11.空気を読むのは難しい
遊びに行った日から皆と連絡を取るようになったある日、転機が訪れた。
いつも通り学校に行って授業を受けている時に、教室の窓から眩しいほどの光が溢れた。
「え、雷?」「それにしては音鳴らなくない?」
そんな声があちこちから聞こえて、教室内は騒然としていた。
その光には既視感があった。私が召喚された時と同じものだ。どうしてこの光が現れたのかわからなくて反射的に隣に座っている怜王を見ると苦い顔をしていた。すぐにでも駆け出しそうになったが、その表情を見たら冷静になって思い留まった。
「え…、なんか心当たりあるの?」
怜王くらいになると気配で誰が来たかのかわかるものなのだろうか。
「あることはある…、出来れば行きたくはない…が…、」
そんなにも渋っている怜王を初めて見た。一体誰なのか。けれど、怜王に心当たりがあるとするならば向こうの住人ということだ。…ということは相手が誰にしろ、怜王か私に用があるのだろう。逃げ続けるのは難しいだろうし、遅かれ早かれ会わなければいけない気がする。
「とりあえず…、様子見に行く?」
「…行きたくはない…、が、向こうから来られる方が厄介だな…。」
どれだけ行きたくないんだ。怜王は見たことのないような渋い顔をしている。形容しがたい緊張感に包まれながらも、仮病を使って授業を抜け出した。
「とりあえず校庭に行けばいい?」
「あぁ。そこから動いていないみたいだ。…ん?二人…?」
そう呟いた怜王は、玄関を出て小走りしている途中の私の腕を引っ張って引き留めた。
「やっぱり…、放っておかないか?」
「え、いきなりどうしたの?」
「いや…、その…。」
どうにも歯切れが悪い。正直に言うと私だって会いに行きたくはない。面倒事にはこれ以上関わりたくないからだ。それにしても怜王は本当に行ってほしくなさそうだ。一体誰が来たのだろうか。
「私がここに居るとまずい?」
「いや、そういうことではなくて…。瑠々よりも私というか…。」
ん?怜王の知り合いではないのか?もしかして私の知り合いとか?うーん、来れるとしたら私を召還したあの魔法使いさんかな…まさかあの偉そうな王様が来るとは思わないし…。考えたところで結論は出るはずもなかった。
「ちなみに誰が来てるの…?」
「…言いたくない。」
言いたくない!?そこまで嫌いな人物なのだろうか。そう思って俯いた怜王の顔を覗き込むと、すぐにでも泣いてしまいそうな切ない表情をしていた。
予想外の表情に驚くと同時になぜだか胸が締め付けられた。いつもの笑顔に戻ってほしくて、怜王の頬に手を伸ばしてその頬に触れると、怜王の肩がビクッと揺れた。そんなことは気にせずに目を合わせると、怜王は驚いたのか目を見開いていた。
「…なんて顔してるの。逃げ切れる方法があるなら会わないよ。…だからそんな不安そうな顔しないで。」
その姿は小さな子どものようで、少しでも安心できるようにいつもよりもゆっくりと話しかけた。その言葉に怜王は苦しそうな顔をすると、頬に触れている私の手に自らの手を添えると、顔を横にずらして手のひらに口づけを落とした。
そのことに驚いて反射的に手を引こうとすると、握られた手を引っ張られて怜王の胸に勢いよくもたれ掛かった。そのまま優しく抱きしめられてしまって、文句を言おうとした口からは空気しか出てこなかった。
「…瑠々、君が好きなんだ…。」
いつものような軽口ではなくて、絞り出すように伝えられた言葉に胸が締め付けられた。
「…知ってるよ。」
何度も言ってくれた。表情は見えないけれどその弱弱しい姿に愛おしさが込み上げてきて、その大きな背に手を回した。子どもをあやすかのようにゆっくりと背中を撫でると、怜王の手が私の頭にまわって先程よりも強く抱きしめられてお互いの体が密着した。
「本当に…、一目ぼれだったんだ…。」
「うん、」
「一緒に居たい…。」
「うん、」
不安がっている怜王を少しでも安心させたくて頭を撫でた。体は大きいのに小さな子どもみたいでなんだか可愛く思えてきてしまう。
「たとえ瑠々に好きな人が居ても、」
「うん…、…ん?」
好きな人?誰が?
「お願いだから離れていかないで…。」
そう縋りつくように話す怜王の頭を撫でながら必死に考えた。
一体何の話をしているのだろうと…!




