表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3:事故か事件か

「アナスタシア取り乱してすまなかった。事件か事故か。まずはそこを決める必要があるな」


 死体を検分していたアナスタシアが静かに同意した。


「アナスタシアはこの事件どう見る?」

「場は密室、内部にゴブリンがいたことから新種のゴブリンの可能性があるかと存じます」

「ほう、ではアナスタシアは自然発生的なものとみるのだな」

「ええ、確証はありませんが、ゴブリンに殺られて、ただテキサスホールデムを感じるとこで死にたかっただけの可能性がこの男にはあります」

「まあ確かに……テキサスホールデムをこよなく愛していた男だった。その可能性はあるだろう」

「ではお姉様はそう考えてない……と」

「ああ」

「考えられる可能性は3つある……だが一応対応はしておくか」


 脱ぎ散らかした服が積み重なった中から手鏡を取り出す。


「マーガレット、いるか? ギルドにクエストを発注しろ。大至急だ」


 無機質だった鏡がビクンと小刻みに揺れて、急に飛んでいきそうになるのをシャーロットが抑えた。

 鏡に映るのはシャーロットではなく、縦髪金髪ロールの溌剌とした令嬢が好奇心に目を輝かせて映っていた。

「んまー。シャロ様放映ですの? そのお姿は些か刺激が強いのではごめん遊ばせ。え? なんですの? 全裸を放送するわけではないですの? ああまたゴブリンですの? ギルドはもうお腹いっぱいとブーイングが起きますわ」

「言わせておけ」


 おまかせされましたわと鏡が自我の切れた操り人形のようにただの鏡となり重力の影響を受ける。

 マーガレットは今頃各ギルドの鏡に現れクエストを発注していることだろう。


「マーガレットにグレイソンが死んだことは伝えなくて良かったのですか」

「今は余計な情報を与えるべきではない……ただの新種のゴブリンの調査なのだからな」


 恐らくどこにもいないがな、と下着姿だったシャーロットがその手に手甲をはめていく。


「アナスタシア魔物が自然発生する原因はなんだ」

「高濃度のエーテルで満たされているダンジョン内部と一部の外エーテル溜まりで魔物は確認できます。よってエーテル溜まりから魔物が発生するものと考えられています」

「そうだエーテル溜まりだった。これが考えられる理由の一つ目だ。だがこの可能性は低い」

「低い……あっ」


 何かに気が付いたようにアナスタシアが周りの地面や壁を見渡す。


「ない」

「そうだエーテル溜まりがある場所には必ず魔力草が生えている。だから、魔力草がないこの場所はおかしいんだ。よって魔物は出ないのだが例外がある。なんだか分かるな」

「分かりますが考えたくもありません。魔王は無から魔物を生み出していたと聞きます……でも魔王は」

「ああ。先日私たちが倒した。考えたくないが考えなくてはならん。もう一つの魔物が生まれる可能性。エーテル溜まり以外の例外。魔王の存在だ」

「……まだ生きているのでしょうか」


 アナスタシアが翳りを帯びた声で呟いたがシャーロットは反応しなかった。


「とにかくこれがグレイソンが死んだ可能性の2つ目だ」

「3つ目は何でしょう?」

「なーに魔物の発生に見せかけた他殺だよ」


 他殺……と言葉を呑み込むアナスタシアに問いをシャーロットが投げかけてみる。


「アナスタシアはどれが可能性が高いと思う」

「私はやはり新種のゴブリンで魔力草が咲くよりも早くエーテル溜まりがあり、魔物が生まれて霧散したのだと思います」

「それは違うな。新種のゴブリンならグレイソンはゴブリンを殺しにいっただろう。だから、この線はなしだ。この場所が危険ならば、グレイソンはわざわざ自分を目立たさせて、引き寄せることをしてはいなかっただろう。やつはふざけてはいるがそういうところはきちんとしたやつだった。むしろ注意喚起の為、人を遠ざけるような行動をしたはずだ」


 シャーロットが指を3つ立てる。


「①ただのエーテル溜まりならそこで生まれた魔物ゴブリンをわざわざ見逃したりしない。意味不明な行動をとるぐらいなら命と引き換えに殺したはずだ」


シャーロットが指を1つ折り曲げ残るは2つとなる。


「②魔王が現れたとするなら、現場が綺麗すぎる。砕けた壁や地面などは一切無い。グレイソンが死んでいなければここで激しい戦闘があったとは思わない……魔王マハルティア討伐の時の残骸が残っているが、私の記憶では新しい争いのあとはない」


 アナスタシア以前の様相を覚えているか。以前との違いが何かあるか。と念のため問いかける。


「お姉様私も注意していますが、これ立てて怪しい場所はなく……強いて言うならグレイソンぐらいでしょうか」


シャーロットが人差し指でダイヤのAを指さし、「最後の1つ……他殺」と自分を奮い立たせるように言った。

「グレイソン……他殺なんだな。お前を……殺ったやつがいるんだな」

「他殺……ですか」

「ああ、恐らくな」

「グレイソンが囲まれているのはトランプ。それも大祓で使用された特別製のデックだ。それが、グレイソンのダイイングメッセージだとしたら周囲にばらまかれているということは大祓関係者となる。Aに囲まれているグレイソン。……大祓それもA級冒険者か」


 マーガレットとの連絡用の鏡をアナスタシアに投げ渡し「大祓ファイナルテーブル参加者を王城に呼べ」と伝えたらアナスタシアが困ったように返事をしてきた。


「なんていって招集をかけましょうか」


 自嘲気味にシャーロットが笑う。


「密室殺人だ。その容疑者だと伝えてくれ」


 まあ、大方グレイソンが自分のスキルで閉ざしただけだろうがな、とシャーロットは誰にも聞こえることなく心の内で呟いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ