16.好みを把握されている気がする
大変なことに気付いてしまった。
思い返してみれば恥ずかしいからと言って好きだとは伝えていない。なんなら怜王から好きだという好意は伝えられても「付き合ってほしい。」なんて言われたことがない。
…え、そう考えると今の関係ってなんだ?お互い好き同士のはずだから普通なら付き合うと思うけど、玲王は付き合いたいのだろうか。
早く家に帰って休みたかったけど、これをはっきりさせないと本当の意味で休める気がしない。意を決してバッと顔を上げると、至近距離に怜王の顔があって反射的に後ずさってしまった。
「…っ!」
「すまない、何度も呼んだのだが返事がなくて…。疲れたか?」
そう言って心配そうに見つめる怜王に胸がきゅんと疼いた。…だ、だめだ。何をしてても怜王がかっこよく見えてしまう。完全に脳が恋愛に支配されている。心を入れ替えなければ!そう気合を入れた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしちゃってた。それより…、」
「うん?」
「…今日、何か用事あったりする?」
「特にないが…。」
「えっと…、家寄っていかない?…いや、あの、聞きたいことがあって…、出来れば周りに人が居ない方が聞きやすいから…、って、聞いてる!?」
反応がないと思って顔を上げると、玲王の目は開いているのに微動だしていなかった。
「…き、聞いている。大丈夫だ、うん、大丈夫…、」
怜王はやっと動きだしたかと思うとぶつぶつと何かを呟いた。コホンと咳払いしてから深呼吸をすると、やっと戻ってきたようだ。
「周りに人が居なければいいのか?」
「え、うん。」
そう返事をしたと同時に目の前の景色が変わった。どこかの玄関のようだが全く見覚えがない。
「え、ここどこ…?」
「私の家だ。」
怜王は靴を脱いで慣れた様子で進んでいく。
「お邪魔します…。」
怜王に付いて行って導かれるままにふかふかのソファーに座ると、目の前のテーブルに温かい紅茶を置かれた。
「ありがとう。…いただきます…。」
差し出された紅茶の香りに癒されながら一口飲むとほっと一息ついた。温かいものって落ち着くなあ…。
…。
…。
「いや、なんで怜王の家?」
流れるように案内されて手慣れた様子で奉仕されたらその自然さについツッコミを忘れてしまった。
「美味しくなかったか…?」
連れて来た当の本人は隣に座って心配そうにこっちを見ている。
「いや、めちゃくちゃ美味しい。…そうじゃなくて!家に移動するなら言ってよ!」
「お菓子もあるぞ。」
そう言って差し出されたクッキーもすごく美味しそうだ。
「さくさくですごく美味しい…。」
紅茶との相性は抜群だ。つい寛いでしまう…じゃなくて!!!!
反論しようと怜王の方を見たらニコニコと嬉しそうにこちらを見ていた。
…なんかもういいや。一々ツッコんでいたらキリがない。
それにしても広い部屋だ。掃除がちゃんと行き届いているのか清潔感がある。物が極端に少ないからかもしれないが。
男の子の部屋に入ったことがないから、初めて入るときはすごく緊張するんだろうな、って思っていたけどこれはこれで緊張してきた。
…だってこのソファーとかめちゃくちゃ座り心地が良いし、すべてが高そうだ。紅茶とか零したらシャレにならなそう…。
好きな人の家に行った緊張か、それとも高級店に行ったときの緊張か…。うーん、後者が勝っているかもしれない…。
…。
「あの…、近くないですか…。」
広いソファーなのに肩が触れ合っている。しかもさらっと手を恋人繋ぎで握られている。さっきまで美味しい紅茶とお菓子で和んでいたのにいつの間にこんな甘い雰囲気になっているのか。
「こうしないと瑠々は逃げるじゃないか。」
「に、逃げないよ。」
…多分。自分でも自信がない。
「それで?聞きたいことって何だ?」
い、今!?いや、今しかない。緊張で繋がれた手に汗が滲む。
「えっと…、」
「うん、」
「怜王の事が好きなんだけど、私達の関係って何かな!?」
「婚約者だろう?」
…こん…やく…しゃ???なんてことないように言われた言葉に疑問を覚える。
「え、なんか…順番おかしくない?」
「こちらでは婚姻を結ぶ前の関係をそう呼ぶと聞いたのだが違うのか?」
「ほら、まず恋人とか…。」
私の感覚だと友達→恋人→婚約者→夫婦なんだけど怜王は違うのだろうか。
「それは婚約者とどう違うのだ?」
「付き合ったらなる関係が恋人で…、結婚を前提とするお付き合いが婚約者…かな。今はまだ結婚とか考えられないし…。」
「それは…、私以外の人と婚姻を結ぶ可能性があるということか?」
一瞬でヒヤリとした空気が流れたことに驚いて顔を上げると、魔王の姿に戻った怜王がこちらを冷たい目で見ていた。




