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第1話、異世界って、マジっすか?①

突然交通事故に遭ったかと思ったら、神様に飛ばされたのは異世界!?

平凡な高校生が夢にまで見た剣と魔法の世界で、憧れの魔法使いになって世界を旅するお話。




(空を飛ぶ感覚ってこんな感じなのかな・・・)

 

 空気を劈つんざくような音を響かせながら、大型トラックが一人の人間と衝突した。

 

 ドンという衝撃音の後、周りの人々の視線を釘付けにして一人の男子高校生―小林昂輝こばやしこうき―の身体が衝撃を受けた勢いのまま宙に舞う。


 あまりにも急な出来事に、昂輝はぼんやりと現実味のないことを思っていた。

 目の前に広がる綺麗な青空と、ふわりとした浮遊感。世界がとても緩やかに動いているような不思議な感覚で、このままどこかへ飛んで行ってしまいそうだな、なんて思いながら太陽に手を伸ばそうとした。

 

 だが次の瞬間、一瞬の静寂を裂いて昂輝の身体は地面に激しく叩きつけられた。


 湿り気を帯びた嫌な音が辺りに響く。

 その衝撃に昂輝は小さく呻き声を上げたものの、身体はそのまま地面に沈み込んだかのように重く感じて動かすことが出来ない。しかし不思議と痛みは無かった。

 遠くに聞こえる誰かの叫び声や、近くで誰かを呼ぶ声がどんどん耳の奥へと遠のいていく。

 暑いような寒いような、なんとも言えない感覚。でも少しすると暑さも寒さも感じなくなり、また身体がふわふわ浮き始めたような感覚に心地良くなった昂輝は、重くなる瞼を閉じた。



  


 春に祖母宅の縁側でまったり昼寝をしていたかのような心地良さの中、昂輝の意識はふわりと浮上してゆっくりと目を開けた。

 

「ふあぁ〜」

 

 グッと両腕を上げて伸びをしながら欠伸をひとつ。昂輝はゆっくりと身体を起こして目を開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。

 

 辺り一面が真っ白で、広いのか狭いのかも分からないような空間にポツンとひとり立っていた。


 身体は確かにまっすぐ立っているのに、地面に足が着いている感覚はない。だが、浮いているような浮遊感もない。

 その不思議な空間を見回してみるが白一色、何も無いのか何かあるのかも分からない謎空間がただただ広がっている。数歩歩いてみたが床を踏む音はしない。

 真っ白な謎の空間に、物音一つしない静寂が広がっている。

 

「おーい」

 

 声を発してはみるが、昂輝の声は白い謎の空間に反響しながら消えていった。

 キラキラ光っているようにも見える謎の真っ白い空間に、昂輝は若干の恐怖を感じる。それを和らげるように手に力を入れて、握り拳を作っては開いてを何度か繰り返してから小さく震える手を見つめて、ふと気付いた。

 

(・・・そうか、俺は死んだのか)

 

 置かれた状況が腑に落ちたのか、昂輝の中の小さな恐怖は消えていった。震えの止まった手から視線を上げたその時、前方から眩い光が昂輝を照らした。

 その光が何なのか分からないが、春の陽射しのような暖かさに強張っていた身体の力が抜けていく。眩しさに目を細めながら光の正体を探るように目を凝らしていると、光の中に人影らしきものが見えた。

 その人影は眩い光を後光のように背負いながら、ゆっくりと昂輝に向かって歩いてくる。いや、正確には歩いてくると言うより浮遊した状態でスーッと音も無く移動しているように見えている。そして、後光を背負ったその人影は昂輝の前で動きを止めた。

 

『昂輝よ、お前の力で私の数多ある星々の中のひとつを救って欲しい』

 

 これは、所謂いわゆる神と呼ばれる者なのだろうか。

 眩い後光を背負ったその人型の者は、裾に金の刺繍が施された白いローブのような布を纏っていた。風は吹いていないのにゆらゆらと揺れる布が光に照らされたり、光を透かしたりととても美しい光景に、昂輝はポカンと口を開けたままただただ見惚れていた。神のような者は頭にもヴェールのように金の刺繍が施された布を被っていて顔は見えない。だが、穏おだやかに、そして優しく微笑んでいる艶つややかな口元だけが見えていた。

 昂輝がその神々しさに圧倒され固まっていると、神のような者はクスリと微笑み言葉を続けた。

 

『お前は魂と呼ばれる生命の根源となり、自身の身体を離れてこの神域へとやってきた』

「ッ⁉︎ ってことは、やっぱり俺は死んだってことですか?」

 

 神のような者のその言葉にハッと我に返った。思わず口を突いて出てしまった言葉だったが、昂輝はすぐに何かを後悔したように顔を顰めた。

 自分の発した言葉【俺は死んだのか】という問いに対しての返答を聞くのを恐れたのだった。


(今はこの状況がまだ飲み込めていない状態だからこそ、憶測として【自分は死んだのかもしれない】と思うことは出来る。

 けど仮にもし本当に死んでいて、目の前のこの人から『お前は死んだ』と告げられたら俺は・・・。

 まだ、やりたい事も叶えたい夢もあったのに。もしそれが真実だったとしたら俺は、受け入れられるのか?)


 だがしかし、神のような者に昂輝の言葉は届いていないのか、その問いに答えられることは無く言葉をが続けられた。

 

『昂輝よ、お前の力をどうか我らの為に奮って欲しい。

 星を、世界をどうか救って欲しい。どうか・・・』

 

 神のような者はそう言うと、スゥっと光の中に吸い込まれるようにゆっくりと遠ざかって行く。このまま置いて行かれるわけにはいかないと昂輝は慌てて声を掛けた。

 

「え、ちょ、おい! ちょっと待ってくれ‼︎ 世界を救うのはいいけど、どうやって⁉︎

 てか今この状況ですらあんまり飲み込めてないないのに・・・。

 なぁ!そもそも、俺にそんな特別な力なんて無いぞ! 俺はただの高校生だし。そんな急に色々言われても、頭追いつかねぇって! 」

 

 普通に生きていれば言われることのない言葉を一方的に投げられ、昂輝は段々と腹の底がふつふつと沸き立つのを感じた。助けを求めるようだった昂輝の声は、立ち止まる事なく消えゆく神のよう者に対し、徐々に怒りを含んでいった。

 

「ッ大体なぁ、星を救うって何なんだよ! 何の変哲もないただの高校生が、世界なんて救えるわけねぇだろっ‼︎

 おい、聞いてんのかよこのハゲッ‼︎」

 

 人は不安が大きくなるに連れ、怒りも覚えるものだ。何処だか分からない所で意味の分からない事を言われ、会話をする事なく置いて行かれそうになっているこの状況に怒りを覚えない訳がない。

 昂輝は、神のような者に物を投げ付けんばかりに叫んだ。必死に叫んだ昂輝の声はやっと神のような者へと届きはしたが、その反応は予想外のものだった。

 

『お前ぇ! 誰がハゲやねんこのクソボケェ‼︎』

 

 ヴェールのような布を引き千切らんばかりの勢いで取り払いながら、神のような者は、何故か関西弁で怒鳴ってきたのだ。

 顕あらわになった顔は、この世のものとは思えない程の整った美しい顔。だが、目が合った瞬間に鬼の形相へと変化した。眉間に皺を寄せて眉を吊り上げ、目を見開いて口を大きく開けて大声で怒鳴っている。

 大人の人にこんなに怒鳴られること自体滅多にない事で、昂輝は驚きを隠せず固まった状態でポカンと怒り散らかしている神を見つめるしかなかった。

 

『おい聞いてんのかクソガキ! 誰に向かってハゲとか抜かしとんねんワレェ!

 この、うっつくしいサラッサラの輝く髪が見えへんのかちゅーとんねん! ほんッまこのガキは人が大人しぃしとったら調子こきやがって、ええ加減にせんとどつくぞ。

 こちとら神様やぞ? 崇めんかい!』

 

 目の前で物凄い形相で地団駄を踏みながら騒いでいるのは、どうやら正真正銘の【神様】だったようだ。

 昂輝はその神の顔圧と関西弁での捲まくし立てに圧倒されていたが、段々とアニメや映画を観ているような感覚になってきていた。

 慣れない状況にネガティブに考え過ぎていたのかもしれないと、すっかり不安や怒りなどは昂輝の心からは消え去っていて、目の前で怒鳴っている神が子供の癇癪かんしゃくのように見えて溜息を一つ吐いた。

 

『溜息吐きたいんはこっちじゃボケぇ、わしの旋律の如き美しい声が聞こえへんのかこのボケナスッ!

 聞こえてんねやったら返事せぇアホんだらぁ!』

「すいません・・・」

 

 溜息混じりに返事をするも、神のような者・・・もとい神は一向に近付いてくる気配は無く、むしろ怒鳴りながらも徐々に遠退いて行っているようで、よく見れば神の姿は先程よりも小さく見える。

 昂輝は引き留めようと走り出したが、追いつく事は出来ずついには神の姿が光りの中へと消えて行ってしまった。

 よく分からない状況を打破しようと神に願ったのにもかかわらず、自分の口から思わず出てしまった罵倒のせいで神が怒り散らかした挙句、何の解決もされないまま虚無の空間で置き去りにされてしまったのだ。


「・・・まじかよ」


 盛大な溜め息を吐いて項垂れた昂輝だったが、その瞬間耳元で先程の神の声が響いた。


『おいガキ、 お前剣とか魔法とか好きやろ。魔法自由に使わせたるから、あとは頼んだで。ほなな!』


 一方的に電話を切られるようにプツリと切れた神の声に、ハッと顔を上げた昂輝は再度項垂れた。


(ん? 今、魔法って言ったか?)


 心ときめく言葉に顔を上げた昂輝は、もう一度神に会えないか呼びかけようとした時だった。

 地面があるような無いようなよく分からない足元が突如光りだしたかと思えば、その光はそのままどんどん大きくなってゆき、昂輝は眩しさに目を瞑った。


「うわぁーーー!」


 眩い光に包まれた昂輝は、ぐらりと回るような目眩を感じてそのまま意識を手放した。



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