雪男
雪男と書いて。
ゆきおという。
ゆきおは。
体中の毛が。
細長い、雪の塊で、できている。
なるべく。
氷点下の、吹雪のときにしか。
巣穴から、出ないようには、している。
何故なら。
ゆきおの体毛は、美しく。
繊細な、銀色の糸。
日に当たろうものなら。
霧のように、蒸発し。
普通の人間の。
素っ裸の状態に、なる。
昔。
山育ちの、お巡りに。
全力で。
スキーで追われたことが、あるため。
気象には、非常に。
気をつけては、いる。
ゆきおには。
成し遂げたい事が、ある。
それは。
恐ろしく駿足の、雪女。
ゆきこに、勝つ事である。
ゆきこは。
ラッセル車のように。
深い雪を、跳ね飛ばしながら。
豪快に、やって来る。
ずっと向こうから。
雪が舞い上がり、もうもうと、
宙を埋めながら。
こちらにやって来る。
ゆきおは、首をまわした。
おれは。
きっと。
勝つ。
小さな袋から。
チョコレート菓子を、取り出した。
2つに割ったとき。
ゆきおに。
雪が、どさどさ、落ちてきた。
ゆきこのスピードは。
いちだんと、増したようだった。
ゆきおは、気づいた。
このままじゃ。
一生。
勝てない。
夕方。
ゆきおは。
菓子折りを、小脇に抱え。
ゆきこの巣穴を、訪ねた。
おまえね。
あたしに勝って。
どうしたいんだい。
どうって。
あんたより。
はやく、走ってみたいって。
思ってるんだけど。
ふーん。
つまり、あたしは。
ただの、目標か。
まあ、そうだ。
ちいせえな、おまえ。
自分に勝とうとは、
思わねえのかよ、
え?
え?
じぶんに?
考えたこと、ない。
どうでもいいが。
あたしは、時速50キロだ。
それ目指して、頑張りな。
そんな。
重たそうな毛を、まとってたら。
まず、無理だけどな。
ゆきこは、ぐいと、テキーラを、
飲み干し。
倒れて、寝た。
次の日。
ゆきおは、全力で。
ゆきこを、追いかけてみた。
跳ね飛ばされてくる、雪の塊が。
当たって。
痛い。
嫌になり。
雪の盛り上がりに、立ち。
あたりを見渡した。
雪山に。
日が当たり。
眩しく、
輝いている。
いいんだ!
おれは。
こうして。
元気に。
生きてるじゃないか!
ゆきおは。
両手をひろげて。
青空を、見上げた。
深呼吸を、した。
毛が。
蒸発していく。
うてーい!
網が、打たれて。
飛んで、拡がる。
警官隊は。
スノーモービルから、降りて。
こっそり、近づいていた。
おまえ!
裸は駄目だろ!
ゆきおは、捕まり。
警官隊は、さわやかに。
汗を拭った。
おやっさん。
見てますか。
とうとう。
伝説の裸男を、
確保しましたよ。
みんなで。
天を、仰いだ。
その後。
ゆきおは、東京に送られて。
人の生活を、学んだ。
現在。
新宿駅南口から。
歩いて、8分くらいの。
うどん屋に勤めて。
うどんを打っている。
うどんが美味しいので。
雪山に帰りたいとは、
思わない。
ありがとうございました
m(_ _)m 39