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13-2

メイベールがいつでもシールドが張れる態勢で聞きます。

「アナタ、誰ですの?」

入った部屋はホールになっていました。円形に作られた室内は豪華な装飾が施されているものの、壁に沿っていくつか椅子が並べられているだけでガランとしています。どうやらダンスホールのようです。

その部屋の真ん中になぜか質素な木のテーブルと椅子が置かれ、老婆がすまして紅茶を飲んでいるのでした。ナニか異質なものを感じ、メイベールは警戒したのです。


老婆の格好も豪華な館には不釣り合いで質素なものでした。寒いというのに軽装で、羽織っているのもストール1枚です。館に出入りできるような身分であるとは思えません。なのに手に持っているティーカップといえば、金彩の施された高価そうなものなのです。メイベールの頭の中では、この老婆が盗みを働いていたのではないかと想像していました。なにせ人のいない豪華な屋敷なのですから。


反応が帰ってこないことで、メイベールが声を張り上げます。

「答えなさい!」

老婆は落ち着いた様子で言いました。

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのかねぇ?」

すましていた顔がこちらに向けられました。その眼光は老婆とは思えない鋭いものです。しかし怯むメイベールではありません。更に問い詰めようとした、その時

「お婆様♪」

弾んだ声が後ろから聞こえたと思ったら、エミリーが老婆に駈け寄っていきました。老婆も椅子から立ち上がり、腕を広げて駆けてくるエミリーを抱きとめます。

「エミー!また大きくなったね!」

「いやですわ。前にお会いしてから1年程しか経っておりませんのに、大きくなっているはずがありません」

「あたしの中の孫はいつまでも小さくて可愛いままなのさ。けれど、あたしに似てまた美人になったよ」

「フフフ、」

老婆は白髪の多くなった薄い色の金髪で、顔のシワを除けば確かにエミリーと同じく美人そうです。血縁関係にあるのは見てとれます。二人が親し気に話しているその様子にメイベールは言葉を失っていました。


「こんな所に居たのか、探したよ」

ルイスも入ってきました。

「おや、ルイ。一瞬、爺さんがあの世から戻って来たのかと思ったよ。ますますソックリになっていくねぇ」

「フフ、お爺様には会った事が無いから喜んでいいのか分からないな」

ルイスも老婆と軽く抱擁を交わします。そして紹介してくれました。

「この人がグランダお婆様だ」

メイベールは自分が失礼を働いたことを後悔していましたが、とにかく儀礼に則って挨拶しようと背筋をピンと伸ばしました。片足を斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足の膝を曲げて……

「そんな貴族の挨拶なんていらないよ。あー、嫌だねぇ。貴族ってのは身分の上下で態度をコロコロと変えて、」

「クッ、、、」


侮辱。

メイベールが初めて味わった感情でした。家では優しい兄に甘やかされて育ってきましたし、大貴族として、これまで意見してくるような輩はいなかったのです。初めて上から見下されたのだと、腹の奥からふつふつと湧いてくる悔しさが、怒りへと変わっていきます。火の魔力は全身から溢れんばかりに膨れ上がり、体は熱いほどです。

(お嬢様!熱くならないでーッ!)

成り行きを見守っていた朝日でしたが流石に危ないと思い、メイベールの意識を強く抑え込みました。そして固まったままだった姿勢から挨拶します。

「メイベール・ケステルです」

「アイラ・ステラです」

隣のアイラも慌てて挨拶を済ませると、グランダはワザとらしく鼻を鳴らすのでした。

「フン!挨拶ぐらいは出来るようだね」

顔を引きつらせる朝日に、ルイスが肩をすくめてみせます。


エミリーは笑っています。

「気にしないでね、二人とも。お婆様は口が悪いのよ。これは死なないと治らないから、まだまだ我慢しないといけないわ」

「なんて事を言うようになったんだろうねぇ、この孫は。確かに、まだまだ死ぬつもりなんてないさ。孫達の結婚式を見るまではね!」

二人はまた笑い合うのでした。

(なんなの?このお婆さん……結局、自分では名乗らなかったし)

朝日は早くも明星あきとの元に帰りたくなっていました。

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