4.ギャップに気を取られて話が進まない
前回のあらすじ
〈異世界の魔王らしき人が彼氏面していた上に告白してきた〉
「一目ぼれしました!好きです!」
…いや、いやいや、何言っているの、どういう事?言っていることは理解できても意図が理解できない。
…というか目の前で顔を真っ赤に染めているこの人は本当に魔王なのか?…もしかしたら人違いではないのだろうか?先程の絶対的な自信が揺らぐくらいには目の前の人と魔王との印象がかけ離れすぎている。
「…直接会うのは、これで二回目だからこれから私の事を知ってもらえると嬉しい…んだが…。」
身長は私よりも高いはずなのに、恥ずかしがっている姿のせいかなぜだか小さく見える。
会うのが二回目…?それなのになんで私と付き合っていると両親に言っているんだ、この人は。
魔王であることの怖さよりも、知らない内に外堀を埋められているという方が怖くなってきた。
「…ちなみに、会ったのっていつ…?」
じりじりと後ろに下がっておそるおそる問いかける。先程とは別の緊張感で手に汗を握った。
「私の城に会いに来てくれただろう。」
城??会いに来る?
思い当たる場所なんて一つしかない。
…やっぱりこいつ魔王じゃん。先程の感は当たっていたようだ。
え、なんで魔王がここに?
いや、たしかにあれで倒せていたのかは疑問に思っていた。思ってはいたけど…。
生きていることはあったとしてもなんで私の家にいるの?
混乱して声が出せない私をよそに、彼は今思い当たったかのように「そうか、この姿だからか。」と呟くと、魔王城で見た姿に戻っていた。
黒い髪はぐんぐんと腰のところまで伸びて、片目は前髪で隠された。けれどそこから覗く青い瞳の色は深く冷酷さを思わせる。透き通るほどに白い肌と血色のない薄い唇は生気が感じられない不気味さを持ちながら、顔立ちは精巧な人形のようだ。ハッとするような美しさの中に獰猛な獣のような雰囲気が滲んでいる。角が生えている姿は、彼が人間ではないことを表していた。
…これは魔王だ。まごうことなき魔王だわ。あー、うん、なんか、こんな感じだった。うろ覚えの記憶から引っ張り出した容姿と合致した。
でも、なんか…想像と性格が違いすぎたというか…。少し拍子抜けしてしまった。
「あの…、なんでここに居るの?」
もしかしてこっちの世界を滅ぼしにきた…とか?
「え…、もしかしてさっきの告白聞こえてなかったのか…?君に会いたくて…。」
魔王はショックを受けたような顔をしてこちらを見ている。目に見えて落ち込んでいる。
アイタクテ???
追ってきたの?別の世界まで??わざわざ???先回りまでして???
…おかしい。私が向こうの世界に行っていた時に聞いていた魔王像とかけ離れている。魔王は傍若無人でこの世界を滅ぼすためにあるとあらゆる悪行をしていたと聞いていた…はずなんだけど…。
「えっと…、魔王ですよね?」
「そうだぞ。」
即座に肯定された。
けれど目の前の魔王はどうだろうか。告白の返事をしていないことにそわそわし始めている。
「あの…、」
コンコンコンッ
口を開いたときに部屋のドアがノックされて、母が入ってきた。まずい、と思って魔王を見ると既に人間の姿に戻っていた。早いな。
「これ、お菓子と飲み物。良ければどうぞ。それじゃあ、れお君ゆっくりしていってね~。」
魔王は笑顔を浮かべながら「ありがとうございます。」と礼儀正しく会釈をした。
母は「お邪魔しちゃったかしら~。」と口元に手を当ててにやにやしながら飲み物を私に手渡すと、そそくさと部屋から出ていった。
…。
残された二人の間に微妙な空気が流れる。
そういえば警戒していてずっと立って喋っていた。ここまで来たならちゃんと話を聞こう。なんて面倒な事になっているのだろうと思うと、溜息が零れた。
「折角お母さんが持って来てくれから一緒に食べよう。適当に掛けて。」
魔王は私のベッドの方に座るべきかあわあわとしながら、テーブルを挟んで向かえの地べたに座った。
へぇ、意外だ。地べたになんて座らないと思っていた。とりあえずクッションが置いてあるからお尻が痛くなることはないだろう。
母から渡されたお菓子を見るといい値段がするクッキーだった。…母は魔王の事が相当気に入っているようだった。