12-7
王家の馬車は南へと向かいます。ルイスは晴れ晴れとした顔で言いました。
「これで肩の荷が下りたよ。さあ、お婆様に会いに行こう」
「あら、ルイス様も一緒に行かれるのですか?」
「もちろんだとも。孫がお婆様に会いに行くだけだ。誰が止められようか」
「わたくし、よく分からないのですけれど、今回のベオルマ家への訪問はどういう事だったのでしょう?」
「ふむ、これはいわゆる外交というものだ。」
ルイスは皆に口止めをしてから話し始めました。
「ベオルマは元々カンロの出身だ。今もカンロ国との付き合いは深い。それはセントランドとの橋渡しとして有効だが、一部ではセントランドから引き抜かれるのではないかと憶測がたっていたのだ」
「聞いたことがあります。エミリー様がベオルマへ輿入れするという噂は本当だったのでしょうか?」
「ああ、それは阻止されたのだが……」
ルイスがメイベールの事を見つめています。代わりにエミリーが応えました。
「お母様はわたくしを守ろうとしてくれたのです。ベオルマ家はカンロ王室と深い関係を持っていますから、ベオルマへわたくしを嫁がせることでセントランドの政争から遠ざけようと」
「ベオルマが王位を狙っているというのは?」
「それは流説だ。もしそうだったとしても、ベオルマ家自体は関与していないだろう。カンロ独立を狙う者達が別にいるのだ」
「そこで今回ルイスお兄様はベオルマ家の疑惑を晴らす為、屋敷を訪問したのです」
「私はいつも行き先を決められているからね。突然こんな事でもしないと実現しなかっただろう」
「そう。無理にでもわたくし達、ロンド兄妹が揃って訪問する事に意味があったのです」
「父上達では公式な訪問となり、思惑が先行して角が立ちかねない。そこで私達がベオルマ家を訪れた。そして向こうも受け入れた。その事実が必要だったんだ。これはこの先も変わらず両家が友好関係でいるという証になる」
「突然の事だったのでしょう?もしテオ様が断られたらどうするおつもりだったのですか?」
「それは心配ないさ。こちらにはアイラ嬢がいる」
ルイスの視線がアイラへと向けられます。エミリーが申し訳なさそうに言いました。
「アイラさんには巻き込んでしまった形になって申し訳なかったわね」
「いえ、そんな。私も久しぶりに家に帰れて良かったです。爺やさんも昔と変わらず元気そうで良かった」
「もう分かっていると思うが、アイラ嬢はベオルマ家の娘だ。テオが妹の帰れるチャンスを断るとは思っていなかった。いずれ時が来れば正式に身を明かす事も出来よう。それまでは黙っておいて欲しい」
二人は頷きました。
ルイスはフーッと息を吐きました。
「全てジョージ先生のおかげだな」
「ええ、先生がおっしゃった通りになりましたわね」
不思議がるメイベールに説明します。
「今回、お婆様に会いに行くという話は先生が用意してくれたものなんだ。私達のベオルマ家訪問を手助けする為にね」
「ちょっと待ってください。じゃあ、わたくしの補修の話は?あれは嘘という事ですか?」
「いいや、ウソという訳ではないだろう。補修のついでに、ん?ベオルマ家訪問のついでか?まあ、どちらでもいいが」
「わたくし冬休みは狩に出かけるのを楽しみにしていたのですわよ?今からでもケステルに戻ります」
「メイベールさん。補修はちゃんと受けなきゃダメよ。先生からはお婆様のところまで案内するように言いつけられているの。そんなに落ち込まないで。ワイト島はいい所だから」
エミリーの言葉に、なぜかルイスは首をひねります。
「いい所か……ふむ。私もこの冬休みの間はずっとお婆様のところに身を潜めなければいけないんだ。メイベール嬢も居てくれると少しは気が楽かもしれない」
「身を潜めるとは?」
「今頃、報告を受けた王宮内は慌てている事だろう。それぞれの派閥がどう動くか、まだ予想がつかない。落ち着くまでの間、私達兄妹はお婆様に守ってもらうという腹づもりだ。」
「何と言ってもお婆様はこの国の女王ですから」
「おいおい、国王が居るのに女王はないだろう?」
「あら、実質的にはブリトンの支配者の様なものですわ。わたくしのお母様だって気を使っているのですから、他に意見できる者などいません」
「確かにそうか。私の父もお婆様には頭が上がらない」
メイベールは聞きました。
「お二人に共通のお婆様という事は、セントランド筋の方なのですわね」
「ええ、そうよ。この国の頂点に立っていたの。お婆様の魔法にかなう者はこの国にいないわ」
「おそらく最強だ。誰も逆らえない。だからあの島に逃げ込みさえすれば何人も手出しは出来ないという訳さ」
「そんなに実力のある方なのですか?」
ルイスはうんうんと首を縦に何度も振って言いました。
「ああ、人々からは畏怖を込めて、南の島の魔女と呼ばれている」




