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十九歳に戻った令嬢は、極道の男と共に愛と復讐の道を歩む  作者: 朧月 華


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水島豊&櫻井玲奈 番外:甘き毒、影山を蝕む

第一章:仮面の下の共犯者たち


 水島豊は、鏡に映る自分を見つめた。柔和な微笑み、温和な眼差し。完璧な“謙謙君子”。影山財閥の次期当主の座に最も近い、理想の婿。

 「へへ……よく出来てる。この顔が、俺の最大の武器だ」

 歪んだ笑みが、鏡の奥の男の顔を醜く歪ませた。その瞳の奥には、傲慢なまでの野心と、底なしの貪欲がギラついている。

 彼が望むのは、影山家の名声と、それに付随する莫大な富。そして、何よりも、その全てを手に入れる快感。だが、水島家の地位では、影山家を完全に手中に収めることはできない。より強力な後ろ盾が必要だった。


 その頃、櫻井玲奈は、影山家の自室で、古ぼけた写真を見つめていた。写真の中には、笑顔の家族が写っている。——彼女の、本来の家族。

 「影山家は、私たちから、すべてを奪った……」

 唇から漏れた声は、か細い。だがその瞳の奥には、氷のような冷たさと、深淵を覗くような憎悪が宿っていた。

 彼女の家族は、影山家との“力”の差により、無情にも切り捨てられた。幼い玲奈は、影山家の“慈悲”という名の施しで、この豪奢な屋敷に引き取られた。しかしそれは、“偽善の檻”だった。

 影山菖蒲。何不自由なく、ただ当然のようにすべてを与えられた、本来の“影山令嬢”。玲奈は、その姿を見るたびに、自らが踏み潰された屈辱と、強烈な嫉妬に胸を焼かれた。

 「お姉さま……私が、あなたから、すべてを奪い取る。そして、あなたを、私が見た、あの絶望の底へ、引きずり落としてやるわ。」


 水島豊と櫻井玲奈は、影山家の社交の場で出会った。

 水島の温和な仮面を、玲奈の清純な仮面が、互いに見透かすように見つめ合った。その瞬間、二人の間に、言葉なき、しかし確かな共犯関係の気配が生まれた。

 「豊さん、あなたも……影山家を、もっと、大きくしたい、と?」

 玲奈の、か細い声。その瞳の奥の冷たい光を、水島は見逃さなかった。

 「ああ、もちろんだ。影山家は、もっと発展できる。そのためなら、どんな手も惜しまない。」

 二人は、互いの心の奥に潜む“闇”を嗅ぎ取り、共鳴した。彼らは、影山という巨大な獲物を、共に喰らい尽くす“獣”だった。


第二章:毒の取引 ― 黒田義信の暗躍


 水島と玲奈は、影山家の内部情報を持ち寄り、その腐敗の核心を突き止めていた。だが、影山家を完全に支配するには、彼らの力だけでは足りない。より強大な“闇”の力が必要だった。

 その頃、水島は、裏社会で囁かれる、一つの噂を耳にした。

 「黒龍組を追放された、伝説の若頭……黒田義信は、まだ生きている。そして、影山家と竜崎組、そのすべてを憎んでいるらしい」


 水島と玲奈は、命がけで、黒田義信への接触を図った。

 薄暗い、朽ちたビルの地下。そこで対面した黒田義信は、もはやかつての面影はなく、痩せこけ、しかしその瞳には、狂気じみた、底知れぬ憎悪が燃え盛っていた。

 「俺を訪ねてきた目的は何だ。まさか、影山家の犬が、俺に助けを求めるのか」

 黒田の声は、嗄れていた。


 水島は、恭しく頭を下げた。

 「黒田様。私と玲奈は、影山家を、根本から、腐敗させて、解体したい。そして、竜崎宗一の“洗白”を阻止し、真に、この国の裏と表を支配する、新たな秩序を築きたいのです。」

 玲奈は、水島の後ろで、まるでか弱い少女のように震えている。だが、その瞳の奥には、黒田と同じ、破壊への狂気が宿っていた。

 「お姉さまは、影山家という、偽善の象徴ですわ。私、どうしても、あの方を、この手で、絶望の底へ突き落としたいのです。」


 黒田義信は、二人の瞳を、鋭く、そして深く見つめた。水島の貪欲、玲奈の憎悪。

 「……ふん。面白い。お前たちは、影山を憎む。竜崎宗一の“洗白”を憎む。俺と同じだな。」

 黒田は、かつての妻、明里の面影を、玲奈の中に一瞬だけ見た。明里とは真逆の、しかし、歪んだ輝きが。


 そして、毒の取引が成立した。

 水島と玲奈は、黒田に影山家の詳細な内部情報と、資産の流れを提供した。黒田は、その情報を元に、水島を通じて、影山グループの子会社を蝕み、竜崎組の守旧派を唆す。

 水島は、黒田の庇護の下、影山リアルエステートの不正を拡大させ、玲奈は、影山家の中で、菖蒲の“完璧な妹”を演じ続けた。


 「お姉さま、豊さん、素敵でしょう? 早くお嫁に行きなさいよ」

 玲奈は、菖蒲に甘い笑顔を向けた。その言葉は、まるで祝福のように聞こえる。

 だが、その瞳の奥で、玲奈は、こう呟いていた。

 (早く、あなたのすべてを、私に、ちょうだい。そして、地獄へ堕ちなさい、影山菖蒲)


 水島は、影山桜(菖蒲の母)の前に立ち、優しく微笑む。

 「お義母様、菖蒲は、本当に、お優しい方です。私が、必ず、彼女をお護りいたします」

 その言葉は、影山桜の心に、深く、深く響いた。

 だが、水島の内心は、醜悪な笑みに満ちていた。

 (へへ……お前たちの“優しさ”が、この影山家を、滅ぼすのだ。そして、お前の娘は、俺が、存分に、弄んでやる)


 彼らは、甘い仮面の下で、互いの悪意と欲望を共有し、影山家という、古き巨木を、内側から、静かに、そして確実に、蝕み続けていった。

 それは、影山菖蒲が、“絶望”という名の死を迎える、その日までの、甘美な、そして残酷な、共犯者たちの舞踏だった。


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