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9.恋バナでしか得られない栄養がある気がする

怜王に両思いだと言い張られた日からは、何の変哲もない日常が続いていた。…いや、少し違うか。怜王が私に触れてくるようになったのだ。触れるとは言っても頭や肩に軽く触れるような他愛のないものだ。手を繋いで帰るような恋人同士のようなことはあの時以来していない。

それに会話も今までと変わりない。少し気持ちの悪いことを言うのも相変わらずだし、それに対して私が反論するのも相変わらずだ。


そんな日常を経て、今日は中学校の時の友人と会う日なのだ。

中学校では私を含めて四人で行動することが多かった。連絡をくれたムードメーカーの莉佳子、しっかり者のさくら、おっとりとした瑞樹である。同い年とは言っても今は一つ上の学年になるんだなぁ、と思うと不思議な気持ちだ。

少しの緊張と、久しぶりに友人に会える喜びに心が支配されている。思い返してみると、高校入学してからの友達とは疎遠になってしまったし、留年してからはずっと怜王と行動を共にしていた。こういった集まり自体が久しぶり過ぎてどうやって接していいかわからないかもしれない。

そう考えれば考えるほど、喜びよりも緊張の割合が大きくなってきた。それでも足は待ち合わせの駅に向かって進んでいる。ふとスマホを見ると着く時間はギリギリになりそうだった。その為少し小走りで目的地に着くと、連絡をくれた莉佳子がこちらに手を振っていた。

「瑠々~。こっちこっち~、久しぶりじゃ~ん。」

「莉佳子―!久しぶり!めっちゃ髪伸びたんじゃない?」

「そうそう~、今伸ばしててさ~。」

会う前は緊張して何を話していいかわからなかったけれど、実際会ってみるとすんなり会話が出来る。その事に少し安心しながらも、二人が遅刻するのかが気になって、莉佳子に聞いてみた。

「そうそう、別の場所に集合にしたんだよね~。ほら、いきなり数人だと緊張しちゃうかな~って思って。まぁ考えすぎかもしれないけどね。」

「いや、そんなことない。そっちの方が助かるよ~。」

実際に緊張していたからか、そんな気遣いが嬉しい。莉佳子はこういう気遣いが出来るから色々な人に頼りにされるし、友人が多いのだ。これがモテる理由か~、なんて感心しながら二人で集合場所に向かった。

着いたのは街中にあるカフェだった。初めて入るお店に少し緊張しながらも、くるりと見渡すと同年代の人が多い印象だった。その中に見覚えのある二人組が手を振っていた。

「莉佳子と瑠々~!こっちこっち~!」

「瑠々…、本当に久しぶり…!」

順にさくら、瑞樹が席から声を掛けてくれた。中学校に戻ったような懐かしさと友人に会えた喜びで胸が熱くなった。

「二人とも久しぶり~!元気だった?会えて嬉しい~!」

そんな会話をしながら同じテーブル席に座り、アイスカフェラテとセットのショートケーキを注文した。

どこからか情報を聞いたのか、私が行方不明だったことと留学したことは三人ともすでに知っていた。そのためすごく心配されたし、「定期的に連絡すること!」なんて叱られてしまった。学年が違うことに引け目を感じていた私は、そんな遠慮のない言葉に少し泣きそうになってしまったのだった。

そんなこんなで最近できたお店とか学校で流行っていることについて盛り上がっていたが、結局向かう先はこれである。

「そういえば瑞樹はこの前告白してきた男の子とどうなったの?付き合った?」

そう、恋バナだ。女子高生が四人も集まれば必然的にそういう話になる。

莉佳子に聞かれて顔を真っ赤にしている瑞樹は本当に可愛らしい。

「いや…、まだ友達で…。でも最近は部活ない日とか一緒に帰ってる…。」

「そう!こっちからすればもう付き合っちゃえばいいのに、って思うよ!傍から見てると、向こうが瑞樹の事好き~ってのがめちゃくちゃわかるから!」

そう乗り出したのはさくらだ。二人はクラスは違うけど一緒の高校だから、瑞樹達の様子をよく知っているらしい。

「え、そんないい感じなのになんで付き合わないの?性格が悪いとかってわけじゃないんでしょ?」

素直な疑問を投げつけた。

「いや、わたしがまだ好きじゃないというか…。き、嫌いなわけじゃないんだよ。でもこんな気持ちのまま付き合ってもいいのかな、って思って…。」

「恋愛感情ではないらしいよ!あー、あたしだったらすぐ付き合うのになー!」

さくらが項垂れながら言った言葉に心から賛同した。うんうん、そんないい雰囲気なんだから付き合っちゃえ。

「いやいや…、瑠々、あんた他人事みたいに感心してるけど噂聞いてるよ。とんでもないイケメンと一緒に居るけど付き合ってないんでしょ?どういうこと?」

お前が言うな、みたいな呆れた表情で莉佳子に言われてヤツの存在を思い出した。

「あ…。いやー…、っていうかなんで学校も学年も違うのに知ってんの?」

完全にブーメランである。油断していたらこっちが槍玉に当たってしまった。人の恋バナでニヤニヤしている場合ではなかったようだ。

「私の弟が瑠々と同じ学校で同じ学年なの。クラスは違うから関わりはないらしいけどね。…っていうかそんなことはいいのよ。しかも同い年なのに瑠々が留年するからって学校も学年も付いてきたって本当?瑞樹よりもすごい状況じゃない。」

「え!?まじ!?何その面白そうな話!その人の写真とかないの!?」

「瑠々、何がきっかけで話すことになったの…?」

う…、皆の興味がこちらに向いてしまった…。言えない…!行方不明の原因の大本である魔王だなんて口が裂けても言えない…!

「え、えーと…、「あれ?もしかして莉佳子?ってか…すげー懐かしいメンバーじゃねえ?」

誰だか知らないが助かった!声を掛けられた方に目を向けると中学校の時のクラスメイトだった翔太君が居た。

「翔太じゃん!どしたの!」

「え、なんでここに?」

さくら、莉佳子と口々に声を掛けていく。まさかこんなところで会うとは。

「え、瑠々も居んじゃん。なんか留年したとか噂で聞いたけど大丈夫だったのか?」

そう話しかけられた瞬間何故だか悪寒が走った。


…?


「よく知ってるね。そうそう、ちょっと色々あって一学年下なんだよね~。」

笑って答えると、背中に痛いほどの視線を感じた。

…。

嫌な予感がする。

見たくはない。何となく予想がつくからこそ見たくはない。けれど見ないともっと面倒なことになる予感がする。

ゆっくり後ろを向くと、離れた位置に怜王が拗ねた表情でこちらを見ていた。

あ、目が合って手を振っている。

…どうして居るんだ。というかいつから?最初から…とか…?しかもなんかあの空間だけ空気違くない?貴族かのように優雅にお茶飲んでるんだけど…。

「ちょ…、っと、お手洗い行ってくる。」

絶対に乗り込んでくることのないように言い聞かせなきゃいけない。

万が一にも!来てしまった場合質問攻めに遭うのは目に見えている!怜王に目配せをしたら、その意図を察したのか嬉しそうに付いてくるのが見えた。


…どうして嬉しそうなの…。


移動して皆から見えない位置に行くと怜王に詰め寄った。

「ねえ、なんでここに居るの?」

「瑠々が居るところならどこにでも付いて行くよ。」

「堂々とストーカー宣言をするんじゃない。ってそうじゃなくて!友人と会う時くらい放っておいてよ!」

「いやいや、いついかなる時も離れないのが彼氏の役目で…、」

「ちょっと、付き合ってな…「あ、瑠々~、翔太達と一緒にカラオ・・・ケ行こうってなったんだけど…、取り込み中?」

まずい。莉佳子が探して来てくれたらしく、運悪く見つかってしまった。

「いや、その…、」

「え、待って…、めっちゃイケメン…!え、この人が噂のとんでもないイケメン!?そうだよね!?なんで居るの!?」

あああああああバレたああああ。もうこれ誤魔化せる気がしない…。どうしよう、と頭を抱えて悩んでいると、莉佳子がとんでもないことを言い出した。

「え、瑠々が心配なら一緒にカラオケ行きますか?」

「は!?」

「集まりにお邪魔しちゃっていいんでしょうか?」

いやいや断ってくれ!そう眉毛を下げて申し訳なさそうにする怜王を睨んだ。

「いや、ちょっ…、「全然大丈夫です!なんなら瑠々の話とか聞かせて下さい!皆喜びます!」

「帰っ…「そしたらお邪魔させてもらいます。」」


さっきから全く喋らせてくれない。一番避けたかった事態に直面した私は、怜王が変な事を言わないことを祈るしかないと悟ったのであった。

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