8.逃げ道が塞がれていく
最近、怜王と付き合っているのか聞かれることが多くなった。そうなると必然的に恋愛について考えることが多くなってしまう訳で…。一応花の女子高生なので、恋愛に興味がないわけではない。恋バナとか大好きだし、小説とか漫画を読んでいると私もこういう恋がしたいなーと思う。
ちなみに怜王に告白されて数か月が経った。本来であれば早く返事をしなければならないところだが、怜王から「好きになった時だけ言ってくれ。」と言われているので返事を返せないでいる。その時は了承したのだが、冷静に考えると「あれ、永遠に断れないやつじゃないか?」と頭を抱えた。そもそも恋愛の好きが全く分からない。だって好きになるって一体なんなんだ?そんな状態だから今も中途半端な関係で過ごしているのだ。
その張本人である怜王は高校生に上手く擬態していると思う。人当たりが良いし、魔王のはずなのに傲慢な態度をとらない。運動神経も良いし、勉強はいつも一位を取っている。私の世界の勉強なのに一度だって勝てたことはない。見たものは忘れないらしいから、まず頭の出来が違うのだろう。それにクラスや先生の評判だって良い。魔王の時でも人間の時でも見た目が整っているし、身長も高く、スタイルが良い。そしてなんかいい匂いがする。
…ん?あれ、もしかして…怜王って完璧なのではないか?
なぜだかわからないが未だに私の事を好きだと言ってくれるし、可愛いと褒めてくれる。
そう、ちゃんと愛情表現をしてくれるのだ。…まあちょっと、というより相当気持ち悪い時があるけど。それはとりあえず置いておいて。
今まで魔王だというだけで考えたことがなかったけれど、世間で言う優良物件というやつなのではないか?…いや、まあそれが一番付き合ったらいけないところなんだけど…。
でも確かに魔王といってもこっちの世界では特に何もしていないんだよね。ただ少し目立つ高校生というだけで…。いやでも、それもそれでどうなんだ、ほら、アイデンティティ的に…。
ま、まあ、平和な事は良いことだし、それで良しとしよう。
うんうん、と頷いた。
「そういえば瑠々は彼氏とかできたの~?」
お…っと、隣に居ないことをいいことに怜王の事を考えてしまっていた。…本人の前で考えてると、なんかニヤニヤした顔になる…、え、もしかして私の考えてることわかってたりする?怖…。
「出来てないな~、好きな人くらいは作りたいけどなかなかね~。」
中学生の時の友人である莉佳子に聞かれてそう答えた。
危ない危ない。人数が居ることで次々変わっていく話題に付いて行かなければ。最近数人で集まって話す機会がなかったからか、話題の変化についていけないでいる。
ちゃんと話を聞くぞ、と気合を入れた時に身に覚えのある視線を感じた。
嫌な予感を感じながらその方角を見ると、離れたところに全く変装する気がない怜王を見付けた。
…いや、本当にこういうところがなければな…。そう思って私は溜息ついた。
時は三日前に遡る。
すべての授業が終わると怜王と帰るのが日課になっていた。これに関しても最初は図書室とかに行って時間をずらして帰ろうとしたけど、いざ帰ろうとするとどこからともなく現れる。授業が終わって速攻で玄関に行っても何故か居る。もう一人で帰るのは諦めるしか方法はないようだと悟った。
…こっちでいうGPSとかが付いてるんじゃないだろうか…。
そんな悍ましい想像は置いておくとして。と、まあそんなこんなで今日も一緒に帰っている。
「そうだ、この前に気になるって言っていたカフェに行かないか?今度の土曜とかどうだろう。」
「あー、土曜日は用事あるんだよね。」
怜王に誘われたが、断った。なぜならこっちの世界に戻って来てから初めて中学時代の友人に誘われたのだ。高校に入ってから異世界に飛ばされたり、魔王に付き纏われていたりして友人と遊ぶという機会がなかった。なんなら高校に入ってから友人と呼ばれる存在が居ないのだ。これは行くしかないだろう。そう楽しみにしていると、横から視線を感じた。その視線の先には、心の底から驚いたの怜王が居た。
…え、何。
「今まで用事あることなんてなかったじゃないか!家にいるか勉強するかだったのにどうしたんだ!?」
いやいや、失礼だな。用事くらい今までだって、あ…、…。いや、確かに高校では友達が作れていないし?部活にも入っていないから放課後に遊んだり土日に出掛けたりすることはなかったけど?だからといっていつでも暇なわけじゃないし??
そんな反抗的な気持ちがふつふつと浮かんできたが、返事をしないのも子供っぽいと言われそうで口を開いた。
「中学の時の友達に誘われて遊びに行くの。…私だって用事あるときだってある。」
「そ、そのちょっと拗ねた顔も…可愛い!!…い、いやいや、違う…いや、違わない…だけど…!」
全くもう。ごちゃごちゃと何か言っている怜王を無視して先に進んでいく。連絡をくれた子はわかるけど、他は誰が来るのだろうか。まだ詳しい内容を聞いていない。皆は相変わらず元気なのだろうか。卒業してからだから一年半くらいか。そんな事を考えてると、後ろに居た怜王が小走りで横に並んだ。
影が出来て怜王を見上げると、寂しそうな、少し苦しそうな顔をして呟いた。
「友達居たのか…。私には瑠々しかしないのに…。」
え。
ちょっと待って、今まで居ないと思われてたのか…?
でもそうか、私は今まで友人と遊んでこなかったし、怜王はこっちに来るまで友達とかの概念がなかった人だからな。
「でも怜王は他に友達欲しいの?」
いつも私と一緒に居るけど実際どうなのだろうか。男友達を作ることに興味があったりするのだろうか。
「いらない。私には瑠々が居ればいい。」
そう断言されたことで苦笑いしてしまった。
「だから私以外にも同じ関わりをもつ人間がいることが…なんというか、もやもやする。」
しどろもどろに説明する怜王は自分のその感情が何かもわかっていない様子だ。何かを探すような、迷子になった子どものような表情だった。初めて見るそんな表情をつい凝視してしまう。
いつも何処か掴み所が無くて、冷酷な表情を見せたと思ったらすぐに別の表情をする。すべてをわかっているような表情ばかり見ていたから、驚いてしまったのだ。そんな不安そうな顔をする怜王を慰めたくなったのだろうか。無意識の内に私は俯く怜王の頭を撫でていた。
目を見開いてじわじわと赤くなっていく頬に安心感を覚える。
「瑠々、あの…。」
そんな焦った声に、ハッと我に返った。
え、私、今頭を撫でてた…?自分の行動が信じられなくて、引っ込めた手を見つめて唖然とする。言葉で伝えればいいものを、わざわざ触れてしまったのは何故なのだろうか。
「な、なんでもない、ごめん。…そうそう、友達と言っても一年は会っていないけどね。怜王とはほぼ毎日会ってるじゃない?」
そんな疑問からは逃げて、話を元に戻した。
「る…、」
る?
怜王がわなわなと震えている。
「瑠々が…!初めて私に触ってくれた…!なんという事だ…!これが両想い…!」
話は元に戻せなかった。
いや、言い方…。というか何?今両想いって言った!?
「ちょっと!両想いって何!?好きなんて一言も言ってないんですけど!?」
流石に否定させてもらう。勘違いも甚だしいのではないか。
「そうかそうか。瑠々は照れるといつも以上に可愛いな。」
今まで怜王から触られたことがなかったのに、いとも簡単に頭を優しくなでられた。
優しい手つきに身をゆだねてしまいそうになる。
…いや、違う!両想いの誤解を解けてない!!
「いや、だから…!「そういうことなら土曜日楽しんでくると良い。」」
「あ、うん…。」
…。あれ、結局否定できてない気がする。いや、これはちゃんと否定しなくては!
「両思…!「ムキになっている姿もかわいいな。」」
「そうい…「あまり遅くならないでくれ。」」
…。
毎度言葉を遮られる。これは言わせる気がないな。
そう確信した私は深い溜息を吐いて否定するのを諦めた。怜王の方を見るとニコニコとした笑顔を向けてきた。
…まぁいいか。どうせ学校で恋人を作れる気がしないし、正直言ってかっこいい人って誰だかわからないし。
視線を感じて怜王を見つめると、次は恥ずかしそうに顔を赤らめた。しばらくして目をぎゅっと瞑ったかと思うと、私の右手は怜王の左手に繋がれていた。手を離すことも出来ないまま引っ張られる形で歩き始めると、後ろから見える耳と首筋は赤く染まっていた。直ぐに手を離そうかとも考えたけど、思ったよりも手を繋ぐことが嫌じゃなかったことに驚いて離すことをやめたのだった。
初めて繋いだ手は、大きくてゴツゴツしていて温かかった。
…というより。
「汗かいてる。」
「ぁぁぁぁぁあ、瑠々の綺麗な手に私の体液がぁぁあああ。」
「気持ち悪い言い方をしない!」
正直すごく引いた。手を離そうとしたけど、思いっきり握られてて手を離すことが出来なかった。なんでこう変な言い方をするんだか。そう呆れて怜王を見ると、まるでいたずらが成功したような楽しそうな表情をしていた。
手を繋ぐだけで本当に嬉しそうな顔をする怜王に、文句も何も言えなくなってしまった。
それからはお互い会話をするでもなく、その日は帰路に着いたのだった。




