13.恋愛が絡むと途端にポンコツになる
怜王の手をとって屋上から校舎に入った。屋上に二人を置き去りにしたままだが
この時間だと人も居ないだろうし、まあいいだろう。
扉の前の階段に座ると怜王はまだ扉の前で立ち尽くしていた。
「ちょっと、隣座ってよ。」
怜王はぎこちなく笑うと、私から距離を空けて座った。いつもは鬱陶しいくらいくっついて座ってくるのに、距離を空けられたことに何故だかショックを受ける自分が居た。
…?
どうして?別にいつも鬱陶しがってたんだからいいじゃないか。そう言い聞かせても心のもやもやは晴れなかった。
「それで、怜王は何がそんなにも不安なの。」
一気に色々起こりすぎて何が何だかわからないし、怜王と私とでどうにも変な行き違いがある気がする。他にも聞きたいことは山ほどあるが、いつもと明らかに違う怜王の表情が何よりも気になっていた。
「私に、それを言わせるのか…?」
初めて向けられた怒りを含んだその言葉に驚きつつも一瞬怯みそうになった。けれどここで引けば取り返しのつかないことになる予感がして、言葉を続けた。
「…っ、ちゃんと話してくれないとわからないよ。だから聞かせて?」
怜王はずっと下を向いていてどんな表情をしているのかわからない。怜王の瞳に自分の姿が映らないことがこんなにも歯がゆいなんて。
「…君は本当にずるい…。」
「…うん、ごめんね。」
くぐもって聞こえるそのか細い声に、私は何か大変な事をしてしまったのかと罪悪感が芽生える。
「だってあいつが来たなら、君は、」
「…うん…?」
あいつ…?アレクの事か…?
「もう私と一緒に居てくれなくなるだろう…?」
「…なんで?」
「なんで…って、だって君は…!」
勢いをつけて顔を上げた怜王は今にも泣きそうな顔をしていた。その表情をさせているのは私なのかという悔しさと、その瞳がやっとこちらを向いてくれたという嬉しさが胸を支配する。
「やっとこっち向いてくれた。」
私の顔を見た怜王がひゅっと息をのむと、私の肩に頭を乗せた。
「なんで、そんな顔を私に…、君は…あいつの事がすき、なんだろう…?」
は?
「は?????」
つい心の中と声が同じになってしまった。…え?
「あいつって、もしかしてアレクのこと言ってるの?」
「それ以外に誰がいる…。」
…えーと…。(どうしてかは知らないけど)怜王は私がアレクを好きだと勘違いしてここまで弱っているってこと…?
そう考えると今までの態度も合点がいった。
「…だから向こうに帰るなんて言ったの?」
私の声は自分で思うよりも掠れていた。
「耐えられない。私の方が君の事を好きなのに…。」
怜王は小さな声で「その姿を見たら世界を滅ぼしてしまう…。」と呟いた。
その規模の大きさに呆れながらも、原因がわかって安心してしまった。そっか、まだ怜王と一緒に居られるのか。
「言っておくけど、アレクの事は別に好きじゃないよ。」
「…えっ…。」
「というか、私の事ずっと見てたんだよね?なんでそんなことになるの。」
「だってあいつと居る時ずっと見惚れてたじゃないか…。いつもあんな切なそうな目で見つめて…。…いや、私に気を使わないでくれ。もうこれで最後にする…。」
いやいやいやいや、振り出しに戻っている!なんで!?焦りを感じて肩に乗っている怜王の頭を抱きかかえた。
それにしてもアレクに見惚れてたっていつの話をしているのだろう。確かにアレクは見た目は童話に出てくる王子様みたいで最初見た時に驚いたからその時のことかなあ…。全く身に覚えが…。…もしかして…。
「アレクが話始めたらぼーっとしてた時の事を言ってるの?」
「よく見つめていたから…、というか、瑠々、ちょっと、この体制は…、まずい…のだが…。」
途切れ途切れに言われた言葉に今の体制を思い出す。
隣に座っている怜王の頭を抱き寄せてずっと頭を撫でている状態だった。髪の毛がさらさらで触り心地がいいなぁ、なんてぼんやりしながら呑気なことを考えていた。
私から抱きしめているという事態に自分でも驚きながらも慌て怜王の頭を話した。
「ご、ごめん、つい…。というか、それを言うなら怜王だって…、」
「私?」
カノンと親しげだったくせに、そんな言葉が出かかったことに唖然とする。
…え、もしかして私カノンに嫉妬していた…?一つ自分の気持ちがわかると、今までのもやもやとした気持ちが全部紐解いていくようだった。
怜王の表情が気になってしまうのも、アレクに怜王が悪く言われてあんなにも苛立ったのも、一緒に居られなくなるのが寂しくて仕方なかったのも、こんなに近くに居ても嫌悪感がないことだって、全部全部全部。いつの間にか怜王を好きになっていたからか。
…そう考えると顔から火が出るほど恥ずかしい。今まで怜王が私を好きでいてくれてることが当たり前になっていて、怜王に対して適当に返事をしたり、ぞんざいに扱ってもいいみたいな態度をしていた記憶がある。
なんて…!なんて自意識過剰な…!ずっと一緒に居てくれる保障なんて何もないのに、そうなった時だけ焦って馬鹿じゃないのか。
「あー…、最っ悪だ…。」
つい恥ずかしさで顔を手で覆ったときに溜息と共に口から出てしまった。
「る、瑠々、最悪って何が…、」
焦っている怜王の行動すら可愛く見えてしまう。…重症だ。自覚するとこんなにも変わるものなのか。そう考えると怜王が私をストーカーしてしまうのもわか…、…いや、それはわからないな。そこまでしないわ、普通に。そう考えると少し冷静になれた。
「…っ、とりあえず、私はアレクを恋愛的に好きだったことは一度もないから、こっちに来たところでどうもしないよ。」
「いや、しかし…。それよりもさっきの最悪って…。」
頑なに私の言葉を信じようとしない怜王に焦りを覚える。なんでこんなに信じてくれないのだろう。
…待てよ、原因は私か?今まで適当にあしらってきたことの弊害が起きてるのか?
じーっと目の前にある綺麗な顔を見つめる。…それにしても怜王はかっこいいな。
…いや、違う違う違う。いきなり乙女モードになるのは止めなさい、私の脳!!
ちゃんと伝えればいいんだよ、大丈夫大丈夫。怜王がいつも言ってくれてるように伝えれば誤解も解けるはず。出来る出来る。深呼吸をしてそう自分に言い聞かせた。
「怜王、あの…、」
「うん?」
「えっと…、」
「うん。」
「だから…、」
…。
あ~~~~~!!無理だ!!いきなり素直になんてなれない。というかなんであんなに何度も言えるの!?
今まで平気だったのに緊張して目を合わせられなくなっている状況だ。完全に乙女モードになってしまっている自分をぶん殴りたい。
怜王は怜王で「大丈夫、諦められるように頑張る…。」と呟いていて、誤解が加速しているようだ。これはまずい。
…さて、どうしようか。




