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17.結局は年の功

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結婚はまだ考えられないと言ったら地獄のような雰囲気になってしまった。怜王が全く笑っていなくてほぼ無表情だ。

…まずい。背中に冷たい汗が流れて必死に言い訳を探す。

「そうなるのならいっそのこと「ほら!恋人期間がないのは寂しいなって思って!怜王とは友達だったこともあるし、これからも一緒にいるなら色んな関係を楽しみたいなーって!一回婚約者になったら恋人には戻れないじゃない?」

焦って早口で捲くし立てると、怜王は顎に手を当てて考える仕草をした。


…ちょっと厳しかっただろうか…?そんな不安が過って頭をフル回転させて他の言い訳をしようとすると、怜王は口元をふっと緩ませて瞬きをした。

そんなちょっとした仕草ですら絵になっている。

「…それもそうか。今回は譲ろう。」

その言葉と表情で先程までの冷たい空気がふっとなくなり、山場は乗り越えたのだと息を吐きだした。あ、危なかった…!というかさっき「いっそのこと」って言った…?いや、聞くのが怖いからやめよう。それよりも、だ。

「魔王の姿、久しぶりに見た。」

告白された時以来見ていなかったのだ。怜王なのは頭ではわかっているものの、姿が違うだけで別の緊張が襲う。

「あ、あぁ、すまない、怖がらせたな。すぐ戻ろう。」

自分でも戻っていることに気が付いてなかったのだろうか。自分の角を触って判断していた。その時仕草を見た瞬間私の好奇心が疼いた。

「ちょ、ちょっと…、戻るの待って…、」

「どうした?」

止められたことに驚いたのか、怜王は少し目を見開いた。姿は違っていてもその表情がいつもの怜王と同じで何だか嬉しくなる。

「良かったらなんだけど、つ、角触らせてほしいなー…って思って…。」

「問題はないが…、恐ろしくはない…のか…?」

「見慣れなくてちょっと緊張するけど、見てたら慣れると思う。…さ、触るよ…?」

実は家で見た時から気になっていたのだ。ぐっと怜王に近付いて至近距離で角を観察した。両耳の上のあたりから生えている角はそれぞれ手のひらくらいの大きさだ。ゴツゴツと硬くて、ツルツルとしている場所とザラザラとしている場所がある。

「なるほど…。」

「…っ、」

玲王の顔が赤く染まっていることなど気付かずに、野生動物の角もこんな感じなのかなぁ、と角に興味津々になっていると、いきなり怜王の腕が背中にまわされて引き寄せられた。

完全に油断していた私は、そのままバランスを崩して玲王の方に倒れ込むと、怜王の体を足で挟んで膝の上に乗せられていた。

「ま、待って、この体勢は無理!!」

向かい合ったことでスカートが捲れて下着が見えてしまいそうだ。必死で降りようとしても、怜王の腕が私の背中にまわって抱きしめられているせいで身動きが取れない。

「その状態でも見えるだろう?」

「も、もう十分見た…!重いし一旦降ろして…!」

こんな体勢で角を見る余裕なんてない。この距離の近さと自分の体勢の恥ずかしすぎて死にそうだ。

「全く重くないから安心するといい。…それとも、やっぱり私の事は嫌いだったのだろうか…。」

悲しそうな表情をする怜王に罪悪感が芽生える。な、なんでそうなるの…!

「そうじゃなくて!この体勢が恥ずかしいってだけで嫌いな訳…な…、」

誤解をさせてしまったのかと焦って弁明していると、怜王の肩が震えているのがわかった。

…え、笑ってる…?というか揶揄われた…?

そう気付いた瞬間、顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかった。

「~~~~っ!揶揄ってるでしょ!」

「…っ、すまない、あまりにも可愛い反応をするものだからつい意地悪をしたくなってしまった。」

目尻に涙を浮かべながら笑うその表情に目を奪われてしまう。この姿でいるときに笑っているところを見たことがなかったので驚いてしまった。無表情でいるときは冷酷そうな雰囲気なのに笑うとその雰囲気が和らぐ。

…それにしても本当に綺麗な顔をしている。頬に影が出来るくらい睫毛が長いし、そこから覗く瞳はキラキラと輝いていて宝石のアイオライトのように美しくて吸い込まれてしまいそうだ。人間の時も綺麗だけれど、元の姿はどこか現実感が無くて芸術品のような美しさだ。

思わずぽーっと見惚れていると、怜王の指先が私の頭に触れるとゆっくりと降りていき頬を撫でた。壊れ物を扱うような優しい手つきに身を委ねてしまいそうになる。触れている手が心地よくて、目を瞑って顔を傾けるとその手のひらを自分の手で包み込んだ。

「…っ、」

息をのむ音が聞こえて目を開くと何かを耐えるような表情の怜王と目が合った。ゆっくりと怜王の手が私の頬から頭に移動していくと怜王の顔が近づいてくのが分かった。今からされることの想像がついて自分の心音が耳の奥で響いて胸が苦しくなる。学校に居るときは拒否をしてしまったが、私だって本当は怜王に触れたい気持ちがあるのだ。受け入れるように目を閉じると、顔に影が出来てお互いの唇が重なった。

初めて触れた唇は想像していたよりもずっと柔らかくてしっとりとしていた。


唇が合わさっている間は目も開けられず、緊張で体が硬直する。全神経が怜王の動きに集中してしまって、頭を撫でられただけで体がびくりと震えてしまった。しばらくして怜王が唇を離したタイミングで目を開けようとすると先程と同じ感触が唇に降り注いで、目を開けるタイミングをすっかり失ってしまった。

え、待って、何回…、え、ちょっと何回するの!?

「…っ、ちょ…、まっ…っ、」

緊張で呼吸が出来ない!息継ぎをするタイミングも出来ずに目に涙が浮かんでくる。必死に怜王に訴えても全然離してくれない。

やっっっと離してくれた頃には苦しくて肩で息をするほどで、身体に力が入らなくてそのまま怜王にもたれ掛かった。

「…ばか…っ、…長い…っ、」

文句を言いたくても呼吸が整わなくてそれすら言えない。この体勢が未だに恥ずかしくてすぐに変えてしまいたいのにそれすら出来なくてもどかしい。

「はは、すまない。しかし男の家でそんなに無防備でいると、私だって我慢が出来なくなる。…これでも我慢したのだがな。」

ぼそっと告げられた言葉が頭の中で反芻した。

…え、これで我慢…???これで…??

なんとなく真偽を聞いたら危ないような気がする。何も聞かなかったことにしてそのまま怜王にもたれ掛かって身を委ねた。私の背中を子どもをあやすようにポンポンと優しくたたかれると、その手のひらに安心感を覚える。そのリズムに合わせるようにゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えていくと、やっと少し落ち着くことが出来た。そのタイミングで怜王の膝の上からゆっくりと降りる。今度はさすがに腕を離してもらえてほっとした。


…冷静になるとすごいことをしてしまったように思う。チラッと怜王を横目で見ると先程までの体勢とキスを思い出して顔に熱が集まっていくのが分かった。つい怜王の唇に目がいってしまってバッと顔を背けると、横から笑い声を耐えるような声が聞こえた。

「…っ、本当に瑠々は可愛いな…っ」

口元に手を当てて微笑む姿はいつもと違って余裕があるように見える。おかしい。普段だったらもっと変な発言をしているはずなのに。

「なんか…、いつもとキャラ違う。どうしてそんなに余裕なの。」

私ばっかり緊張しているのが何故だか気に食わないし、いつもの変た…、いや、その、おかしなテンションではない姿でいられると調子が狂ってしまう。いや、別にいつものように変態っぽい言葉を言ってほしい訳ではないが。ただ、そうだな…見た目も違うからか、妙に色気がある姿は知らない大人の男性のようで別の緊張が伴う。

魔王の姿になると性格も変わるのだろうか。

「本質的には変わらないと思うが…。こっちの姿だと瑠々にみっともない姿を見せたくないだけだ。」

「いや、人間の姿の時は?」

にこやかに言われた言葉につい冷静に反論してしまった。結構今まで好き放題していたような気がする。

「ははははは、本気をだしても良いならそうするが。」

「あ、結構です。」

口元に笑みを浮かべて言われた言葉に嫌な予感しかしなかった。

さっきまで恋人のような甘い雰囲気だったのに、今は前の友達のようなやり取りが出来ていることに安心してしまう。…いや、ちゃんと恋人なのだが。

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