは日に日に減少し、軍には暇が出るほどだ。

ヒュブレニアスとしてもその事は喜ばしく、将来的には融和の道さえ拓かれるやもしらんと考えていた。


そして、果たしてその前提は覆された。

相手はこちらを欺いていたのだろうか?

一体どこまでが策略だったのだろうか?

思えば目の前の魔族が今ここにいる事も、そしてわざわざこうして思惑を伝えに来たことも、何か意図があっての事だろう。

まさかブラブラと空を飛んでいてたまたま敵の最重要拠点に突っ込んでくる馬鹿はいないだろうと思った。


「ウェーロ殿、いくつか質問がある。よろしいか?」

「うん?いいよ」

「まずこのビラ。この内容は、本当か?」

「うーんと、うん。決起会自体は他の四天王が企画したんだけど、魔王もそこに出る予定らしいよ」


この時のウェーロは魔族集めだけ指示されていたので、決起会の内容を具体的にはよく知らない。

知らない事を知らないというのも癪なので、とりあえずウェーロはそれっぽい事を言って知ってる風を醸し出すことにした。


「なるほど。して、始まるのは何時だ?」

「午後4時からだから、もうそろそろ始まるんじゃない?」

「規模はどの程度だ?」

「数万は集まるんじゃない?なんせ私が一生懸命頑張って声をかけて回ったからね」

「このポロリというのは?」

「ふふふ」


ウェーロは目を細めて笑うと、口元を隠すようにして左手の親指を唇で挟んだ。


「…知りたい?」


ペロリと煽情的に指に舌を這わせるウェーロ。

国王に(たぎ)る熱き血潮が、右の鼻の孔からドロリと流れ落ちた。


「王様」

「皆まで言うな、分かっている」

「私には王様が何を分かっておられるのかが分かりません」


汗を垂らすプルゴスの隣で、メイドが甲斐甲斐しく鼻ぽんを作って国王に詰めている。

作業が終わると、国王は由々しき事態だと言わんばかりに重々しくため息を付いた。


「…魔王軍が進軍を始めるのは、いつからだ?」

「う、う~んと、この決起会も突発的なものだし、少なくとも準備に1か月はかかるんじゃない?」

「い、一か月…」


プルゴスは血の気の引いた表情を更に青褪めさせた。


実際のところ、ウェーロは魔王が戦う事に消極的なのは知っている。

今回のドルスの案に乗ったのには諸々の理由があるが、一言で纏めるならば『面白そう』だったからだ。

魔王が今回の事態を乗り切るならばそれでも良し、流れに押されて開戦となるならば、魔族としての矜持に生きるまで。

仮に開戦となったならば、魔王がやらずともドルスであればそのぐらいの時間で軍をまとめあげるだろうか、と思った。


「お、王様。こちらもすぐに軍を編成いたしませんと…!」

「それは無論だ。だが…」


こちらが万全の状態を整えたとして、仮に魔王軍と人間軍が戦端を開いたとしよう。

その先に待っているのは、長く続く戦乱だ。

果てしなく終わりの見えない殺し合いである。

戦いになれば勝つ為にありとあらゆる策を練るが、最上の策は戦わないことであった。


「…勇者は今どこにいる?」

「は、ゆ、勇者ですか?」

「勇者を魔王城へと向かわせて魔王を説得させる。いざとなれば、打ち倒す」

「し、しかし…」

「『加護持ち』だ。万が一があった場合でも、何とかなるだろう」


国王は立ち上がると、大声で伝令を呼んだ。


「すぐに勇者をここに呼べ!また、大規模な軍事演習を実施する。準部期間は3週間だ!すぐに各師団長に伝えろ。走れ!!」


弾かれたように動き出す伝令。

室内に静けさが戻ると、国王はどっかりと座り直した。


「王様、軍事演習というのは…」

「勇者が事を収めるのならばそれが最上だ。無用な混乱は避けなければならん」

「しかし、そもそも魔王城に到達するまでが険しい道のりかと思いますが…」

「なら私が案内してあげようか?」


話に割って入ったウェーロに、国王と宰相は顔を向けた。


「どうせ私も城に戻らなきゃいけないしね。乗り掛かった舟だし、付き合ってあげるよ」

「む…いやしかし…仮にも敵側の幹部の力を借りるなど…」

「そんな細かい事言ってる場合じゃないんじゃない?魔王上に着くまで、きっと私に頼るのが1番早いよ?」


ウェーロは机に身を委ねるように上半身を預けると、潤んだ目で上目遣いに国王を見た。


「それとも、私の事は信用できない?」

「出来る」


国王の鼻ぽんが赤く滲む。


「王様」

「皆まで言うな、分かっている」

「恐れ入りますが、鼻ぽんを詰めた状態で仰られても説得力も威厳もありません」

「くどいぞ。この件での最低条件は少なくとも一か月以内に勇者を魔王城に向かわせる事だ。間に合わなければ話にすらならん。ならば魔界側に通じる者の手引きが一番確実であろう…お前今威厳が無いって言ったか?」


国王は鼻ぽんを交換した。

確かにこの計画は危うい。敵の本拠地に乗り込むことに加え、その頼りにするのもまた敵側だ。

しかし、国王はこの5年で争いが減ったという事実と新魔王が穏健派だという情報、そこに賭ける事にした。


「それにたとえ何らかの計略があったとしても、そもそも四天王ごときに遅れを取るようでは到底魔王には勝てまい」

()()()?」

「若くて美しいちょっとエッチなお姉さんに遅れを取るようでは到底魔王には勝てまい」


ウェーロはそれを聞いてにんまりと笑みを作る。

プルゴスはもうツッコミを入れるのはやめようと思った。


「では、ウェーロ殿。直に勇者がこちらに到着する。それまではお待ち頂くが、魔王城への案内をお願い出来るだろうか?」

「うん、いいよ。その代わり…」


ウェーロが(おもむろ)に立ち上がって国王に近付く。

護衛の間に緊張が走ったが、国王がそれを制した。


ウェーロは国王の傍まで寄ると、肩に手を置き、顔を間近に寄せて耳に吐息を吹きかけた。




「お小遣い、いっぱいくれたらね…」




勿論だ。

厳粛な面持ちでそう答える国王の左の鼻の孔から、(ほとばし)る熱き血潮が吹き出した。





――――――――――






「…って訳さ」

「よし、話は終わったな?」

「ちょっちょちょ、ちょっと待って!!魔力を練り上げるのはやめてよ!!」


カペルコは魔王の周りの時空が歪んだのを確かに感じた。


「ごめんって!反省してる。なんなら、責任を取って四天王の座を降りるから…」

「四天王なら、もう解散したっ…!!」

「えっ?初耳なんだけど」

「ウェーロ様、魔王様がナメクジみたいなメンタルになるのでその話は蒸し返さないでください」


話の収拾が付かなくなるので、カペルコが2人の間に割って入る。

そのまま、眉尻を下げてしょぼくれている勇者に話を向けた。


「それで勇者様はこちらに来られたのですね」

「そうです…」

「その時はどちらにいらっしゃったのですか?」

「原始の大樹林に…」

「原始の大樹林…ってどのあたりでしたっけ?」

「人間界側からだと中盤ちょっと過ぎあたりじゃなかったか?」

「そうです…」

「そこから城に一旦戻るのも大変ですね」

「その点については私のルーラがありますので。一旦訪れた場所なら即座に移動が出来ます」


僧侶が話に割って入った。


「ルーラが使えるのか!結構な高等魔法だよな?」

「ふふ、恐縮ですわ」

「という事は…ラストダンジョンまで出入り自由になってしまいましたね」

「あ~それはまあそうだが、序盤からラスダンに挑めるゲームも多いから問題ないだろう。ゼルダBoWとかもそうだし」

「そういう問題でしょうか…」



多少話が脱線したが、何となく話が読めてきた。

つまりこの勇者一行は魔王城に向けて冒険をしていた所、突如上司に呼ばれてラスボスと戦ってこいと言われた訳である。

敵ながらに気の毒な話であった。


「まだ中盤だからレベルも装備も全然整ってないし…ウェーロさんに連れられて魔王城まで来たのはいいけど、『先に行って魔王に挨拶してくる』って空を飛んで行った途端に周りの魔族が襲ってくるし…」

「あ~、だからトイレに立てこもってたのか」

「扉を蹴破られた時には死ぬかと思いました…」

「ワシだって命の危機だったよ。職場でうんこ漏らしたらもう魔王辞めると思う」

「そんな情けない理由で軍の最高責任者を辞めないでください。数日間は気まずいとは思いますけど」

「でも確かに装備はちょっと心許ないが、その剣は?聖剣だよな?」

「僕のレベルが上がると鍛冶屋で強化してもらえるやつなんです…」

「あ~そういう感じのシステムか。聖剣伝説2みたいな感じだな」

「FFXIIIって言った方が伝わるんじゃないですか?」

「もう新しいゲームには付いていけないのよワシ」

「もうじき発売から20年になりますけど…」


そんなやり取りをしている間に、ウェーロはこそこそとカペルコの陰に逃げ隠れる。

おおよそ聞きたい事は聞き終わって話が途切れた所で、動く者がいた。


勇者が徐に立ち上がり、背中の剣を魔王に向けていた。


「…聞け、魔王よ!俺は勇者!人類の笑顔を守るため、子供達の未来を守る為、今日この場にやってきた!お前の数々の悪逆非道を許す訳には決していかない!神の名の下に、お前を討つ!!」














ふいに、

魔王がその服を翻し、勇者を見て不適に笑った。


「くくく…まずはここまでよく辿り着いたと誉めてやろう。だがお前に待つものは安寧でも栄誉でもない、死だ!この魔王城で倒れ、朽ち果てるがいい、勇者よ!」


砂埃が吹き荒れる程の覇気を発し、魔王が答える。



「カペルコ、見てごらん」


カペルコの肩を抱くようにして、ウェーロが耳元で囁く。


「あれが、プロだよ」

「はあ…」


カペルコは1ミリも納得出来なかった。


「ほざけ魔王!俺はお前を討ち果たさなければならない!お前を殺して…!」

「くははは!ならばその力、存分に見せてみろ!勇者よ!!」

「俺も死ぬ!!!」

「くはは…待って、ちょっと待って一旦ストップ」


魔王は身に纏わせていた覇気を抑えて、涙を吹き出す勇者を()()()()と落ち着かせる。


「なんだって?ワシを殺して?」

「俺も死ぬ!!!」

「いやちょっと待って。そんな元気よく、修学旅行の掛け合いじゃないんだから」

「もう俺は生きていてもどうしようも無いんだ…!願わくば相打ちで討ち死にする!さもなくば俺を殺してくれ!!」

「いやちょっ…待て待て。落ち着いてくれ。どういう事なんだ?」


魔王は他のパーティーメンバーに説明を求めるが、皆顔を背けるか曖昧に苦笑するかのどちらかである。

そんな様子を見かねて、カペルコは勇者にハンカチを渡してやった。


「勇者様、落ち着いてください」

「ううっ…うっ…ごめんなさい、ありがとう…」

「まずそもそもなんですが、私達が戦う必要は無いかと思われます」

「…えっ?」

「決起会は行われたのですが、色々あって最終的に人間界への侵攻は無くなったんです」

「まあ正確に言えば先延ばしになっている状態だが、少なくとも暫くは侵攻する事は無いと思うぞ」


魔王とカペルコの言葉を聞いて唖然とする勇者。

手に持っていた聖剣が、カランと音を立てて地面に転がり落ちた。


「じゃあ…今回俺達がここに来たのは、無駄足だった、って事?」

「まあ…そう言われれば、そうなります」

「魔族を代表するものとして詫びを入れよう。すまなかった」


魔王が頭を下げる様子を勇者は茫然と見ていた。

そして、この魔王城に至るまでの出来事を靄のかかる頭で思い返していた。






――――――――――






「はあ……」


勇者は王城の控室で、ため息をついていた。


冒険はスムーズと言える訳では無いが順調だった。

堅実に魔物を倒し、各々をレベルアップさせ、得た所持金で武器の強化とアイテムの購入を行う。

旅路を急ぐ必要が無かったのは、昨今の人間界と魔界の情勢が非常に安定しているからであった。

もしかすると魔王を倒す必要さえ無くなるかもしれない。そうしたら勇者はお役御免だな、そう冗談を飛ばす事さえあった。


そう、先程までは。

ダンジョン攻略中に突然駆け付けた城からの使いによれば、魔王が人間界に攻め込むつもりでいるとの事らしい。

勇者達からすれば寝耳に水だった。

攻略は中止して急遽城に戻り、今から詳しい説明を受ける事になっていたのだ

勇者達5人は控室に集められ待機していたが、その表情は皆一様に暗い。


「…私達、どうなっちゃうの…?」


俯いた魔法使いがポツリと口にした。その声は震えており、今にも消え入りそうだ。

剣士が心配そうに寄り添い、魔法使いの背中を優しく撫でる。


「魔法使い…」

「今から魔王と戦えって言われるんでしょ…?無理だよそんなの…。私達のレベルで、勝てっこないじゃん…!」


感情が爆発しそうな魔法使いに、僧侶も近付き優しく寄り添った。


「まだ戦うと決まった訳ではありませんよ。あちらの状況もハッキリとはしていませんし、敵方の四天王の方も好戦的では無いようです。話し合いの道を模索する事がきっと出来るはずです」

「新魔王も戦闘を好むという噂ではなかったからな…だがそれが本当であれば開戦など起こらないはずだ。それがこうなったという事は俺達が想定しない事実があるという事だ…」


忍者は他の4人とは少し離れた場所から呟くように、しかしハッキリと聞こえる声でそう言った。


「当然戦闘も覚悟しておくべきだろう…」

「そんな…」

「…皆、ちょっといいか?」


勇者が4人に声をかける。

4人は勇者に注目した。


「何…?」

「どうしても伝えておきたい事がある」


そう、どうしても今伝えておかなければならない事がある。


本来ならば、それは今では無かった。

冒険の途中で芽生えたこの気持ちは、もっと先にあるべき、世界の命運をかけた戦いの直前で伝えるつもりだった。

或いはその道中で、気持ちを胸に秘める心変わりがあったかもしれない。


ただこの"今"に関しては。

この思いを伝えなければ、その機会は二度と訪れないかもしれない。

後悔は、したくなかった。

勇者は自身を奮い立たせるように深呼吸すると、意を決して口を開いた。



「魔法使い」

「…何?」

「好きだ」

「え…」

「魔王との闘い。無事に帰ってこれたら、結婚してほしい」

「え…?」


魔法使いは戸惑ったように瞳を揺らし、逡巡した後、答えた。


「嫌だけど…」










   嫌?










「ん…?ん?嫌?」

「普通に嫌なんだけど…」

「普通…?普通って?大か小かで言えば中くらいって事…?」

「絶っ対に嫌なんだけど…」

「あ…あれ?あれれ?」

「っていうかごめん。なんでこのタイミングなの?急に言われても困るんだけど」



なんで…

なんでって?

そりゃだって急に魔王と決戦だって言われたから…

もう生きて帰れないかもしれないって空気だったから…



「えっと…」

「もしかしたら魔王と対話で済むかもって話じゃん。それにそもそも、私と勇者はそういうんじゃないって言うか…」



そういう…

そういうんじゃない?

だって、魔法使いは普段からいつもフランクに話しかけてくれたし…

勇者は優しいねっていつも言ってくれたし…

なんかすっごいボディタッチ多かったし…

僧侶の方がおっぱいは大きかったけど…

装備とかアクセサリーとかもいっぱい買ってあげたし…

いつも笑顔で、一緒に話してて楽しかったし…





「…勇者」


ポン、と肩に手を置かれて振り向くと、剣士が気まずそうに勇者を見ていた。

そのまま魔法使いの元に向かうと、魔法使いの方から剣士に駆け寄っていって腕にしがみ付いた。


「…すまん。本当にすまん。いつか言おう、いつか言おうと思ってたんだが、なかなか言い出せなくて…」



剣士。

勇者と最初期から旅を共にした仲間であり、数々の死地を乗り越え多くを語らったその友人は、気遣いが出来て女性に優しい名家出身のイケメンだった。







なるほどなるほど。

そうかそりゃそうだよねお前たちオフの日とかよく一緒に遊びに行ってたもんね。

二人で出かけるのに着いて行こうとしたら忍者に引き止められた事なんかもあったっけね。

夜番(寝ずの番)とかもなんだかお前たち二人がペアでやる事多かったっけね。

逆にこっちが夜番の時に二人は一体何をしていたんだろうね。




魔王と戦おう。

戦わずに済むのならそれに越した事はないのだろうけど、その必要があれば、決死の覚悟で戦おう。

そして死のう。

勇者はこれから始まる魔王城への行軍が、どうかこの世界の未来にとって意義のあるものになるように願った。






――――――――――






「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」

「うおっびっくりした」


勇者は叫んだ。

そして崩れ落ちた。

その表情は筆舌に尽くし難いものだったが、文字を使って表すと以下のような感じであった。



挿絵(By みてみん)




「…ちょっといい?」


魔法使いが勇者に歩み寄る。涙でぐずぐずになった顔を上げ、勇者が魔法使いを見た。


「私からも、実は勇者に伝えたい事があったの」

「魔法使い…」


魔法使いは勇者の傍まで行くと、腰を落とし、勇者と同じ目線になって、言った。



「私、あんたのそういう所が嫌いなの」

「え」

「すぐ泣くし、しょっちゅう喚くし、空気読めないし、ホント最悪」

「は」

「優柔不断だし、デリカシー無いし、気は小さいし、脇汗は臭いし…」

「魔法使い…!」


剣士が弾かれたように飛び出して行って魔法使いを優しく制した。


「その…もうやめてやれ…」


魔法使いはため息を付くと、立ち上がって魔王を見る。


「人間界への侵攻はしない…って事で、良いんですよね?」

「は、はひ…そのつもりですぅ…」

「魔王様、圧されないでください」

「じゃあ、私達は帰ります。早く戻って王様に報告をしないといけませんので」


そう言って一礼をすると、足早に扉へと向かう魔法使い。

剣士はその場で暫く逡巡していたが、結局勇者には声をかけずに魔法使いの後を追った。



バタン。



静まり返る玉座の間。

忍者が呆然と固まる勇者の元に歩み寄ると、勇者の肩を優しく叩いた。


「…泣きたい時は、泣け…」


勇者の心を()き止めていた堤が、崩れた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


勇者は、泣いた。

その表情は筆舌に尽くし難いものであったが、仔細については省略させてもらう。






――――――――――






「落ち着いたか?」

「はい…」


魔王は涙と鼻水でびしょびしょなのも気にせず、勇者の手を取って立ち上がらせてやった。

結局あの後、魔法使いと剣士の後を追って忍者と僧侶も部屋を出て、先に王城へ帰っていった。

『…今は一人にさせてやった方がいいだろう…』とは忍者の弁。

『勇者様の事、よろしくお願いいたしますね』とは僧侶の弁だ。

因みにウェーロは帰るに帰れなかったようで、今は応接用のソファに横になって寝息を立てていた。


「まあなんだ…これも何かの縁だ。何か辛い事があったならいつでもワシに相談してくれ。話を聞くぐらいは出来るだろうからな」

「魔王…」


魔王は再び勇者に手を差し出す。

勇者はその手を暫く見つめると、少し表情を崩して、ガッチリと掴んだ。


「あんた…良い奴なんだな」

「ああ、ワシはこの世の全ての非モテの味方だ」

「魔王様、余計な発言のせいで台無しです」


カペルコは呆れたようにため息をついた。


しかし今、カペルコの目の前では魔族の長と人間の代表が固い握手を交わしている。

魔と人が真に交わる事など遠い未来の事と感じていたが、それは案外すぐ傍にあるのかもしれない。

二人の姿を見ていると、カペルコはそう感じる事が出来た。

まあ、今回の件に関して魔王は特にこれと言った活躍はしていないのだが。


「そう言えば名を聞いておらんかったな。ワシの名はロムレクス。お前は?」

「ロムレクス…俺の名は、ポコヒロ」


泣き腫らした顔は真っ赤だが、しかし晴れやかな笑顔で勇者は言う。

それを見て魔王は、ふっ、と笑った。


「名前ださ」











その後、怒りよって覚醒した勇者と魔王との戦いは三日三晩に及んだ。

玉座の間をもう少し広くしておくんだった、とカペルコは後悔したとかしないとか。




【御一行、入城す】

当作品は全国のポコヒロ様を蔑ろにする意図で執筆されたものではありません。

もし気分を害されたポコヒロ様がいらっしゃいましたら、深くお詫びを申し上げます。

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