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四天王急募(事務職経験のある方優遇) 3

「採用して頂きありがとうございます。今後、誠心誠意魔王様に尽くさせていただきますわ」


ペコリと丁寧にお辞儀をするモナの言葉を、カペルコは複雑な思いで聞いていた。

結局魔王の意見が通される事となり、モナは正式に四天王として即時採用される事となっていた。


「しかし…よろしいのですか?たった今入ったばかりなのに面接に参加させていただくなんて…」

「もう四天王の一員なのだから何の問題も無かろう。寧ろ今後自分と共に働く者を知る良い機会かもしれん」

「あらまあ…魔界の考えは懐が深いんですね」

「魔界全てがそういう訳ではありませんからね…」


諦めたように溜め息をつき、魔王を挟んだ向こう側に座るモナにカペルコが注釈を入れる。

思う所はあり過ぎる程にあるが、こうなってしまったものは仕方が無い。

今後モナの動向に注意だけはしておくように心がけ、それでも自らの仕事仲間として受け入れるようにした。


「では…今後ともよろしくお願いします。モナさん」

「はい、カペルコ様。ふふ、前回は名前で呼ばれる事は無かったので何だか気恥ずかしいです」

「『様』はちょっと…私も『さん』で結構です。そういえば、勇者パーティーは皆さん役職呼びでしたよね?」

「あれは…勇者様が言い出した事なんです」

「ああ…」


何故勇者がそんな事を言い出したのか。

それを聞き出すほど、カペルコは野暮でも鬼でもない。


「では…次の方をお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「うむ。俄然やる気が湧いてきたぞ。このまま残り二人も優秀な者が並んでいるに違いない」

「そう上手くいくとは限りませんが…」


そうは言いつつも、カペルコも先程までよりは元気を取り戻していた。

モナとはまだ深い交流をした訳ではないが、人当たりも良く、優秀である事には間違いなさそうだ。

人間でしかも元勇者パーティーの一員であるという点を除けば、非常に頼もしい存在となりそうだった。



………



いややっぱり唯一の問題点が大問題なんじゃないか?

深く考えると沼に嵌りそうな気がして、カペルコはブンブンと頭を振った。


「次の方、どうぞ!」


カペルコが待機している応募者に入室を促す。

その言葉に続き、扉が開いた。


「失礼しまーす!」


元気いっぱいに入ってきたのは、小柄な女の子だった。

ミディアムショートの金色の髪は低めのツインテールに纏められ、髪を結ぶ紅葉色の細いリボンと十字形のヘアピンがアクセントになっている。

胸元のリボンに淡い橙色を基調としたふわりとしたシルエットのトップス、フリルの付いたスカート。

その下には白いドロワーズを履いており、言うなれば白ゴスか、魔法少女のような恰好をしている。

溌溂(はつらつ)とした表情のその瞳には、髪飾りと同じように十字型の瞳孔が備わっていた。


「アネエルと申します!今日はよろしくお願いいたします!」

「お…おぉ?」

「ど、どうぞ。お座りください」

「はい!失礼します」


椅子にチョコンと座るアネエル。

カペルコは一先ず面接を続ける事とした。


「今日はよろしくお願いします!この部屋寒っ」

「すまんな、今ちょっと換気中なんだ」

「わあ、魔王城の換気は豪快ですね。まるでお外みたい…」

「アネエルさん、ご出身はどちらですか?」

「はい。天か…」

「てんか?」

「て、て…て、天下一品が全国で一番多いオーサカ地方から来ました!」

「な、なるほど…とても独特な言い回しの説明ですね」

「あ~天下一品久しぶりに食いたくなってきた。面接終わったら食いに行くかな」

「それはいいですけど、いつもよくあのスープを飲み干せますよね…」


話の腰を折る魔王に反応するカペルコ。

心無しか、話が逸れてアネエルがホッとしているように見えた。


「では、何かお持ちの資格や自身のアピールポイントはありますか?」

「はい!一応、宅建士の資格を去年頑張って取りました。後はエクセルで簡単なマクロを組むぐらいなら出来ます!四天王はとっても大変な仕事だと思いますけど、皆さんのお役に立てるよう、精一杯頑張ります!」

「うむ、フレッシュな感じはとても好感が持てるな」

「あと、一番のアピールポイントは可愛い笑顔です!」


首を少し傾げてニッコリと屈託ない笑顔を見せるアネエル。


「な…なるほど。因みになんですが…」


カペルコはアネエルから少し視線を外す。


「その背中の羽と頭の輪っかはなんですか?」

「あっ」


アネエルは身を(よじ)るようにして肩を抱いたが、そんな事で隠れる訳も無い程立派な羽が生えていた。


「やっぱり見えちゃいますか〜?」

「そうですね。むしろ真っ先に目に飛び込んできたまであります」

「これはですね…ボクのチャームポイントです!」

「う、うおおおおボクっ娘だ!!この世にも存在したんだ!感動〜」

「魔王様、気持ちが悪いので静かにしていてください」

「し、辛辣…!今までで一番辛辣…!」

「単刀直入にお聞きしたいのですが、アネエルさんは天使でいらっしゃいますか?」

「えへへ…よく言われます!アネエルは天使みたいに可愛いねって!」

「いや違う違う、そういう事じゃ無いんです」

「華やかで羨ましいですわ。私なんて見た目の特徴が二、三行で済んでしまったのに…ちょっと嫉妬してしまいます」

「モナさん、そういう話でも無いんです」



カペルコは三人に対してツッコミを入れている今この状況に戦慄した。

このまま行くと、いずれ自分はツッコミのし過ぎで過労死するのでは?

本気でそんな事を考えた。


「よし、じゃあ念の為にこの文章を読んでみてくれ」

「魔王様…」

「わ、分かってる!これは大丈夫なやつだから!」

「分かりました!」


アネエルはトテトテと小走りで魔王の元に駆け寄り用紙を受け取った。

席に戻り暫く黙読すると、声に出して読む。


「…刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)又は犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号)の定めに基づく強制の処分又は裁判所の命令が行われた場合、当該処分又は裁判所の命令の定める範囲内においては守秘義務を負わないものとする」

「…一体何を読ませたんですか?」

「なろうの利用規約」

「確かに大事ですけれども…」


カペルコはアネエルから用紙を受け取る。

本来なら計算テストもあるがもういいだろう。今は出来る限り脳に入る情報量を少なくしたかった。


「えー…アネエルさん。一つお伺いしたいのですが」

「はい!何ですか?」

「その背中の羽と頭の輪っかは、一時的にでも隠したりする事は出来ますか?」

「えっ…はい、出来ます!」


フッ、と羽と輪っかが一瞬にして消える。


「おお…なるほど」

「…でも消さなきゃダメですか?」

「う、う~ん。業務に支障が出そうというか、対外的に言って問題があるというか。もし採用となった場合でも、職務中は消しておいてもらうようになるかもしれません」

「でも、でも、ボクの可愛いチャームポイントなんですけど…」

「アネエルさん。アネエルさんはそんな羽と輪っかが無くても十二分に可愛いと思うぞ」

「そうですわ。お人形さんみたいでとっても可愛らしいです」


表情を曇らせ涙目になるアネエルに、すかさず魔王とモナがフォローを入れる。


「…本当ですか?」

「本当だとも。ワシなんか部屋に入ってきた時に可愛すぎて卒倒しかけたぐらいだ」

「羽と輪っかが付いた状態で一緒にいたら、興奮してしまって仕事にならないかもしれませんね。ふふ」

「そ、そうですか?えへへ…。それなら仕方ないですね、分かりました!」


テレテレと顔を赤くして頬を掻くアネエル。

カペルコはその隙に三人を集め、アネエルに背を向けるようにして顔を突き合わせた。


「魔王様…念の為お伺いいたしますが、どうされるおつもりですか?」

「う~ん              採用」

「魔王様っ…!」


カペルコは魔王に頭突きを食らわせた。


「恐らくですが、彼女は天使です」

「確かに。本当に天使みたいに可愛いよな」

「そういう事じゃっ…!無いんですっ…!!」

「か、カペルコ。怖いから血の涙を流さないでくれ」

「でも、確かに本物の天使である可能性は高いかと思います…天界との間で問題になる事は無いでしょうか?」

「う~ん。まあ危険な業務は出来るだけ避けさせて、あっちから何か言われたらその時に送り返せば良かろう。天界神とも一応は面識あるし」

「か、神様と面識がおありなのですか?」

「言っても何回か集まりで一緒に飲んだ事あるぐらいだがな。サシ飲みはした事無いし、気まずいから別にやりたくはないな」

「そうなんですね。それなら問題は無いのかしら…」


果たして本当に問題は無いのだろうか?

そう思うカペルコの真下には、赤い雫がつたつたと滴り落ちていた。

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