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5.夢にしては鮮明で

母が部屋から出て行った後はなんとも微妙な空気が流れる。とりあえずジュースを飲んで気持ちを落ち着かせよう。まずは色々な疑問を解きたい。

「一目ぼれって言っていたけど、本当に?一瞬目が合っただけでしょ?」


ゴホッ


そう疑問を口にすると、魔王はジュースが器官に入ったのか、むせてしまった。

「え、大丈夫?」


魔王は「き、君がいきなりそんな事を言うから…。」とゴホゴホと咳き込みながら涙目になっていた。…どうしよう、本当にイメージと違う。

「だって、一目ぼれで別の世界まで追ってきて好きだって言われても、正直信じられないんだけど…。しかも一応敵同士だったわけだし。」

正直な気持ちを伝えると、目の前には顔を赤らめる魔王が居た。

え、なんでこの質問で顔を赤らめる…?

「実は君を初めて見たのは向こうの世界に召喚された時だ。いきなり人間界から膨大な、身に覚えのある力を感じて何が起きたのかと思った。向こうにいる仲間からの通信で君の姿を見た時に可愛いと思って…。」

大切な思い出を語るかのように、魔王は恍惚とした笑みを浮かべていた。


え?待って、人間界に仲間がいるの?しかも私のことは最初から知っていたってこと…?

次々と疑問が浮かんでくる。

「毎日君が必死に魔法を勉強する姿を見て、努力を怠らない子なんだと思うともっと君の事が知りたくなって…。あと、初めて見たのであろう建物に興味津々になって目を輝かせている姿が愛らしくて…。」


ん?


「剣術なんて君の役割じゃないからしなくていいのに、強くなろうと頑張っている姿を見ていると胸がときめいて…。訓練に加えさせてほしいと言っている姿は凛々しかったな。そうそう、君が訓練で怪我をしたときに駆け付けようとして部下に止められたこともあった。」


ん??


「気が強いところもあるけど、無理矢理呼ばれた相手にでも優しくできる性格がすごく好きで…。むしろ、その気が強いところが魅力的だと思った。召喚された当初の啖呵は見事だったな。」


んんん???


「他の男と楽しそうに話している姿を見るのは胸が苦しくなったけど…、会いに来てくれると思うと嬉しくて…。」


んんんんんん?????


「城で初めて直接姿を見ると映像で見ていた時よりも何倍も綺麗で…、目が合った瞬間に緊張で胸がはち切れそうになってしまった。その時にやっとこれが恋だと…「ちょちょちょちょ、ちょっと待って。」」


暴走を止められた魔王は「まだ途中なのに…、」としょんぼりとしているが知らん。無視だ。

「もしかして…、ずっと見てたの?」


「い、いや、もちろん着替えとかお風呂とかは見てない!」

「ずっとではないぞ!」と反論する魔王を傍目に私は頭を抱えた。


この人ストーカーだー!!!


向こうに転移してから三年間過ごした。…え?三年も…?三年もストーカーされてここまで来たってこと…?

しかも倒しに行くことを会いに行きてくれるって解釈をするのは一体何なんだ…。ポジティブに考えすぎじゃないのか。

「あの…、頑張ったのはあなたを倒すためで…。魔王城に行ったのも倒そうと思っていたから行っただけで…。」

ちょっと引いてしまって語尾が小さくなってしまう。いや、嘘だ。ドン引きしている。なんなら怖い。

「知っているぞ?いつもの事だからな。」

そう胸を張って答える魔王はなんてことないようだった。

「…いつもの事?」

「あぁ、あいつらは五十年に一度くらいの頻度で訪れるのだ。だから人間側にも仲間を忍び込ませて来る時がわかるようにしている。実際相手をするのも面倒くさいし、とりあえず倒されたふりを毎回しているな。ただ、倒され方にレパートリーがなくてな…、もっと斬新なものがあればいいのだが…。」


魔王討伐が風物詩になってる!!


「毎回もうそんな時期になったか、と皆と話しているな。」と言って魔王は一人で頷いている。


完全に風物詩だ!!


そんなアトラクションみたいな物の為に家族と引き離されたわけ!?…というか絶対倒せるように出来ているなら私の今までの努力って一体…。

怒りを通り越して気が抜ける私を見て、魔王は苦笑いをして慰めてくれた。

「それでも君が努力をしたからこうして強い気配をたどって私がここまで来ることが出来たのだ。」

…マイナス…!何もプラスになっていない。着いて来なくていいよ。その言葉は私にとって慰めにもなっていなかった。

すべてが裏目に出ていることを知った私はもう何を言われても驚かないだろう。それくらい既に疲れ切っていた。お行儀が悪いが、テーブルの上に頭を乗っけてしまっている。

「ちなみに…向こうに居た時に魔王は悪行を繰り返していて世界を滅ぼすとか聞いたけど実際どうなの?」

魔王は顎に手を置いて少し悩むような仕草をした。

「うーん…。今人間が被害を被ってるのは魔獣の事だな。あいつらはこっちで言う野生生物みたいなもので人間を襲う。話も通じないから私の方で制御することも出来んし…。まあ、昔は色々あったから私達魔族が何もしていない訳ではない。」


あー、昔…。昔、かあ…それで人間側が恨みを持つのもわからなくもない、けど…。私が召喚される必要ってあったのだろうか。

そんな複雑な気持ちが通じたのだろう。魔王は「必要ないわけではないぞ。」と否定した。

「私が世界を滅ぼそうとすれば出来きてしまう。だからこそ人間は倒そうとしてくる。私が魔族の中で一番強いから魔王にさせられているのだからな。」

私の目を見ると、試すかのように妖しい笑みを向けてそう言い張った。

「ま、面倒だししないがな。人間の営みを見るのはなかなか楽しい。」

そう言うと表情を崩してけらけらと笑った。

…一瞬にして場が凍り付いた。呼吸をするのを忘れてしまったほどだ。やっぱりこの人は魔王なのだ。魔族の頂点。すべてを従えるもの。その片鱗を見た気がした。

「それで…。」

魔王はさっきの雰囲気とはガラッと変えて私から目線をそらすと、もじもじと照れだした。

「あの…、告白の返事なのだが…。」

…あ。忘れていた。そっか。告白されたから返事はしないとね。…いや、待て。さっきの姿を見て断れる人なんているのだろうか。断った瞬間に地球を壊したりしない??…でも、付き合うって…魔王と…?そう考えて魔王を見つめる。

人間の姿の彼は髪の長さも違っていて肌に血色がある。日本人に合わせたのか、髪の色は変わらないが瞳の色は焦げ茶色になっている。魔王の時の顔の造形と大きく変わっていないが、不気味さや冷酷さを感じない。近寄りがたい雰囲気は残っているものの真面目な優等生に見える。ただ、元が整っているからかやけに美形だ。少し変化を加えるだけでこんなにも印象が変わるものなんだな、と感心していると魔王の顔がどんどんと赤く染まっていた。

「そんなに見つめられると…、恥ずかしいのだが…。」

「あ、ごめん。」

確かに見すぎたかもしれない。なんなら少しずつ近づいて行ってしまっていた。でも私の事が好きというのは本当なのだろうか。

「本当にただの疑問なんだけど、お互い別の世界の生物じゃない?しかも魔王と人間って種類が違うと思うんだけどそれは大丈夫なの?」

いくら人間の姿に成れるとはいえ、元々の体の作りが違うのではないだろうか。先程の緊迫した雰囲気にのまれて、喉が渇いたのでジュースを口に含んだ。

「あぁ、生殖器は人間と同じだから問題ないぞ。」


ゴホッ


口に含んだジュースを吹き出しそうになってしまった。零さなかっただけ良しとしよう。

え!?え!?いや、そういう事じゃなくて…。ん…?そういう事なのか…?自分でも何が何だか分からなくなってしまった。

え、でもそういうことは…。

「えっと…、私とそういうことをしたいって事…?」

つい口から出てしまった言葉に、魔王は耳まで真っ赤になって両手で顔を隠してしまった。

まずい。さすがに遠慮なく聞きすぎたかもしれない。無神経だったと思い、すぐに弁解しようとした時だった。

「したい。…けど、無理矢理して嫌われる方が辛い…。」

直球で言われて恥ずかしさで言葉を失ってしまった。自分の顔が赤くなっていくのを感じる。そんな力があるなら従わせればいいだけなのに。魔王にとってそれは容易なはずだ。

「なんでそこまで…。」その疑問の声は小さすぎて魔王には届かなかった。

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