13-3
エミリーが甘える様に言います。
「お婆様が迎えに来てくれれば、長いこと馬車に揺られずに済みましたのにぃ」
「アンタがどこにいるかまでは分からないよ。今日はここに張ってある結界に動きがあったようだから、見に来たのさ」
グランダの鋭い視線が向けられます。
「どこかの失礼な娘は、あたしの事を泥棒とでも思った様だがね」
「それは……」
朝日は返す言葉がありません。
「フン!結界の張られた屋敷から物が盗めるわけないだろう。そんな事も知らないのかい。いったいジョアは学校で何を教えているんだろうねぇ」
まあ、まあ、とルイスがとりなします。
「ここは寒いから、ラウンジに移動しよう。火を起こしてあげたから」
「そうですわ。お茶も用意できてますよ。わたくし紅茶の淹れ方は完璧に覚えていますから、きっとおいしいハズよ」
「なんだって⁉」
グランダがワザとらしく驚いて見せます。
「この国の皇太子と王女を使用人の様に使って、アンタ達は遊んでたって訳かい?ええ?」
「……」
事実なので何も言えません。
「お貴族さまっていうのは、大そうなご身分なんだねぇ。二人とも、この子達に世話を焼いてやる必要なんて無いよ」
グランダが顎でしゃくって朝日達をテーブルに着くように促します。
「そこに座んな」
朝日もアイラも顔を見合わせましたが、おずおずと着席しました。グランダも二人に対峙する形で座ります。
「ムチ打たなければ子はダメになるって言うしね。この子達は厳しくしつける必要があるようだよ。あたし達は先に行ってるから、二人は後からゆっくり来な」
「お婆様⁉」
「ちょ、待って!」
お説教されるのだろうと、うつむいていた朝日でしたが、一瞬体がフワッと浮くような感覚と、今まで感じた事のない不思議な魔力を感知して顔を上げました。
ガタンッ!
テーブルが音を立てて揺れました。椅子も揺れたのでグラつくのを堪え、辺りを見回します。そこはさっきまで居たダンスホールではありません。
「え?……どこ、ここ」
隣のアイラと顔を見合わせます。目の前に座るグランダがしかめっ面をして応えました。
「ジョアから何も聞いてないのかい?まったく……ここはアンタ達がこれから暮らすコテージだよ」
「え?暮らす?ここで⁉」
何が何だか分かりませんが、さっきまで居たダンスホールから一瞬にしてどこかの部屋へと移動していたのです。部屋はぱっと見ただけでも粗末なのが分かります。
「メシは自分達で用意するんだよ。あるものは自由に使いな」
グランダは自分が飲んでいた紅茶のカップだけ手に取り、部屋を出ていってしまいました。窓に駈け寄って外を見ると、彼女がすぐ向かいに建っている家へと入っていきます。
「な、なに?どういう事?」
アイラも分からないといった様子でしたが応えました。
「もしかして転移魔法とか?ここがワイト島なのかも」
ジョージ先生の言葉が頭をよぎります。お仕置きは女王のコテージで特訓するのだと。ここがそのコテージなのかと思い、朝日は外に出て驚きました。自分達が居たのはコテージなどと呼べる代物ではありません。それは馬小屋とでも呼ぶにふさわしい粗末な小屋なのです。もしかしたら学校にある厩舎よりボロそうです。
「ちょっと、待って……いくらお仕置きでも、こんな所に暮らせる訳ないでしょ」
アイラも小屋を見て「あー……」と言葉を失っています。
朝日は駆けだしました。
庭を横切り、石垣を抜けると強い風が吹きつけました。とっさに足を止めスカートと髪を抑えながら海の方向へ歩いていきます。行けるところまで行くと、そこは崖になっていました。
「絶海の孤島じゃん……」
後ろを振り返えれば今出てきた家しかなく、周囲に他の建物はありません。草原が広がっています。
アイラも歩いてきました。お互いため息の様に言葉が漏れます、
「どうしよう……」
「どうしましょう……」
二人は途方にくれました。




