1.他人を助けたいと思えるほど善人じゃない
はじめまして。また、お久しぶりです。
今日から更新していきます。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
三年前私は聖女として異世界へ転移させられた。
高校一年生の春。
友達も出来て、これからの高校生活に心を躍らせていた。ある日、通学中に目が開けられない程の眩い光に包まれて思わず瞼を閉じた。しばらくすると眩しさが落ち着いてきたのでゆっくりと瞼を開くと、日本では見覚えのない服装を着た大勢の人に囲まれていた。その異様な光景に恐怖と警戒心を抱いた。
見た目も服装も日本人ではないのに何故か言葉は通じることに少しだけ安心していると、いきなり偉そうな人の前に出されて勇者達と共に魔王を討伐するよう命じられたのだ。いきなり私を聖女と呼んだり、魔王とかいう敵の悪行を説いたりしてきた。正直、訳が分からなかった。
これからの学校生活が楽しみだったのに。部活動に入って試合に出たかった。新しく出来た友人とも遊びに出掛けたかった。好きな人が出来たら放課後の制服デートに憧れを持っていた。
それら全てが叶わないことを理解すると、悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。
周りの人達は、私がなんでこんなにも悲しんでいるのか理解出来ていない様子だった。「名誉な事なのに」とか「そんな力を持っていながら人を救わないのは何故なんだ」とごちゃごちゃと喧しかった。
その自分勝手な言い分を聞くと段々と悲しさよりも怒りがふつふつと湧いてきた。
なんで私が全く知りもしない世界の人間を助けなければならないのか。しかも命懸けで。勝手に拉致しておいて自分たちの都合だけを身勝手に押し付けられるという理不尽さに腹が立って仕方がなかった。
…そう、あの時ブチギレてしまったのは仕方がない事だったといえよう。
私を召還したであろう人に詰め寄り、今すぐ元の世界に返すように要求した。けれども、すぐには出来ないと返されてしまった。
「すぐには」ということはいつか帰れるということだ。追求しながら暴れまくった結果、「魔王を倒せば元の世界に返す」との条件を突き付けられた。
もっと反抗したかったけれど、これ以上暴れればここにいる間の衣食住が保証されなくなると判断した私は、素直に受け入れることにした。
今にして思えば、あのとき殺されなくて本当に良かったと思う。
それからは帰る為に必死だった。今までの人生で使ったことのない魔法を必死に勉強・習得して、毎日の鍛錬も欠かさなかった。
それから三年の月日が経つと、ようやく魔王城にたどり着くことが出来た。
試練を潜り抜けて初めて魔王と対峙したとき、その力に圧倒されて足がすくんで動けなくなってしまった。正直言ってこんな馬鹿げた条件をのんだことを後悔するほどだった。魔王が待つ部屋に入ってすぐに目が合ったときは、それだけで殺されると思ったほどだ。それほどまでに威圧感が凄まじかったし、今のままの実力では絶対勝てないのだとその時確信してしまった。
それでもなんとか魔王を倒すことが出来たのだ。勇者の攻撃によって魔王はけたたましい叫び声をあげながら黒い霧に変わり、やがて姿形もなく消え去った。思った以上にあっさりと魔王を倒せたことに疑問が残った。けれど、みんなはすごく喜んでいたしそこに水を差すのはどうかと思って私も同じようにして喜んだのだ。
結局どんな勝利であれ勝ちは勝ちだ。その後はすぐに魔王城から王国に戻り、魔王討伐の成功報告を行った。
褒賞としてここでの絶対的な地位と名誉を提案されたけど、丁重に断った。どうしても帰りたかったのだ。
両親に何も言わずに消えてしまったのが心苦しかった。
両親のことを抜かして考えたとしても、ここでのご飯が美味しくない。なんか味が薄いと思ったら異様にしょっぱいし…。和食が恋しい。
それに加えてトイレの問題がある。トイレが水洗じゃないことに耐えきれない。それは三年経った今でも一向に慣れることはなかった。
魔王討伐に関わった仲間達から別れを惜しまれたけれど、元々そういう契約だったからかなのか、そこまでしんみりとした最後にはならなかった。
来た時と同じく数人に囲まれて魔法陣を発動されると体がふわりと浮いて、みんなに最後のお別れを告げた。
こちらに来た時と同じく眩い光に包まれると、気付いた時には転移された時と同じ懐かしい場所に立っていた。