第3話
やつらが吸い込まれた幕の中から音が聞こえてきた。最初は祭りの太鼓のように、次第に音が重なってきて、やがてばりばりと雷が落ちたような音。そこに人の声がまじる。あれは悲鳴だ。泣き叫ぶ声もまじっている。しばらくするとそれもやんでしまった。
誰かが山を降りてくる。雪をかきわけて、いや雪にもてあそばれるように。一番隊のやつらだ。
悲鳴をあげて泣き叫ぶそいつらの姿を見てしまって、俺たち輜重隊は、誰ひとり、幕の向こうへ行こう、行って一番隊に生き残りがいるのであれば、そいつを助けよう、そういう者はいなかった。
やつらは甲賀古士、そうして俺はやつらの荷物を運ぶ下忍、けれど同じ甲賀隊の隊員じゃないか。
俺は傷ナシ、誰も行かないのなら、この傷ナシの俺が行ってやろう。
鉄砲は持たない。敵がいればその敵に見つからないように隠れるだけのことだ。まずは俺一人で様子を見にいって、安全なようなら、輜重隊の全員で助けにいくのだ。
俺は幕の中へと登っていった。
坂の上、幕の向こうには、もう敵はいなかった。おっそろしい武器をさっさと片付けて、敵はとっくの昔にどこかへ移動したようだ。
そこには雪がなかった。雪があっただろうところはベトベトの赤黒いものが湯気をたてていて、その中に一本立っているのは人の足だろうか。首なしの体もある。首はどこにころがっているのだろう。
あの大筒やくるくる回る鉄砲でやられたのだろう。
人間だったものの残骸、赤黒いものをかき分けながら、俺はやつを探している。
そう、こいつだ。望月の若棟梁、地面にうっぷしている。時々痙攣みたいにひくひくと震えているが、まあ大事はないだろう。
俺は、たもとから小指の先ほどの黒い丸いものを取り出し、やつの口に無理やり押し込む。
若棟梁は赤子のように目と口を見開いて、次にゲホゲホとせき込む。せき込んだ後に、沼で釣った鮒のように涙を流しながら、口をぱくぱくさせやがる。どうだ、効くだろう。昼間俺が集めておいた薬草に、海の向こうからやってきた唐辛子をたっぷりと混ぜ込んだ俺の特製、兵糧丸劇辛々だ。
へへへ、こいつもこんな顔をするのだ、こいつのこの顔が見れたのだから、まあよしとするか。
やつをおぶって山を下る。膝にまといつく雪などどうということはない。なにしろ俺は傷ナシなのだ。麓の火が見えてきた。もう大丈夫だ。あそこには俺の仲間が待っていてくれる。俺の仲間、仲間の輜重隊が待っている。
輜重隊の俺たちは、これからも戦場に出ていくことだろう。なんでも海を越えた蝦夷地にも敵はいるらしい。輜重隊の出番、そしてその一員としての傷ナシの俺の出番もこれからだ。




