10.人生上手くいくことの方が少ない
いやもう本当にすごかった。怜王が現れた時の皆の反応が。
さくらなんてアイドルに会ったかのように興奮しているし、瑞樹は「え、こんな人に好かれる瑠々ってすごい…!」って何とも言えない褒め方をしてくるし、男子陣は「等身どうなってんだ…?同じ人間…?」って驚愕してるし…。大丈夫ですよ、怜王は人間じゃないので、そう言ってしまいたい。
怜王も怜王で愛想を良くしているから私の立場としては余計に居た堪れない…。「え、瑠々ってこんな性格も見た目もいい人をキープしてるの…?あいつすげぇな。」って雰囲気が…!いや、なんなら後ろの方から聞こえたな。誰だ、言ってきたの。
まぁ、それは置いておいて。
ちなみに翔太君も中学校の時の友達二人と遊びに来ていたらしく、全員顔見知りだった。図らずもプチ同窓会のようになってしまった。…そう、怜王を除いて…。
だからこそ!だからこそいきなり現れた正体不明のイケメンに皆が興味津々になっているのだ。そうなると私たちの関係性も根掘り葉掘り聞かれるわけで…。
質問攻めに遭って私の胃がキリキリしてきたところでやっとお目当てのカラオケに着くことが出来た。
やっとだ。カラオケなら歌うことがメインだし、怜王への興味は薄れるだろう。
「怜王君っていつから瑠々の事好きなの~?」
「会った瞬間かな。」
「「ぉお~~~~!」」
…そう思っていた時期が私にもありました。そんな甘くないよね、人生って。怜王の事に関しては私の思い通りになったことなんて一度もないよね、うん。
そんな会話が繰り広げられていて女子達は目を輝かせてキャーキャー言っているし、男子もなんだかノリが良さそうな怜王に好意的な目を向けている。
「え、じゃあ、稲葉さんのどこが好きなんだ?」
「は!?何聞い…、「まず顔が可愛い。パーツがすべて好きだし、性格も優しくて怖がりなのに立ち向かってくる勇敢さも好ましい。言ってしまうと存在すべ「も、もうやめて…、」」
二人の時に言われるならまだ適当にあしらえるのに、皆の前で言われると適当な事を言えないから反応に困る!というか真っすぐ褒められるのは恥ずかしい!そんなことを思いながら顔を手で隠しながら怜王の言葉を遮った。
「ほら、こうやって赤くなるところとかも、「ちょっと黙って。」
本当に一旦黙ってほしい。顔から火が出そうだ。なんでこう恥ずかしげもなく好きとか言えるんだ、という恨めしい気持ちを込めて怜王を横目でじっと見た。
怜王は何かを考えるような真剣な表情をしてこちらを見つめ返すと、ハッと何かを思いついたような仕草をした。
「もしかして今、誘…「ってないから。」
なんでいつもこう変な方向に行くんだ。そんな普段通りの会話をしていると、なんだか私たちに注目が集まっていたようだった。
「瑠々と怜王君っていつもこんな感じなの~?」
莉佳子の揶揄うような声にハッとする。あ、やば、いつも通り適当にあしらってしまった。さすがに適当に扱いすぎて何か言われるかもしれないと思い、言い訳をしようとしたが上手く言えなくてあわあわとしてしまう。考えれば考えるほど、怜王が変だから、という失礼な事しか浮かばない。
そんな私の様子を見た怜王は優しそうな笑みを浮かべている。
…なんだ、周りのこの生暖かい目は。
「意地はっちゃって~。」とか「恥ずかしいだけか。」とか「いちゃいちゃすんなよ~。」とか言われている。
もうだめだ。もう私が何を言っても素直になれないツンデレキャラでしか扱われない気がする。
そんな周りからの茶化しに堪えて、カラオケの時間を最後まで乗り切った。とは言っても途中からは他の人の話題に移ったし、そんな私と怜王の話ばかりしてるわけじゃなかったから楽しめたと言えよう。ちゃんとカラオケの本分である歌も歌ったから盛り上がったし。
まぁ途中心労がすごいことになったが(主に怜王のせいで)、皆に会えたのは嬉しかったから今日は結果的に楽しかった。その為お開きの時間になると急に名残惜しくなってしまう。
「また集まろうね~!」
そんな会話をしてお互い別々の方向に帰っていく。結局私の帰る方向なのは怜王だけみたいだ。普段と変わらないいつも通りの帰り道に戻ってしまった。
「瑠々の友人は賑やかだな。」
「そうかな?…って、それよりも!皆の前で色々言うのは止めてよね。」
あんなに赤裸々に好きとか言われるのは恥ずかしい。しかも怜王は皆と初対面なのに。途中から見世物になっていた気分だった。
「ははは。怒っている姿も可愛いな。私が瑠々を好きなのは変わらないのだから伝えておいた方がいいだろう。」
「いや、別に言わなくても…。」
恥ずかしいし…、と言葉を繋げようとして見上げたら怜王の目が笑っていないような気がして、違和感を覚えた。
「…なんか怒ってる?変な事言われた?」
やっぱりいきなり知らない人達に囲まれるのは疲れたのかもしれない。…いや、勝手についてきたのは怜王だけど。
「いや、怒ってないし、何も言われてないよ。瑠々は人気者だね。」
いきなりどうした。そしてなんだその企んだような笑顔は…。
「私が居ないときに皆に何か言ったりした?」
怜王に対しては疑り深くなってしまって、じっと見つめて問いかけた。
「はははは、言ってはないさ。そういえば月曜日の数学の宿題終わらせないといけないな。」
あからさまに話題を変えられた。
…これは何を聞いても口を割らないな。というか魔王が宿題ちゃんとするってなんなんだ。これはどうしようもない。はあ、と溜息をついて問いただすのは諦めた。まぁ、一緒に居た感じだとそんなおかしなことはしていないだろう(と信じたい)。
「私の知らないところで何もしてないならいいよ。宿題の二枚目がわからなくて放置してる。」
宿題で躓いたところの式を教えてもらいながらその日は帰路に着いた。莉佳子から送られてきた今日撮った写真を眺めてその日は眠りにつくのだった。
…そう、皆と別れた後にこんな会話が繰り広げられていたなんて知らずに。
瑠々と怜王君を見送ると自然と二人の話になった。
「瑠々、元気そうだったね…!」
「安心したわ。そういえば翔太~、中学校の頃瑠々の事好きだったでしょ~?久しぶりに会った感じどうだった?」
「そうだけどよく覚えてるな!まぁ…、相変わらず可愛かったよ。けど、あれは無理だな。」
莉佳子に話を振られて、翔太が溜息をついた。
「あはははっ、めっちゃ牽制されてたよね!」
「あれは怖いわ。間接的じゃないと話しかけることも出来んかった。」
その言葉に皆が共感して笑いが起きる。
あーぁ、翔太も可愛そうに。怜王君は瑠々の傍をずっとキープしたままだし、男子陣が瑠々に話しかけようとする度に笑顔のはずなのにすごい圧を感じた。瑠々は瑠々で気付いてないっぽくて、それが傍から見る分には面白かった。私が男の子だったら話せなかっただろうなぁ。
瑠々は「留年してるからか遠巻きに見られて友達が出来ない。」って嘆いていたけど、原因は留年じゃないわ。あんなイケメンが傍に居て、牽制されたらそりゃあ近づけない。
「それにしてもいつ付き合うのかな~。」
「あんなの時間の問題だろ。」
「いや~、瑠々が認めるかな~。」
「…ライバルが現れるとか?」
「あの雰囲気でアタック掛けられる猛者なんていないでしょ!」
「そりゃそうだよな!」
「「「はははははっ」」」」
そう、呑気な私はこの日夢を見ることもなくぐっすりと眠れたのだった。




