31.日常を取り戻して
カーテンから洩れる光で目を覚ます。昨日とは違って頭痛はなくなっていてすっきりとした気分だ。ぐーっと腕を伸ばして背伸びをすると、昨日の怜王との出来事が脳内を駆け巡った。
「~~~~っ、」
起き上がった体は枕に逆戻りをして声にならない叫び声が吸収されていく。
昨日…!すごいことをしてしまった気がする…!え、なんか…舌…!舌が…!昨日の感覚が蘇ってきて、つい足をバタつかせた。
「瑠々ー?起きたのー?」
「お、起きた!」
部屋の外でお母さんの声が聞こえた。流石にうるさかったようだ。き、気を付けよう。
机に置いてある鏡で顔に赤みが出ていないことを確認してから居間に向かった。
「おはよう~。」
両親に挨拶をしてから椅子に座る。
「瑠々、体は大丈夫なのか?」
「今日も無理しちゃだめよ。熱は測った?」
昨日は両親に心配をかけてしまったようだ。申し訳ないと思いながらも、それがなんだか嬉しかった。
「今日は大丈夫そう。…ほら、熱も下がってる。」
体温計で測ってみると三十六度四分だった。それをを見せると、朝食を摂ってから朝の準備を終わらせた。両親から「具合が悪くなったらすぐに帰ってくること。」と約束させられた。大袈裟だなあ、と笑いながら家を出ると、付き合っていた頃のように怜王が家の前で立っていた。
「おはよう、瑠々。」
「お、はよう。」
昨日の事が一気に思い出されて声がどもってしまった。
~~っ、平常心、平常心だ。そう自分に言い聞かせて深呼吸をする。
「体の方は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫、だるさもなくなったし…、」
話しかけられてつい怜王の方を見ると、自然と唇に目が行ってしまった。気持ちを落ち着かせたはずなのにまた顔に熱が籠ってきて思いっきり顔を逸らしてしまった。
「る、るる?」
まずい。流石にあからさま過ぎた。横から焦った声が聞こえる。
「ご、ごめん、なんでもない。…!?」
振り返ると至近距離に怜王の顔があって一瞬息が止まった。
「…やっぱり熱があるんじゃない、か…っ…、」
怜王は口に手を当てて顔を背けた。肩が震えて上下しているのが見える。…笑われている。これは確実に揶揄われている。そう思った瞬間今までの恋愛モードが一気に急降下した。きっと私は冷めた目をしているだろう。
「いや、ごめん、つい瑠々が可愛すぎて、揶揄いたくなってしまった。…でもそんな表情をすると我慢が効かなくなるから気を付けてほしい。」
幸せそうに顔を赤らめた怜王にそんなことを言われると、私まで照れてしまった。
「は!?」
白けた視線を送っていたはずなのに。今日は怜王の手のひらで踊らされている感覚がする。今日はもうだめだ。どうしたって意識してしまう。恥ずかしさはあるものの、それでも怜王とこうして一緒に居られることが嬉しい。顔を隠した指の隙間から怜王の顔を見ると、ニコニコと幸せそうに笑っていて、「ま、今日くらいはいいか。」と私も同じように笑ったのだった。
…ちなみに、そんなやり取りをしていたら学校に行く時間に遅れそうになっていることに気付いて、急いで向かったがために着いた頃には息も絶え絶えで苦しく、そういったときに限って朝からの小テストを忘れていたことを思い出した。息切れしながら教科書を開いても全く頭に入って来なくて、散々な結果になった解答用紙を見ると、ところかまわず照れている場合ではなかったと反省するのだった。




