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異世界って、マジっすか?②

頬をさらりと風に撫でられて、昂輝は目を覚ました。

 ぼんやりと見つめる視線の先には、意識を手放す前に見ていた何も無い真っ白な空間ではなく、太陽の光に照らされて青々と光る草花だった。


(・・・草? おー、すげぇ色の蝶。ん?)


 ぼんやりしていた頭がスッと冴えて、一気に視界がクリアになる。昂輝は目を見開き、ハッと顔を上げるとそこには、今までに見たことのない景色が広がっていた。

 

 背を預けていた木の上からは小鳥の囀りが聞こえ、目の前には青々と光る草花と晴れやかな青空、そして視界いっぱいに広がる広大な草原。

 サラサラと風に揺れる木々の音が耳に心地良く、澄んだ空気と瑞々しい草花の爽やかな青い香り。

 昂輝は肺いっぱいに爽やかな空気を吸い込んで、大きく深呼吸をした。

 

 住んでいた日本も空気の綺麗なところは多かったが、昂輝が住んでいたところは都会寄りだったため、深呼吸がしたくなるような空気ではなかった。

 実際、住んでいた頃も「空気が澄んでいる」と思ったことは早朝に目が覚めた時の、片手で足りる数のみだ。

 

 肌で、耳で、視覚でこの世界を感じてはいるが、どこか現実味のない感覚で昂輝はもう一度、大きく深呼吸をした。


「・・・空気が美味しい、なんて初めて思ったな」

 

 日本とは全く違う今までに見たことのない光景、だが故郷のように心が落ち着く風景に昂輝はしばらくその景色を眺めていた。

 そんな昂輝の耳に、聞き覚えのある声が届いた。


『おいガキ、聞こえとるか?』

「はっ! え、神様?」

『おぉ、聞こえとるな。コレ忘れとったからやるわ。ほな、せいぜい気張れよー』


 神様との会話で、と言うのもおかしな話ではあるが、昂輝はその会話でやっと今見ているものが現実なんだと感じてきたのだった。

 

 降り注ぐ木漏れ日と小鳥の囀り、草花の青々とした瑞々しい香り、目の前の広大な風景。昂輝は立ち上がり、数歩歩いて木陰から抜けるとぐっと大きく腕を伸ばし、最後に一つ大きく深呼吸をした。


「すーはー。よし!」


 何となく気持ちも新たに一歩を踏み出す感覚で、昂輝は足を踏み出した。

 コツン。晴れやかな気持ちで一歩を踏み出した昂輝だったが、その一歩目のつま先に硬いものが当たった。

 何かと思って足元に視線をやると、そこには心を(くすぐ)られる所謂《魔法の杖》らしきものが落ちていた。


「これは、」


 シンプルな作りの木製の杖だが、先端はトゲトゲしたローマ字のCのような形になっていて、その中には握り拳よりも小さいくらいの赤い鉱石が取り付けられている。

 鉱石がある先端より少し下辺りには、細長く白い布が包帯のように巻かれていて、三分の一程の長さが風に靡いている。

 杖の長さは昂輝の身長よりも短いくらいで、大体160センチ程といったところだろうか。

 

 昂輝はその杖を手に取り、太陽に翳すと赤い鉱石の中に太陽の光が差し込んで、小さな結晶のようなものがキラキラと輝きながら鉱石の中を舞っていた。

 その輝きの美しさに、昂輝は瞳を輝かせながら顔を綻ばせた。

 

  拾い上げたそれは、昂輝が作り上げた理想の魔法の杖そのものだった。

 

 そう、昂輝は幼少期に当時姉が見ていた子供向けテレビ番組を見て、衝撃を受けたのだった。

 可愛い女の子や、格好良いヒーローには目もくれず、昂輝はそのキャラクター達が繰り出す《技》に心を奪われていた。


 そして、それからと言うもの色々なアニメや漫画、映画やゲームなどに触れるようになり《魔法》と言うものに強く心を惹かれていったのだ。

 

 幼少の頃はどんな魔法が使いたいか、オリジナルの魔法を考えるなど想像を膨らまして遊んでいたものだ。

 そして、中学生の頃から昂輝はノートの端に自分が使いたい理想の杖を落書きするようになった。

 どんな形状が一番格好良いか、どんな装飾が付いていたら見映えが良いか、杖自体に能力をつけるならどういうものが良いか、など様々な想像を色々な教科のノートの端に何種類もの杖の落書きを描いたものだった。

 

 そして、ついに昂輝の理想とする魔法の杖を描き上げたのだ。

 ゲームの初期装備並みのシンプルな見た目に反して、大小様々な魔法が使える理想の杖。

 納得のいく物を生み出せた喜びに、昂輝は何度もその杖の落書きをしたものだった。

 そしてそれが今目の前に、昂輝の手の中にある。

 

「俺の、理想の・・・魔法の杖だぁーー‼︎」


 昂輝は喜びの余り、大声を張り上げて両腕を空へと突き上げた。

 

 神の口から発せられた「剣と魔法の世界」昂輝が夢にまで見た異世界への扉が、今開かれたのだった。

 

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