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25.残り続けるもの

二百年程前かな。昔は姿を偽って人間の街に行っていた時期があったんだ。魔王という私の存在を全く知らない者たちの中で過ごすのは中々新鮮で居心地が良かった。そんな生活を続けていたある日、アルマという少女と出会った。彼女は人間の中でも体が弱くて普段は出歩くことが出来無いようなのだが、出会ったその日は体の調子が良くて一人で家から抜け出していたらしい。けれど途中で具合が悪くなったのか広場の噴水のところで蹲っているところに丁度出くわしたんだ。普段は誰かに話しかけるなんてことはしないのだけど、その日はつい声を掛けてしまった。

彼女は私の姿を見た瞬間目を見開いて、「あなた魔王でしょ?」っていきなり言ってきた。初めて正体を見破られて驚いたし、その見破った本人は「今はお腹が痛いから寄りかからせて。」とか言ってきて訳も分からないまま何故か膝枕をすることになった。

その間どうしていいのかわからなくてそのまま膝を貸していたのだが、しばらく経って体調が戻ってきたアルマがゆっくり起き上がった。

「ありがとう。おかげで助かった。」と怖がる様子もなく言い放つと、先ほどの発言などなかったかのようにそのまま立ち上がって帰ろうとした。

「私が怖くないのか?」と、呼び止めてつい口に出してしまうと、その言葉を聞いたアルマは目をきょとんとさせて笑い出した。何がおかしいのか問いかけると、「具合悪い人に声を掛けて、その上膝枕してくれる人が怖いわけないでしょ。」としたり顔で答えた。「それに、私は病気だからもう長くはない。殺されたとしてもそんなのは誤差だ。」とも言っていたかな。

唖然としている私を置いて彼女は家に帰ったけど、その時の寂しそうな顔が頭にこびり付いて妙に忘れられなくて。でも家まで送ったわけでもなかったから会いにも行けなかった。

それから数日後にまた人間の街に行った。アルマが居ないか淡い期待を込めて。街を歩き回って探したけど、当たり前というべきか見つけられなかった。諦めて帰ろうと思ったら後ろから服を引っ張られる感覚がして、ふと振り返ると顔色の悪い彼女が服の袖を掴んでいた。

慌てて座る場所を見つけて休ませると、何故か彼女は嬉しそうに「やっぱり優しいじゃない。」と苦しそうな笑顔を見せてきた。

その後も人間の街に行くと何故か彼女が現れて、同じようにベンチに座ってポツポツと他愛のない話をした。話を聞くうちに彼女は魔力の大きさを視覚で見ることが出来るということがわかった。一度認識したら遠くからでもその人がわかるということも。

だから私のことを魔王だと見破られたし、家の近くを通ると合間を見て出てきてくれたらしい。

毎回家を抜け出すのは危ないから私が会いに行くと伝えると、彼女は驚いた表情をすると涙を流した。ぎょっと驚いていると、次は嬉しそうに笑ったんだ。それが何だか妙に嬉しくて、それと同時に胸の奥がざわざわとした。

コロコロと変わるその表情が面白くて見惚れていると「でも、私も外に出たいからだめ。」と断られてしまった。それでも念の為に家の位置だけは教えてもらえたが家には来ないように念押しされてしまった。

それからは人間の街に行く度に彼女と会って話をした。この時には既に息抜きというよりも彼女に会いに行っているようなものだった。

正直言って彼女の身なりは良いものではなかったし、時々痣を作っているときもあった。何か事情があるのだろうと思ってはいたけれど私が何かをすることはなかった。どこであれそう珍しいものでもなかったし、普段は何でも楽しそうに話す彼女でもその事には触れてほしくなさそうだったから。

そんな日々を送っていたある日、人間の街に行っても彼女が現れなかった。次の日も。そのまた次の日も。

流石に何かあったのかもしれないと思って、彼女に行くのを禁止されていた家に向かった。向かった先は家なんてものではなくて研究施設だった。不思議な力を持つものが集められて、魔族を殺すように教育している場所に彼女は住んでいたんだ。そこに居る大人達は人を人とも思わないような扱いをしていて、成績が上位者じゃないと最低限の食事すら与えられていないようなところだった。子供達には生気がなく、目が虚ろなものがほとんどだった。元々体が弱い彼女も食事を満足に与えられていない内の一人だったようで、姿を見たときには壁に手をついてかろうじて立つのがやっとの有様だった。服の袖から見える手足は以前よりも明らかに細く、元々色白の彼女の肌は土色になっていた。壁をつたって歩けているのが不思議なくらい急激にやせ細っていた姿に言葉を失った。そんな状態なのにも関わらず試験と称して無理矢理力を使わされて、力なく床に倒れると大人に鞭で叩かれていた。それを周りの人間が笑っていた。

その光景を見た瞬間目の前が真っ黒になるほどの怒りが湧いた。



…だから、すべて燃やした。研究所もそこに居た人間も、目の前のものすべて。…彼女を除いて。

あっという間に燃えていくものを見ていると、「もっと苦しませれば良かった」という気持ちが脳裏をよぎったけれどもう戻すことは出来ない。その地獄のような光景を見てもすっきりした気持ちにもなれずに怒りは心の中を渦巻いたままだった。



彼女を抱き抱えて別の場所に移動させていると、彼女の手がゆっくりと私の顔に伸びた。

「来ちゃだめって言ったのに…、」

口から出る言葉に力はなく、数日前に言葉を交わした彼女からは想像が出来なかった。すぐにその場に留まって、ゆっくりと彼女を降ろすとその細い指先を握った。

「すまない、すぐに助けてやれなくて。本当に…、」

「ふふ、あいつら私よりも早く死ぬなんて…、ざまーみろ…。」

そう上の空のように話す彼女は焦点も合っていなくて、もう長くないことを感じさせるようだった。

私の目から涙が溢れると、彼女の頬を濡らした。それに気づいた彼女がこちらを向くと口元をゆがませた。

「ねえ…、最後にお願いがある。」

「ああ、なんでも言ってくれ。」

自分の涙でぼやけて見えない状態だったが少しでも安心させられるように答えた。


「私を殺して。」


返す言葉が見つからなかった。胸が苦しい。喉がひりついて呼吸もままならない。ひゅっと息をのんだまま言葉を失っている私をよそにアルマは言葉を続けた。


「このままだと、私は死ぬ。…病、と、あいつらの手に、よって…。そんな…最期、を遂げる、くらい、なら、あなたに、殺されたい。」

呼吸が乱れて途切れ途切れの言葉に、もう時間はないことを突き付けられる。

「すき。初…恋、だったの。…だからあなたの手で、殺して。」

苦しい癖に、辛い癖に、懸命に言葉を発して伝えようとする姿に、口元を歪めて笑顔を見せようとする姿に、その願いを拒否する選択肢など残っていなかった。

彼女を両腕に抱きながら慎重に魔術を展開していく。


「私も、君と話すのが楽しくて、」

    ― 痛みを忘れるように ―

「毎日、君の姿を探していた、」

    ― 苦しさを感じないように ―

「私も、君が好きだ。」

    ― 幸せな夢を見るように ―


願いを込めて展開された魔術は温かな春の日差しのような光はアルマの体を包み込んだ。その優しさとは裏腹に、それは一瞬で彼女の命を奪っていき、光は霧散した。


残ったのはまだ温かい彼女の亡骸だけ。私の言葉が聞こえていたかはわからないが、彼女の顔は晴れやかに見えた。

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