32.大事な話は場所をわきまえて
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「怜王、今日家に行ってもいいかな…?」
学校からの帰り道、下を向きながら怜王の制服の袖を引っ張って引き留めた。聞かなければならないことがあるからだ。本当にこっちの世界で私と一緒に居ていいのかを確認したかった。何度も聞いてしつこいと思われるだろうけど人生に関わることなのだ。それにちゃんと聞いておかないとまた不安になって拗れてしまう気がする。
もうあんな気持ちはごめんだ。
…なんだか怜王からの返事がない。こんなに近くに居て聞こえなかったわけがないのに。
心配になって怜王を見上げると、顔を真っ赤にしながら口元に手を当ててこちらを凝視していた。思いがけない反応に目を丸くした。
え、何その表情…。
「る、瑠々…、いや、その、誘いは嬉しいが、高校生でいるうちは手を出さないと決めていて…。この前の事は調子に乗ってしまったというか…。もちろん私自身はしたい気持ちがあるのだが、それとこれとは別問題というか…。いや、でもせっかく瑠々からの誘いに乗らないなんてそんな…、いやでもご両親に申し訳が立たないし…。」
ぶつぶつと、いきなり饒舌になった怜王に驚きながらもその言葉を反芻した。誘い…?手をださない…?その意味を理解したとき一気に顔に熱が集まった。
「いや、違うから!ただ、今後の事について聞きたかっただけで、そんなやましい意味じゃなくて…!」
そんなつもりは全くなかったけど、言われてみればあの発言は言葉足らずだったかもしれない。
「…今後の事?」
どうしよう、と焦って弁明していると上から冷静な声が聞こえた。
「う、うん。…怜王は本当にこっちに居ていいのかなって…思って…。本当にこっちの世界で私とずっと一緒に居てくれるの?」
取り返しがつかなくなりそうで、結局その場で聞くことになってしまった。な、なんか改めて言葉にするとプロポーズみたいになっていることに気が付いた。聞き方を間違ったかもしれない。
「いや…、そうじゃなくて…!間違いではないんだけど…!」
弁明しようと慌てていると怜王に抱きしめられていた。
「あー…、どうしようかわいい…。」
「れ、れお?」
肩に顔を埋められていて表情が見えない。時々吐息が首にかかってくすぐったい。
「後悔なんてするはずがない。瑠々が不安なら何度でも言おう。私は君と生きていきたい。」
はっきりとした怜王の口調に迷いはなさそうだった。
「…本当に私でいいの?また怜王を傷付けちゃうかもしれないんだよ?」
目の前がぼやけて、鼻の奥がツンとする。縋りつくように怜王の背に手をまわして制服を握りしめた。
「ははっ、瑠々になら傷つけられてもいい。私は瑠々じゃないとだめなんだ。」
その言葉を聞くと同時に瞳から涙が溢れた。幸せに浸っているとひそひそとした話し声と視線を感じた。
…視線?自分達がいる場所をふと思い出した。
…ここ道端だ!!
バッと離れて周囲を見ると、道行く人が「あらあら。」と微笑ましい目を向けながら過ぎ去っていく。
「~~~~~っ!」
あまりの恥ずかしさで手で顔を隠した。
これだから…!これだから家で話したかったのに…!自分の学習能力の無さに絶望する。指の隙間から怜王を見ると、ニコニコとこちらを見ているだけで、恥ずかしさを感じていないようだった。
…いや、これは、怜王の羞恥心のなさも問題なのではないか?そんな気持ちが浮かんできた。もはや八つ当たりである。それよりも早くこの場から去ってしまいたい。
「とりあえず帰ろう。」
そうして歩き出すと、手を怜王に引っ張られたと思ったら引き寄せられて、もう片方の手で顎に手を添えられるとそのまま唇同士が合わさった。
「…!?」
突然の事に反応をすることも出来ずにそのまま目の前の顔を凝視したのも束の間で、唇をぺろりと舐められるとすぐに唇は離れていった。
「え…、な…!?」
何か言おうと思っても、いきなりの出来事に驚きすぎて言葉が出てこない。口をパクパクさせる姿は顔の赤さも相まって金魚のようだろう。
私の顔を見て面白そうに笑う怜王は本当に幸せそうで、つい見惚れてしまった。怒ろうと思っていた気持ちが萎んでいくのが自分でもわかった。今まで色々な表情を見てきたけど無邪気な少年のような表情は初めて見たからだ。すると私が驚いている事に気付いたのだろう。怜王は少し恥ずかしそうにして私に微笑みかけた。
「瑠々、ずっと一緒に居よう。愛している。」
その笑顔を見た瞬間、「あ、この人とこれから先もずっと一緒にいるのだろうな。」という確信を持った。数年後、数十年後も笑い合っている未来が何故か浮かんだのだ。
怜王にしか聞こえない声で「私も怜王を愛してるよ。ずっと一緒に居てね。」と恥ずかしがりながらも答えたのだった。




