12.感動の再会には程遠い
異世界から誰かが来ているという話から、何故だか私に好きな人が居るという話に飛躍した。
正直途中から話が入ってきていない。一体誰の話をしているかもわからないし、その話とどう繋がりがあるのかもわからないでいる。…もう一回説明して下さいって言ったらダメかな…。私が理解しているような言い方だったし、それは流石に空気を読まなすぎかもしれない。
「…我儘言ってごめん。」
私の頭の中が大混乱しているうちに怜王の中で何らかの決心がついたらしく、名残惜しいかのようにゆっくりと体が離された。何か声を掛けなければ、と思って口を開いた瞬間に見覚えのある二人が目の前に現れた。
「魔王さまー!見つけましたわよ!会いたかったですわー!」
「おい、一体ここはどこなんだ…、って瑠々…なのか…?」
露出が多くて見るからに色気がある中ボス的な存在だった女性は怜王の腕に縋りついて…、いや、拒否されているな。怜王の顔は先程の切なそうな表情から一変してすごく嫌そうだ。そのことに安心感を覚え…、安心感?自分の感情に疑問を覚える。
「くっ付いてくるな、カノン。私はもう魔王を辞めると伝えたはずだ。」
そうそう、カノン。魔術で人を操る魔族だった。彼女は彼女自身を魅力的だと思わせれば思わせるほど操ることが出来て抵抗ができなくなる。倒すときは大変だったな…。だってこっちのメンバーはほとんど男性だから魅力に抗えなくて言いなりになっちゃうし…。
「ちょっと!なんでっ!?なんであの忌々しい聖女も居るのよ!?しかも魔王様と!いくら負けるとはいってもあのビンタは流石に痛かったのよ!?」
「いや…、それは…なんか…、ごめんなさい。」
今となっては、ほぼ茶番だったのに真剣に相手にしてしまって申し訳ない気持ちで一杯である。そう、対策を練っていたのにも関わらず次々と味方が操られて、敵意を向けられたことに腹が立ち、神聖力をぶっ放してほぼほぼ痛みで目覚めさせた。それでも目覚めない者にはビンタと蹴りを入れて強制的に目を覚まさせた…ついでにカノンにもビンタした気が…する…。気まずさで目を合わせることも出来ない。我ながら何故私が聖女として呼ばれたのか本当にわからない。
味方からはあの時感謝よりも怖がられてしまった記憶がある。遠い目をして思い出している私を見て、怜王は「うんうん、瑠々はそういうところがあるよね。」と言って肩を震わせている。…その様子を見る限り、きっとあの時の光景も見られていたのだろうな。
「ま、まぁもう前の事だし傷も残ってないけど!それよりも、なんでそんなに魔王様と親しくしているのよ。」
なんで…?なんでと言われても…。返答に困っていると、別の方向から戸惑いの声が聞こえた。
「魔王…?倒したはずじゃなかったのか…?」
「アレク…。えーと…、」
…危ない、一瞬存在を忘れていた。こちらに来ていたもう一人は勇者のアレクだ。一緒に旅をして、最終的に魔王を倒し…、あれ?この状況はまずいのでは…。
アレクは倒したはずの魔王は何故か姿を変えて制服を着ていて、聖女だった私と一緒にいる状況に戸惑いを隠せないでいる。
そりゃあ戸惑う!どう説明したらよいか迷っていると、学校のチャイムが鳴った。そのことで周りから見た自分たちの状況を理解した。
「とりあえず…、ここじゃ目立つので場所を変えませんか…。」
カノンの服装はかろうじて大事なところが隠れている、くらいの布面積だ。最悪職質されてしまう。アレクもすごく出来が良いコスプレイヤーのような服装だ。…いや、流石に剣を持っているのはまずくないか。こちらも確実に職質されてしまう。
あきらかにこちらの人ではない出で立ちの二人を他の人に見られるのはまずい。しかも今は玄関を出たばかりだからすぐにでも生徒が来るだろう。
どこか隠れる場所は…、と周りをキョロキョロしていると、怜王が「屋上でいいだろう?」と提案してきて、それに頷くと一瞬で目の前の風景が変わった。
どうやら怜王が全員を屋上まで運んでくれたようだ。屋上ならば鍵もかかっているし、人が入ってくることはまずないだろう。
「怜王、ありがとう。」
本当に助かったと思って安心した笑顔を向けると、怜王はいつものように優しそうな笑みを浮かべた。けれどその表情には違和感があって何故かすごく寂しげに見えた。
「怜「どういうことだ…、何故魔王と聖女が一緒に…?瑠々、君は騙されているんじゃないのか!?」
いつもと違う様子の怜王が心配になって声を掛けようとしたが、アレクに遮られてしまった。
…そうきたかー。
ここまで一緒にいて騙されてはいない。私を殺そうとするならすでにそうしているだろうし、怜王に危害を加えられたことはない。私だけじゃなくて周りの人にだってそうだ。…、まぁストーカー行為は別として…。
「いや、それはな、「脅されているんだな!?」
喋らせてくれないかな!?
そう。アレクはこういうところがある。性格自体は優しいし思い込みが激しいというか責任感が強すぎるというか…。せめて話は聞いてほしいんだよね…。
そのやりとりで段々と思い出してきた。こういう時はアレクがある程度落ち着かないと話せないということに。
金髪の髪に意志の強そうな薄紫色の瞳。まるでお伽話から飛び出してきたかのような美しい容姿は人の目を引く。アレクは皆からも慕われていたし、戦闘面ではすごく頼りになる存在だった。当たり前だがその責任感のある性格も相まってすごくモテていた。私は役割上勇者と共に過ごすことが多かったからか、王宮の女性陣から嫉妬の目を向けられていたのだ。そんなくだらないことに構っている暇もなかったから、そんな嫌がらせめいたものはすべて無視していたけど。
人目につかないところに移動した安心感で、前のようにアレクの熱が冷めるのをぼーっと怜王を見ながら待っていた。
カノンは怜王の腕に縋りつこうとしているが、怜王はそれを上手くかわしているようだ。
「みんな寂しがっていますわ。魔王様、そろそろお戻りください。」
「だから戻らないと言って…、いや、そうだな、考えておこう。」
怜王はカノンの言葉に一瞬考えた様子を見せると、口元に笑みを浮かべながらカノンの肩に手を置いた。
…は?
戻るということを怜王から聞いていなかった事と、怜王からカノンに触れたという事だけで心にもやもやとしたものが広がった。
なぜだか焦りと怒りを感じて、怜王のもとに行き制服の裾を掴んだ。
「…ねえ、元の世界に戻るの?」
口から出た言葉は不思議と震えていた。
怜王は一瞬目を見開くと、さっきと同じ寂しそうな笑顔をこちらに向けた。
だから、さっきから何なのその表情は!
そう口から出かかると、いきなり腕を後ろに引っ張られた。
「瑠々、どうしたんだ!やっぱり魔王に脅されているんだな!?…なんて卑劣なんだ…!」
やばい、まだ熱が冷めていなかったらしい。そう思うと同時に敵意を怜王に向けるアレクに苛立ちを覚える。
「いや、違…「ここで倒してやる!」
そう言って剣を抜こうとするアレクに諸々の我慢の限界を迎えた。
「ちょっと黙ってなさい!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。全員の目線がこっちに向いた気配がする。…だめだ、落ち着こう。深呼吸を数回した後、顔を上げた。
「私は騙されてない。それと怜王、ちょっと話がある。ついてきて。」
怜王の目を見て伝えると、何かを諦めたような悲しい表情をしていた。その表情を見ると余計に苛立ちが増した。
「いや、危険だ!」
「ちょっと、二人きりなんてだめよ!」
そんな二人からの静止が聞こえて、また頭に血が上りそうになる。
「黙っててって言ったよね?二人きりなんて今まで何度もなったことがあるから大丈夫。あと、ここで剣とか魔法とか出したら許さないから。」
あまりの苛立ちで声が震えて低くなってしまった。二人はとりあえず大人しくなったので良しとしよう。




