勇者様のスキル『真なる剣の砕き手』が思ってたのと違います
新年一発目の投稿です。
ギャグに全振りです。
頭空っぽにしてお楽しみください。
「貴様が異世界から召喚されたという勇者か」
「あぁ、そうだ」
「ふん、腐っても国王の娘。小娘と思い見逃したが、まさかそんな力があったとはな」
父から奪った玉座に座る魔族は、私と勇者様に向かって余裕の表情を浮かべます。
その余裕を支えるのは、向かい合うだけで感じる程の膨大な魔力……!
あぁ、父の、国の人達の仇だというのに、震えが止まらない……!
「最近は俺を殺そうとする者も減ってきていたからな。少しは楽しませろ」
そう言うと玉座から魔族が立ち上がりました。
た、戦わなくては……!
この国の王の娘として……!
「姫様、下がっていてくれ」
「ゆ、勇者様……?」
「スキルを使う。巻き込まれないように」
「……はい」
真剣な眼差しに、私は頷く事しかできませんでした……。
魔族の脅威からこの世界を救ってほしい。
そう祈って異世界からお呼びした勇者様は、神様から特別な能力『スキル』を与えられたそうです。
きっとその力ならあの魔族を……!
「行くぜ」
「来い」
「顕現せよ! 『真なる剣の砕き手』!」
!
勇者様と魔族を結界のようなものが包みました……。
一体どんな力が……?
「どんな能力か知らんが、まずは小手調べだ」
魔族が魔力を高めると、木の実程の大きさの黒いつぶてが無数に現れました!
あんな数、避けられるはずがありません……!
「食らえ」
凄まじい勢いで放たれたつぶてに、勇者様は、動かない……!?
あぁ! 勇者様!
「何!?」
魔族の驚いた声に、つぶってしまった目を開けると、無傷の勇者様が変わらず立っていました!
一体どうやって……!?
「くっ、何が起きた!?」
再び魔力を高め、先程よりもたくさんのつぶてを放つ魔族!
襲いかかるつぶてを、勇者様は……!?
「えっ!?」
「何だと!?」
つぶてが勇者様に当たる前に、床に落ちていく……?
あ! よく見ると、鼻が大きく髭をたくわえた、ドワーフみたいな小人が、つぶてを踏んで落としていっています!
赤い帽子と緑の帽子の二人の小人は、小さな鐘を鳴らすような音を立てながら、全てのつぶてを踏み落としました!
すごい!
つぶてを弾いているはずなのに、小さな鐘を鳴らすような音が響いているのは何故かわかりませんが……。
「……ならばこれならどうだ」
「なっ……!」
何て大きな火球!
あんなものを受けたら、人の身体は骨も残さず焼かれてしまう事でしょう!
「くたばれ」
魔族の手から放たれた火球は、一直線に勇者様に向かいます!
巻き起こる爆発!
勇者様!
「残像だ」
「何っ!?」
魔族の後ろに勇者様が!
当たったと思った瞬間に避けて魔族の後ろに回ったのですね!
「……ごほっ」
え?
爆発の煙の中から、髪の毛がちりちりになった勇者様が!?
く、口から煙を吐いてる……!?
「ふふっ、かかったな。今当たったのは本体! こっちは残像だ!」
「え……?」
「え……?」
そう言うと、魔族の後ろの勇者様の姿は消えました。
私と魔族は呆気に取られました。
だって残像の意味ないじゃないですか!
で、でもあんな凄まじい火球を受けたのに、髪の毛がちりちりになっただけで済んでる勇者様が実はすごい……?
「すごい憎しみの力だな」
「何!?」
「あんたの魔法からは強い憎しみを感じた」
「くっ……」
あ! そうなのですね!
魔族の事を知るためにわざと魔法を受けたのですね!
……なおの事残像の意味は……?
「俺は知りたい。あんたの憎しみの理由、この国を攻撃した理由」
「……!」
勇者様は魔族を理解しようとしていますの……!?
確かに私もそれは知りたいです……。
突然攻撃され、理不尽に支配された理由を……。
「それと何より……」
「……」
「あんたがカレーライス派なのかライスカレー派なのかをな」
意味はわかりませんけど、それ多分どうでもいい事だと思います。
「教えたところで何になる! 何を話そうと人間と魔族が分かり合えるはずがないのだ!」
「ばっきゃろーう!」
「ぐはっ!」
ゆ、勇者様が魔族を殴り飛ばしました!
大聖堂の鐘くらいまで打ち上げられた魔族は、轟音と共に地面に叩きつけられます!
……この部屋の天井って、そんなに高かったでしたっけ……?
「暴力では何も解決しない! 話し合いにならないからと暴力に訴えるなんて、最低の行為だ!」
「ぐっ……! お、お前がそれを言うのか……!」
すごい高さから落ちたように見えましたけど、よろよろしつつも立ち上がったのできっと私の見間違えですね、はい。
あとこの点に関してだけは魔族の言う事に同意です。
「ならば教えてやる! 俺が何故人間を憎むようになったのか!」
!
魔族の顔が怒りと憎しみに歪みます!
一体どんな過去が……!
「まだ人間と魔族が共存していた時代、俺は人間の娘ロピーサと恋に落ちた……。だがその美しさに心を奪われたのは俺だけではなかった……」
わ!
本当に美しい方です!
これなら多くの方から求婚されたでしょうね……。
……あれ?
「そして村長の息子は俺からロピーサを奪うべく、俺の悪評をばら撒いた。そして村の男達に金を握らせ、俺を襲わせ、家に火まで放った……」
ひどい……!
そんな光景をにやにやしながら眺めるなんて、最低です村長の息子……!
……あれれ?
「だがロピーサは俺と村を出て新しい土地で二人で暮らそうと言ってくれた……。それを知った村長の息子は取り巻きと弓を持って馬で追いかけて来て……!」
あぁ!
魔族の肩に矢が!
倒れた魔族をかばって、ロピーサさんが立ちはだかって……!
このままでは……!
……あれあれ?
魔族の横に浮かんでいるこの映像は一体何なのでしょう……?
!
勇者様がいない!?
一体どこへ……!?
『ピコハン祭りじゃー!』
えっ!?
何故勇者様が魔族の過去に……!?
あぁ! 赤い木槌のような者を、村長の息子達の頭に振るっていきます!
『ピコハン祭りじゃー! ピコハン祭りじゃーい!』
軽い音なのに、次々と気絶させて……!
ものの数秒で全員が倒れ伏しました……!
あんなに大きなこぶを作って、見た目以上に強烈な威力なのでしょうか……?
「な、何をしているんだ勇者……!? だ、だがロピーサが生きている……!? ロピーサ!」
『リザーロ!? でもここにもリザーロが……!? あなたがどうして二人……!?』
「何でもいい! ロピーサ!」
あ! 魔族が映像の中からロピーサさんを引っ張り出しました!
……わー、もう何でもありですね。
「あぁ! ロピーサ! 再び君を抱きしめる事ができるなんて……!」
「ど、どうしたのリザーロ!? まるで何年も会えなかったみたいに……!」
「何でもいい! 今はこの喜びだけを感じていたい……!」
感動的な再会、と言っていいのでしょうかこれ……。
あ、勇者様が映像から戻って来ました。
「あーあ。とんでもない事したな、あんた」
「何であろうと構わない! ロピーサが生きてここにいる! それだけで俺は……!」
「とにかくひとまず離れた方がいいぜ」
「嫌だ! もう二度と離すものか!」
あー、どうしましょうこれ。
あれ? 何だか騒がしくなってきましたが……?
「リザーロ! 何かあったの!? 急に叫んだりして!」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
……扉から入って来たのは、年配の女性……。
顔立ちがロピーサさんにとても良く似ていて……。
お母様、と言うには若いですし、歳の離れたお姉様、でしょうか……。
「……何その女……」
「え、ろ、ロピーサ……?」
「私という妻がいながら、若い女と抱き合っているなんて!」
え、どういう事でしょうこれ……。
「ひどい! あんなに甘い言葉をささやいてくれていたのに、奥さんがいたなんて!」
「え、いや、その、俺も何が何だか……」
「あなたのためなら死んでもいいとまで思っていたのに!」
「何ですって!? 若い女の子にここまで思い詰めさせるなんて! 昨日今日の付き合いじゃないって事ね!」
「あの、まぁ、そうなのだが、これは一体……」
あ、これどっちもロピーサさん……?
「勇者の力で過去を改変したのに、そこからロピーサを連れ出して来ちまったもんだから、この時間軸にロピーサが二人いる事になっちまったのさ。やれやれ」
「はぁ……」
解説は有り難いのですけど、何なのでしょうこの黒い色眼鏡のスライムさんは……。
そしてやっぱりあまり意味がわからない……。
「女の敵!」
「許せない!」
あ、二人のロピーサさんが二の腕をまくり上げて、呆然と立つ魔族目掛けて挟み撃ちにするように走り出しました!
『天誅!!』
「ぐほぁ!」
二人の二の腕に首を挟まれ、目と舌が飛び出した魔族は、そのまま崩れ落ちました。
あ、腕を絡めた二人のロピーサさんが見つめ合って……。
「……成程、こうして触れ合うとわかる……。あなたは若い時の私だったのね……」
「じゃああなたはリザーロと結婚した私……?」
「えぇ。あの村長の馬鹿息子から救ってくれた人が、結婚した後二人でこの王宮で働くよう言ってくれてね」
「そう……。良かった。私達、幸せになれるのね」
「えぇ。とっても」
あ、二人のロピーサさんの身体が光って、一つに重なっていきました……。
弾けるような音と共に光の粒が散らばって、ロピーサさんが一人の姿になりました。
散った光の粒の一つが人の形に……。
あ……!
「お、お父様!?」
「何じゃロベリー? 死人が生き返ったような顔をしおって……」
正にその通りなのですけれど!?
ど、どうして魔族に殺されたお父様が……!?
「過去と今のロピーサが一つになった事で、ようやく過去改編の力が発揮され、リザーロがこれまでに命を奪った事実のない現在に繋がったのさ。やれやれ」
スライムさんの解説に解説がほしいところですけれど、これまでに失われた命が蘇ったのなら、こんなに嬉しい事はありません……!
これも全て勇者様のおかげ……!
……過程はめちゃくちゃでしたけど。
「『真なる剣の砕き手』、確定!」
そう言うと勇者様は大きく息を吐きました。
それと同時にあの結界のような空間も消えました。
「勇者様! ありがとうございます!」
「何とかうまくいったか『真なる剣の砕き手』は『理不尽な不幸を不条理ギャグで上書きする』スキルだから、制御が難しいな」
「は、はぁ、そう、なんです、ね……?」
何だかよくわかりませんけど、過去の不幸すら塗り替える力だとしたら、凄まじい力です……!
「ロベリー、この方は一体誰なんじゃ? 何故玉座の間に……?」
「お父様! この方は勇者様で、この国を魔族の危機から救ってくださったのです!」
「魔族の危機? 何じゃそれは?」
「え……?」
「魔族の脅威は確かにあるが、この国ではリザーロのおかげで全く問題ないではないか」
ど、どういう事でしょう……?
「無駄さお姫さん。勇者の力でリザーロの悪行はなかった事になった。つまりこの国は初めから『何事もなかった』事になり、勇者の功績もゼロ。やれやれ」
そ、そんな……。
あんなに必死に戦って……、必死、ではなかったかもしれませんけど戦ってくださったのに……!
「まぁ『真なる剣の砕き手』で人を救う旅ってのはこんな事の繰り返しなのさ。やれやれ。まぁ俺は魔族の脅威がなくなるまで付き合ってやるけどな」
「何仲間ヅラしてんだテメー!」
「ぎゃあああ!」
あ、スライムさんが蹴り飛ばされて星に……。
という事は勇者様はこれから一人で旅を……?
私が『この国』ではなく『世界を救ってほしい』と祈ったせいで……!
「じゃあな姫様」
「え、あ、待って! 待ってください! 私も付いて行きます!」
「え?」
「何を言っておるんじゃロベリー! 一国の王女がどこの馬の骨ともわからん男と旅をするだなんて……!」
お父様はお怒りは当然です。
でも私は勇者様を一人にしたくない!
「……物好きだな。勝手にしな」
「はい!」
「待つんじゃロベリー!」
こうして私は勇者様と旅をする事になりました。
世界を救い、勇者様を元の世界に帰すその日まで……。