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四天王急募(事務職経験のある方優遇) 4(了)

「採用してくれてありがとうございます!未熟な点が多いと思いますけど、精一杯頑張ります!」


結局、なんやかんやでアネエルは正式に四天王として即時採用される事となっていた。

カペルコは諦念の境地に至ったような表情でその言葉を聞いている。


「でも良いんですか?今受かったばかりなのに、面接に参加させて貰えるなんて…」

「…最早アネエルさんも四天王の一員ですから、今後、共に働く者を知っておいた方が良いという魔王様の判断です」

「わあ…!魔界はとても寛容な考え方をするんですね!」

「魔界全てがそうという訳では無いのよ?ふふふ…」

「モナさんのそれは一体どういう立場からの発言なんですか…」


最早心身共に限界が近いカペルコだが、職務は全うしなければならない。

気力を振り絞ると、モナの向こう側に座ったアネエルに声をかけた。


「では…アネエルさん。今後ともよろしくお願いいたします」

「お願いします!カペルコさん、モナさん、魔王様!」

「そういえばなんですが、待機してる時にガラの悪い赤髪の女性に絡まれたりしてませんか?」

「あっ、なんだかスゴい至近距離で睨んできた人がいましたけど、ニッコリ可愛く笑ったら舌打ちしてどこかに行きました!」

「私の所にも来ましたけど、微笑んで軽く会釈したら舌打ちしてどこかに行きましたね。ただ他の応募者の方にも絡んでいたようですが…」

「そうですか…」


分かってはいた事だが、やはりエフレナが裏で何かやっていたのは確定的と見ていいだろう。

今のを聞いて魔王はどう反応するのかと思ったが、何か様子がおかしい事にカペルコは気付いた。


「魔王様、どうかされましたか?」

「百合に挟まれておる」

「は?」

「百合に挟まれておる」


意味不明の発言をする魔王は、どことなく萎んでいた。


「いやあの…少なくとも私達は百合では無いと思うのですが」

「この部屋に漂うピチピチの女子力に板挟みになっておる」

「四天王を女性陣で固めたいと言ったのは魔王様ですよね?」

「確かにそう言ったが今気付いた。もしもそうなってたらワシは何とも言えぬ肩身の狭さに苛まれて死んでいた」

「ええ…どんだけめんどくさい魔族のトップなんですか」

「あのお…」


魔王とカペルコのやり取りに、アネエルが割って入る。

自分の事を指差すと、ニッコリと可憐に笑って言った。


「ボク、男ですよ?」

「は?」

「よく間違われるんですけど、男なんです」


数秒、沈黙。

呆気に取られていた三人だったが、魔王が興奮したように席を立った。


「うっ…うおおおお男の娘だーーーっ!!!とんでもないクオリティの男の娘だーーーっ!!!」

「魔王様、キモイので死んでください」

「あっ辛辣!ここに来て記録の更新が止まらない!」

「でも本当に見た目は完全に女の子よねえ…ちょっと触ってみてもいい?」

「いいですよ!」

「わーやめろ!絵面がものすごい犯罪臭になっとる!」

「そんな事言って何カメラ構えようとしてるんですか!」


わあわあと喧しい玉座の間は、落ち着くまでに暫しの時間がかかった。





――――――――――





「じゃあ……………………次の方をお呼びしますね」

「か、カペルコ。ワシが言うのは本当に何なんだが、大丈夫か?」

「問題ありません。最後の1人、やり遂げてみせます」


息を切らしながらそう言うカペルコの目は、血走っていた。


「…では次の方、どうぞ!!」


どんな魔族が来ても真摯に対応してみせる。

カペルコは決意を込めて最後の応募者を呼んだ。
















「にゃーん(失礼します)」

「う、うお~猫だ。可愛い~」

「わ~とっても可愛いですね」


最後の面接希望者は、猫だった。

体重5キロぐらいで雑種っぽい白黒ハチワレの、猫だった。


「なぉ~ん。んなぉ~(今日は面接よろしくお願いします) この部屋寒っ」

「今何か喋ったか?」

「この猫ちゃんの方から聞こえませんでしたか?」

「まさか猫が喋る訳なかろう。もしそうなら天才猫として売り出せるぞ」

「それもそうですね。撫でてみても大丈夫でしょうか?」

「ぐるるるぅお~ん(可愛い女の子なら大歓迎です!)」

「わ~とっても大人しい。可愛い~」

「カペルコさんにすっかり身を委ねてますね。ふふ、微笑ましいわ」

「何か食べさせられるものあったかな。ちょっと見てくる」

「ちょっ…ちょっと待ってよ」


猫にメロメロな男1女2に声をかけたのは、アネエルである。

彼は今この場に自分が留めさせられた意味を、その肌で理解していた。


「か、カペルコさん?その子は猫だと思うんだけど」

「猫ですが、何か?」

「いやそんな人気ラノベタイトルみたいに。し、四天王の面接にはそぐわないんじゃないかなぁ?」

「この期に及んで今さら猫の1匹や2匹、何か問題がありますか?」


どこからともなく出したねこじゃらしで猫と遊ぶカペルコ。

アネエルは人の心が壊れる瞬間に人生で初めて遭遇した。


「おーい、鰹節があったぞ。食べさせてみるか」

「駄目ですよ人と同じものは。猫用の減塩タイプじゃないと」

「む、そうなのか…しっかし可愛いな~。ちょっとワシにも撫でさせてくれ」

「………シャーーーッ!!」


猫は魔王が伸ばした手を思い切り引っ掻いた。

魔王は手の甲に付いた薄っすらと血の滲む傷を、無表情で見つめている。


「ブヴーーーッ!!(おっさんが気安く触んな!)」

「痛い」

「魔王様、泣かないでください」

「まだ泣いてないもん」

「はあ…本当に仕方ないですね、ちょっと待ってください…」

「ヒール」


モナが魔王の手を取り呪文を唱える。

聖なる光が優しく包み込み、たちまちに引掻き傷は消えていた。


「お、おぉ~流石元僧侶!モナさん、ありがとう」

「ふふ、お粗末様です」

「モナさんがいてくれると怪我とかしても安心だなあ…」

「元僧侶の身で恥ずかしいのですが、聖魔法はあまり上達しなかったんです。あまり過信しないでくださいね?」


そんな二人のやり取りを、スン…と無表情で眺めるカペルコ。

アネエルはカペルコが絆創膏を取り出す所を見ていたが、どうフォローしていいのか分からず黙っておいた。


「ええと…魔王様、どうされますか?」

「う~ん    採用」

「にゃーん!(ありがとうございます!)」

「わ~嬉しそう。本当に可愛らしいわ~」

「ちょっ…ちょっとちょっと!ちょっと待ってよ!」

「どうしたアネエル。ザ・タッチみたいな事言って」

「古いよ!いやそうじゃなく、猫が四天王なんておかしいよ!仕事だって出来ないでしょ!?」

「猫は可愛いのが仕事と言いますから」

「うむ、それにモナさんとアネエルが優秀そうだからな。癒し枠が一つ入ってもよかろう」

「あら、癒し枠というなら元僧侶の私ではありませんか?」

「そうか。なら可愛い枠だな」

「いや、可愛い枠はボクでしょ?…じゃなくて!」


アネエルは机の上の用紙を掴むと、3人+1匹に向けて差し出した。


「…せめてテストは公平にやるべきだよ!皆がやった音読、これが出来なきゃボクは認められない!」

「な、なんと大人げない…」

「ふ~ん何とでも言ってよ。さ、猫ちゃん。これを読めるものなら読んでみなよ」


アネエルが床に置いた用紙に近づいて、ジッと見つめる猫。

暫し流れる、静寂。



後ろからこっそりアテレコしてやろうかと魔王が思った矢先、猫が口を開いた。


「…後で聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を()かまえて煮て食うという話である。しかしその当時は何という(かんがえ)もなかったから別段恐しいとも思わなかった」

「しゃ、喋ったぁぁぁぁ!!!」

「まさかの津田健次郎ボイスでした。とても渋くて格好良かったです」

「あら、爪で何か引っ掻いて…フェレス?というのがこの子のお名前かしら?」

「なおぉ~ん(この程度で俺を試そうなんて、嬢ちゃんもまだまだ甘いな!)」

「う、うお~本当に天才猫だ。テレビに投稿した方がいいかもしれん」

「それは一先ず置いておいて、アネエルさん。こちらで納得していただけますか?」

「………う………うん………そうだね………」

「だそうです。良かったですね、フェレスさん」

「にゃぉーん!(これからよろしくな!)」

「もう一回触ろうとしたらまた引っ掻かれるかな?」

「いきなり上から行くからダメなんですよ魔王様。まずは握り拳を作って、匂いを嗅がせるんです」

「なるほど、こうか?」

「フシャーーーッ!!(おっさんが俺に触ろうとするな!)」


そんな騒がしいやり取りを、アネエルは諦念を込めた視線で眺めている。

さっきまでのカペルコはこんな気持ちだったんだろうな、としみじみと思った。





――――――――――





「では、失礼いたします」

「これからよろしくね!」

「にゃん!(次はちゅーるでも用意しとけよ!)」


結局フェレスも採用となり、最後の三人は全員合格となった。

三者三様の言葉で、それぞれ玉座の間を後にする。


後には魔王とカペルコ、そして数刻ぶりの静寂が残された。



「なんとか無事に終わったなあ…」

「無事…?と言っていいかどうかは分かりませんが、少なくともバランスは良くなったでしょうか…」




元勇者パーティーのおっとりお姉さん系僧侶

魔法少女系推定天使の自意識高め男の娘




果たしてこれはバランスが良いと言えるのだろうか?

カペルコは自分で言ってから、自問自答した。


「そういえば、結局三人しか集まりませんでしたが…」

「そうだなあ…カペルコ、お前四天王やるか?」

「上司との恋には若干抵抗がある方なので、遠慮しておきます」

「…欠番にしておくかあ…」


この先どうなる事やら。

しゅんと落ち込む魔王を横目に、カペルコはそう思った。

ポケットの中の絆創膏は今後使い道が有るのだろうか、とも考えて。






















「では、私はここで」

「うん!ボクもこっちだから。バイバイ!」

「んなぉ〜ん(車に気を付けろよ!)」

魔王城を出た三人は、それぞれの帰路につく。



モナは口に薄い笑みを浮かべていた。

魔王軍への潜入は、思いの他上手くいった。

彼女が国王から与えられていた任務は、魔王とその周辺の監視である。


魔王軍は人間界への侵攻を止めたというが、その実情は酷く脆いものだ。

前回の騒動は確かに魔王の判断では無さそうだが、それは裏を返せば人間界への侵攻を望む者がいるという事である。

あの強大な力を持ちながら優しい心を持つ魔王が、果たしてそういった思惑を全て跳ね除けられるかと言えば甚だ疑問だった。


そんな折の四天王募集だ。タイミングが良かった。

また、前四天王のエフレナの姿があったのも非常に好都合だった。

機を見て彼女と接触すると、今回の四天王は事務系の能力を優遇する方針だが、自分達が受かるにはそういった者が減れば良いだろう、と遠回しに伝えた。

結果、単純なエフレナはモナの思惑通りの行動を取る。

エフレナが自身の採用の可能性を高める為に取った行動は、その実モナの採用の可能性を高める行動でもあった。


一先ず、目論見は達成した。

今後の任務が監視だけで終わるならばそれでいい。ただこの先どのような任務があろうと、モナは遂行するつもりでいる。

モナが従うのは、国王ヒュブレニアスだ。

そして、正しきこの世の姿の為に彼女は動く。


しかし、イレギュラーが発生したのもまた事実だった。

魔王軍の中枢に潜入を果たした、天使。

天界からの使いがどのような思惑でここに来たのか、それはモナには窺い知れない。


まあ、問題は無いだろう。

こちらの邪魔さえしてくれなければそれでいい。

最悪、排除すれば良いだけだ。

モナは自らの得物である聖杖(せいじょう)を後ろ手に持って、帰路をゆったりと歩いていた。





――――――――――





「ふんふ~ん♪」

アネエルは上機嫌で空を飛んでいた。

天界神からの言いつけは一先ず守れそうだったからだ。


魔王軍が人間界に進軍をするという情報は、天界にまで届いていた。

結局のところ戦争は始まらなかったが、しかし物議が醸される。

天界は人間界と魔界、合わせて現界の秩序を守る事をその使命のうちの一つとしている。

現魔王ロムレクスは穏健派だという話であり、なれば暫く先は大きな大乱は起こらぬだろうと思っていた所での騒動であった。


監視と介入が必要、それが上層部の判断だ。

では誰を魔界に送るかとなった所で、アネエルは手を上げた。


「…本当に大丈夫?」


年老いた天界神ははじめてのおつかいに向かう孫娘を心配するようにアネエルを見た。

天界を出た事の無いアネエルではあったが、人の懐に潜り込む自身はあった。可愛い自覚があるし。


「うーん…じゃあ、試しにこれに応募してみい」


と言って、神はアネエルに四天王募集の要項を見せる。

パソコンを(神目線では)自在に使いこなせるアネエルなら、取り敢えず条件はクリアするだろう。


「もし受かったらこちらに連絡を入れる事。あと天使だって事は絶対にバレないようにの?」


ま、そもそも受かる事も無かろう。

そんな神の思惑は、しかし外れる事となった。色々と。




アネエルは魔王軍に潜入を果たした。

天界ではなかなか自らに役割を課してもらう事が出来なかったが、それももう終わりだ。

ここでしっかりと役割を果たせば、褒めてもらえるし、地位も向上するし、良い事づくめだ。

何より、堅苦しくて娯楽も何も無い天界に居続けなくて良い事が嬉しかった。

食べ物屋やスイーツ屋等、あれ程の店舗がズラリと並ぶ場所など天界には無い。

目下アネエルが楽しみにしているのは、今魔王城下に建設中である遊園地の完成である。


しかし懸念事項はある。

同じく四天王入りを果たした、あの猫。

注意深く観察すると、普通の猫には無い魔力が滲み出ているようだった。

まあ言葉を発する時点でただの猫では無いとも思うが…


まあ、良いだろう。

四天王再カワの座だけは死守しなければならない。

彼女は決意を固めると、鼻歌を歌いながら天界神に事の次第を報告しに行った。





――――――――――





にゃにゃにゃ…

フェレスは日当たりの良い石畳の上で毛繕いをしていた。

彼はケット・シーという、猫型の魔族であった。


愚かな魔族に取り入る事は簡単であった。

自らの愛らしさを全面に押し出せば大抵のバカは()()()である。

1人簡単にはいかなかった者もいたが、少し知性を見せてやればなんとかなった。


彼の野望は、世界征服だ。

現状ケット・シー、ひいては猫族は、愛玩動物という地位に甘んじている。

だが、その実態を見れば猫が魔族を支配しているのは明らかである。

彼らは猫の為に働き、食事を用意し、寝床を用意し、糞便を嬉々として片付けるのだ。

その関係性は、どう考えても猫が主人であると言わざるを得ない。


だから、四天王に潜り込んだ。

そして軍のトップである魔王を(たら)し込み、猫狂いにさせ、こう宣言させるのだ。

『我々は猫の為に生を捧げる奴隷である!』と。

猫を名実共に生態系のトップに君臨させる事が、フェレスの夢だった。


その為には魔王に近付かなければならなかったが、今日は失敗をしてしまった。

むさいおっさんに撫でられるのが嫌で思わず引っ掻いてしまったのだ。

まあ挽回は出来るだろう。それには外堀を埋めればいい。


フェレスは今日いた面々の中で、羊のような髪の毛の女を思い出す。

フェレスの事を気に入っていたようでもあったが、彼は女が魔王を見る視線に注目していた。

あの女は多分魔王に気があるな…それがフェレスの野生の感である。

彼女から魔王に便宜を図ってもらえれば、まあ何となく上手くいくだろう。


その為にどうするか具体的に考えようとしたが、しかし思考はまとまらず瞼が重くなる一方だ。

考え事をするにはちょっとお日様が暖かすぎて、ついにフェレスはその誘惑に負けた。

一眠りしてから考えるかにゃ…

フェレスは丸くなると、愛くるしい寝息を立てて眠りについた。






こうして様々な思惑のもとに、魔王軍には新たなる四天王として2人と1匹が再編された。

紆余曲折あったが、ただ一つ確実に言える事はこの溜まった書類を片付ける人員が増えるという事だ。




でもとりあえず、今日は帰って寝よう…




一日中ツッコミを入れて肉体的にも精神的にも限界のカペルコには、帰りがけに天下一品のラーメンを食べるのはあまりにも重すぎた。




【四天王急募(事務職経験のある方優遇)】


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