四天王急募(事務職経験のある方優遇) 2
「…」
「…」
魔王とカペルコは互いに無言のままぐったりと椅子に座っていた。
その表情に覇気は無く、こんな('A`)表情で意気消沈としている。
彼らの後方には魔王によって壁に開けられた大穴が澄んだ空を切り取っていた。
「やってくれたなアイツ…」
「どうもそうみたいですね…」
やたらと数の少ない面接希望者。
そしてその応募者たちの妙な質の悪さ。
それはつい先ほど空の彼方の星となった元四天王、エフレナの仕業であろう事が状況的に見て明らかになった。
大方有能そうな応募者を脅して帰らせ、少しでも自分が受かる可能性を高めようとする彼女なりの浅知恵だったのだろう。
「は~もうやる気失せてしまった。どうする?残りの3人の面接、するか?」
「やらない訳にはいかないでしょう。せっかく来て頂いているんですから…」
「でも奇跡でも起きん限り望み薄だと思うぞ~?ここまで本当に散々だからな」
「…それでも、今日ここに集まって下さった応募者の方々に非はありませんから」
「なんだお前…女神かっ!」
「魔族です」
「ふう…分かった分かった。ちゃちゃっと終わらせて飯でも食いに行くか」
「魔王様、面接をおざなりにしないで下さいね?…こほん。では、次の方!どうぞ」
カペルコがそう言うと、玉座の間の扉が開いた。
「失礼いたします」
一礼して入ってきたのは、女性だった。
胡桃色の髪を腰あたりまで伸ばし、淡い白のブラウスにベージュのジャケット、黒いパンツを合わせた、カジュアルフォーマルといった風の装いだ。
色白の顔には薄っすらと化粧がしてあり、柔和な表情はその女性の優し気な雰囲気を醸し出していた。
「モナと申します。本日はよろしくお願いいたします」
女性は二人に再び礼をすると、椅子の隣に佇んだ。
「お、おおおぉぉっ…!!奇跡っ…!これは、奇跡が…!!」
「魔王様…!魔王様っ…!」
魔王とカペルコは涙を流し、抱き合って喜んだ。
「え、ええ…?どういう状況でしょう…?」
二人の奇行に、女性はただ困惑するばかりであった。
――――――――――
「取り乱してしまい申し訳ございません…」
「い、いえ。お構いなく…」
落ち着きを取り戻した魔王とカペルコ、そしてモナは着座してお互いに向かい合っていた。
「えー…では改めてになりますが、お名前とお住まいを伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。モナと申します。チュウバン地域からやって参りました。この部屋寒っ」
「申し訳ありません。只今換気中でして」
「はあ、魔王城の換気は随分と大胆なのですね…」
「チュウバン地域というと、割と人間界に近い場所にお住まいなのですね」
「前職の関係で拠点を転々としておりまして、今はそこに居を構えております」
「えー、モナさん?」
魔王が口を挟む。
「は、はい」
「採用」
「さ…採用?よろしいのですか?」
「魔王様!お気持ちは分かりますが落ち着いてください」
「いやだって…もう採用だろこんなの。他の奴らと立ってる土俵からして全然違うぞ」
「それにしたって手順がありますから…ちょっと、握手を求めるのは後にして下さい」
先走る魔王を制止し、すみません、とモナに頭を下げる。
モナは一連のやり取りを見て、普段のカペルコの気苦労に思いを馳せた。
「ええと…何かお持ちの資格や、自身のアピールポイントはありますか?」
「はい。簿記2級にMOS、TOEICでは688点を取っています。聖魔法は3級になりますが、今後さらなる昇級を目指しております。この度は四天王募集の情報を拝見し、責任ある仕事がしたく応募いたしました」
「お、おお…」
あまりにもまともな回答に思わずたじろぐカペルコ。
むしろ、何かに秀でた能力の無い自身よりも遥かに優秀なのではないかと思い、気後れしてしまう。
「モナさん。必要無いとは思うんだが一応音読のテストがあるのだ。これを読んでみてくれ」
「はい、分かりました」
魔王から手渡された用紙を受け取りに席を立つモナ。
再び席に戻ると数秒間文章を黙読し、それから口に出した。
「…薄暗い琥珀色の照明の中、男は薄布に身を包んだ女の身体を弄った。熱を帯びた吐息が耳元にあたり、男の下腹部は自身の欲望を屹立させるように…」
「はいもう大丈夫!OKで、すっ!」
「いってぇ!!」
カペルコは魔王の足を思い切り踏んづけて、モナが持つ用紙を回収しに行った。
何か手元からゴソゴソと用紙を出しているなと思ったが、本当に油断も隙も無い。
「申し訳ございません…」
「ふふ、ちょっとドキドキしてしまいました」
頬に手を当ててニコリと笑うモナ。
本当に訴えられても知らないぞ、と睨むカペルコに、魔王はしゅんとした。
「ええと、計算テストもあるのですが…流石に必要なさそうですかね?」
「うむ、もうこの場で採用にしてよかろう。寧ろこっちからお願いしたいくらいだ」
「あら…本当ですか?ありがとうございます」
「そういえば、前職は何をされていたのですか?」
最初に前職の関係で拠点を転々としていると聞いた。地方を飛び回る仕事だろうか?
カペルコの問いに、モナは含みのある笑顔を見せ、答えた。
「勇者パーティーの僧侶をしておりました」
「え」
数秒、沈黙。
呆気に取られていた二人だが、魔王がやっとの思いで口を開いた。
「あ…あの時の僧侶さん!?」
「ふふ、覚えていて頂いて光栄です」
「いやそりゃ覚えてるよ…!というか今の今まで気付かなくて申し訳無い…!」
「服装も違いますし、分からなくても当然ですよ」
「え、え〜…?でも、モナさんが抜けて勇者パーティーは大丈夫なのか?」
「パーティーは勇者様の事もありますし、魔王軍が暫し進軍の予定無しとの事なので、一時解散という事に…。国王様にも一応お伺いは立てているのですが、『淑女の生き様に口を出す事は出来ない』と仰っておりました」
「え〜…何なのその妙な漢気」
「とにかくお許しは頂いておりますので、こちらで働く事には何の問題もありません」
ニコリと柔らかい笑顔を見せるモナ。
「…魔王様」
カペルコが魔王に顔を寄せて耳打ちする。
少々お待ちください、とモナに言って、二人は後ろを向いて顔を付き合わせた。
「どうされるおつもりですか?」
「いや〜びっくりしたな…まさかあの時の僧侶さんだったとは。確かによくよく見ると魔族とは魔力の質が違うんだよなあ」
「残念ですが、流石にこれは…」
「う〜ん」
魔王は2秒くらい逡巡した。
「採用で」
「魔王様」
カペルコは魔王に頭突きを食らわせるようにして額を付き合わせた。
「彼女は人間です」
「う〜む、しかしそれ以外の点が遥かに秀でているからなあ」
「元勇者パーティーです」
「実力としてはお墨付きという事だろう。頭脳派で揃えるつもりだったが、頼もしい限りだ」
「魔族の敵ですよ…!スパイの可能性だってあります…!」
「確かにその可能性はある。しかし彼女を見てみろ」
魔王とカペルコは振り返りモナを見る。
モナはそんな二人の様子を、柔和な笑顔を浮かべてニコニコと眺めていた。
「あの表情を見てみろ。彼女が何か悪い事を企んでいると思うか?」
魔王は腕を組み、目を細めてうんうんと頷いている。
その横顔を見るカペルコの瞳は血走っていた。
「何処を見てるか、分かってますからね」
「………」
背筋を伸ばして姿勢良く座るモナ。
柔らかく微笑む彼女の胸部には、母性を感じさせるたわわな実りが2つ付いていた。
続
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※1 聖魔法3級
聖魔法検定は一般的に僧侶が受験する資格となる。
1~5級まで存在し、3級だとダンジョン中盤に上がりたてぐらいの僧侶が持つレベル。
ただこの世界だと必ずしも魔法が一般的とまでは言えず、5級だと腹下しや頭痛を緩和させる程度の魔法、3級でようやくケアル、プロテスぐらいの魔法が扱えるレベルになる。
1級で扱えるのはリジェネや全体回復、聖攻撃魔法等。
レイズ等の蘇生魔法は、この世界には存在しない。
残り3人分まとめて1ページにしようと思ったのですが、余りにも長くなるので分割します…




