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3.イマジナリー彼氏は新手の詐欺

戻ってきた次の日は朝から両親とゆっくりと過ごした。二人とも今日は仕事を休んでくれたようで、それがとても嬉しかった。

その中で聞いた現状はこういうことだ。

高校は休学扱いにしてくれているらしいが、出席日数が足りないので留年はしてしまうとのことだった。同級生と同じ時を過ごせないのは残念だけど、その期間が一年で済んで良かったと思う。腫物扱いされるだろうけど、学校に通えるというだけでありがたい。

それに両親に生きて会えたということが何よりも嬉しい。

行方不明になったことについては「通学中に眩しい光に包まれたと思ったら八か月が経っていた。何か長い夢を見ていた気がする。その間の事は覚えていない。」と説明した。

魔王討伐の為に異世界に転移させられて聖女として扱われて冒険していた、とは流石に両親には言えなかった。信じてもらえるとは思えなかったし、さすがに自分が聖女として扱われていたなんて恥ずかしくて言えない。それにこっちに戻ってきた今となると、異世界に行っていたのも夢だったのではないかという気さえしてくる。

口を濁す私に、両親はまだ混乱していると思ったのか深くは聞いてこなかった。


「そういえば…、れお君もすごく心配していたから落ち着いたら連絡してあげてね。」

夕食を食べている時に母がそんな事を言い出した。


…れおくん?誰だそれ。


記憶を巡ってもそんな人物は浮かんでこない。もしかしてクラスの中にそんな人が居たのだろうか。入学してから数か月しか経っていなかったから全員覚えていないし、私の感覚では三年が経っている。正直言って名前と顔を忘れてしまっている。

おそらくは学級委員とかの関係だろうな、と考えて曖昧に返事をしながら水を飲んだ。きっと顔を見たら思い出せたらいいな。

「瑠々もあんなにかっこよくて礼儀もきちんとしている子と付き合うなんて。…もうそんな年になったのねえ。」


は?


「…付き合う?」


「そうよ、入学してすぐにれお君が瑠々に一目ぼれして付き合うことになったって聞いたわよ~、青春ね~。」

「さすが私の娘だわ~。」なんて笑う母と、「お父さんはまだ認めてないぞ。」と拗ねている父を傍目に、私の頭は状況を理解出来ないでいた。

え?私が知らないところで私の知らない彼氏が出来ている…?じ、実は誰かと付き合っていたとか…?いやいや、そんなはずはない。転移させられた直後は好きな人くらいほしかったな、って思った記憶がある。そう考えるとある一点に行きついた。

「れおくんって誰だかわからないんだけど…。もしかして騙されてない?」

何か変な詐欺にでもあっているのではないかと緊張しながらそう問いかけると、母は「もしかして、れお君の事覚えていないの…?」と心配そうな顔をした。

両親曰く、二人で撮っている写真も見せてもらったし学校での様子も聞いていたらしい。

同じ学校の生徒で学年が同じだからこれから学校に行くとなると一つ上の学年になるのだとか。学校の先生からも評判が良くて真面目な好青年とのことだった。


…何かの間違いなんじゃないかなぁ。そんな事を思いつつも、両親をこれ以上心配させたくなくて「そう…だったかも?」と曖昧な返事をした。それにしても彼氏の〈れおくん〉ねえ…。

まあ、会わない事には何もわからないからとりあえず放っておこう。そう能天気な事を考えて、その日は久しぶりのアイスに感動していた。



まだ学校にも行かずに家で休養をしていた時だった。まあ今から学校に行ったところで留年は確定しているし、それなら両親との時間を大切にしたかった。それでも勉強はしておきたかったから、今は自分の部屋で机に向かっている。向こうでもずっと学んできたからか、ジャンルは違っていても学ぶことが苦ではない。

すると、数学の問題を解いていた時に家のチャイムが鳴った。


ピンポーン


玄関から母と男性の声がする。いつもならすぐに戻ってくるはずだが、話が盛り上がっているようで二人の楽しそうな声が聞こえる。なんとなく気になってしまって、階段を下りて玄関に向かった。

その足音に気付いたのだろう。母が声を掛けてくれた。

「瑠々、れお君が来てくれたわよ。わざわざ学校帰りに寄ってくれるだなんて…、」


《彼》の姿を目の当たりにしたとき、体が凍り付いた。

え、どうしてここに…?母が色々話しているが全く頭に入って来ない。

魔王だ。あの時の魔王が居る。あの時ほどの威圧感はないし、姿が違うものの言い得ぬオーラを纏っている。

これが〈れおくん〉だって…?警戒心を強めて眉根を寄せた。いや、雰囲気が似ているだけでもしかしたら人違いかもしれない。でも見た目が違っていても何故だか魔王であると本能が告げている。この威圧感は少なくとも人間ではない。


もしかして戻ってきた私を殺しに来たのだろうか。しかも両親まで手懐けて。私をじわじわと追い詰めて逃げ場を無くそうとしているのか。

力量は明らかで勝つことは出来ないだろう。けれど大人しくやられる気はない。背負った杖をかまえ…、かま…?…、いや、持ってない!そうだ、戻ってくる前に装備はすべて置いて行ったのだ。

武器もなく絶望的な状況に背中に冷汗が流れる。いや、大丈夫、母が居る前で下手なことは起こさないはず。


…本当に?


魔王はそんなにも甘いだろうか。ここはせめて母だけでも守らなければ…。

その一瞬の隙で魔王が私に抱き着いてきた。…近づいてくることが全く分からなくて一瞬息が止まる。すかさず反撃をしようとした時だった。

「…静かに。騒ぎを起こされたくないだろ?」

私だけに聞こえるように耳元で囁かれた。

顔を動かさずに目線だけで母の方を見ると口元に手を当てて「あらまぁ、」と微笑ましそうにこちらを見ている。

…こちらは人質を取られている状況だ。従うしか道はないだろう。

「…お母さん。久しぶりに会ったから部屋で話してくるね。」

少し声が震えてしまった。…ちゃんと笑えていただろうか?

母に伝えると嬉しそうな顔で頷いてくれていた。制服の裾を引っ張って〈れおくん〉を自分の部屋に案内した。


バタン、と扉が閉まると魔王に向き直った。最初にかけるこの一言で命運が決まる気がして背中に冷たい汗が流れる。意を決して口を開こうとした時だった。


「ひ…、」


ひ?

魔王の口から零れた言葉に全神経を集中させる。

二人の間に緊迫した空気が流れた。


「一目ぼれでした!好きです!」


…。


…は?????


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