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車中ではジャスパーとエミリーがよく喋りました。とりとめのない話をしているうちに馬車はケステルの街へと入って行きます。
「ああ!愛しの我が街よ!統べてが赤く染まるケステルよ!帰ってきたぞ!」
まるで舞台俳優の様にジャスパーの大袈裟に広げた腕が、両隣のルイスとテオを押しのけます。
「お兄様ったら、やめてください。恥ずかしい」
いつも賑やかに盛り上げてくれる彼ですが、半分ヤケになっているのでした。
アイラが窓の外を見て言います。
「ケステルの街って本当にどこも赤いんですね」
街は赤一色です。赤レンガ敷の街道、赤レンガが積まれた塀、家の壁も赤レンガ、屋根だって赤土を焼いて作られた素焼き瓦です。赤の公爵ケステル家が治める領地なのだと、目にも直ぐ分かります。
ジャスパーが説明してくれました。
「赤はケステルの色だからね。けど、街の色には理由があるんだ。うちの家系は適性が火だろう?親戚筋のほとんども火の魔法を得意としている。だから家を継ぐ長男以外の働き口として、昔から魔法を使った窯焼きが盛んだったんだ。それに周辺で採れる粘土は赤いから、赤レンガばかり焼いていたらこうなったのさ。面白いだろう?」
話を聞くアイラは旅行気分なのか楽しそうに笑っています。
「へー、そうなんですか。ベオルマの街とは随分印象が違うから新鮮です」
「ベオルマはどんな所なんだい?」
「えっと、色で言ったら黒いというか、でも雨に濡れると濃い青緑色になって綺麗なんですよ」
「ふむ、」
イメージできないのかジャスパーが腕を組み、アゴに手を添えます。どう説明したらいいのか分からず、アイラはテオの方に目線を送りました。
「スレートの事だろう?屋根瓦や家の塀なんかによく使われる鉱石だ。叩くと簡単に割れて、板の様に薄く割ることが出来るんだ。すぐ隣のカンロから運ばれてくると聞いたことがある」
「そうか、ベオルマはカンロの国境と隣り合っているからね。土地が変わると街の様子も変わるのは面白いじゃないか」
ルイスも話に乗ります。
「ロンドの街は色で言ったら大理石の白だな。確か正式には石灰岩と言ったか?ロンドから南へ行った海岸で採れるから建材としてよく使われるんだ」
テオがボソッと言いました。
「ベオルマの宮殿」
「ああ、テオのご先祖様は随分と苦慮したようだね」
メイベールも話に乗ります。
「何の話ですの?」
「今の王宮は昔、ベオルマ家が従順の証として建てて、王に献上したものなんだ。だから皆からはベオルマの宮殿と呼ばれている」
ジャスパーも口を挟みます。
「ほら、ベオルマはケント王に寝返っただろう?もう逆らわないという証だったんだよ。けれど、最初に建てた宮殿をケント王はお気に召さなかったらしい。作り直せと命じたんだ。場所を変えて建て直されたのが今の王宮だよ」
「政治的な意図があったのだろう。ベオルマはなんと言ってもカンロの筆頭貴族だった。その力を削ぐ目的もあったに違いない」
ジャスパーが反論します。
「それはどうかな?最初に作られた宮殿は今も残っているが、アレを見ると分かるけど如何にもブリトン趣味をした様式じゃないか。さっき言っていたスレートが使われているのだろう?質素で飾らないというか、それに比べて作り直させた方は真っ白で華やかさがある」
テオも頷きます。
「ああ、アレは海外から建築士をわざわざ招いて作らせたと聞いている」
「ケント王はスコーから姫を迎えたばかりだったから、何もかも新しく真っ白にやり直したかったんじゃないかな?」
「ケントの時代は資料がほとんど残っていない事で有名だ。真実は分からないな」
男性達だけでお城の話に盛り上がっているようです。
「どちらにしてもロンド家の歴史は酷いだろう?お金のかかる宮殿を2つも作らせたのだから。メイベールも3年生になったらお城好きな教授の講義を受けてみるといい。ロンドが行なった数々の粛清が垣間見えるよ」
ジャスパーの嫌味を含んだ笑顔が向けられます。
「ええ……」
メイベールはなんと応えていいのか分からず苦笑いしました。
ちょっと待て、とルイスが止めます。
「宮殿を作らせたのはロンド家じゃない」
「そうですわ!ロンド家が酷いなどと、ジャスパーお兄様でも聞き捨てなりません!」
エミリーもルイスに加勢します。
「おっと、失念していたようだ。ロンド家はその宮殿を奪ったんだったね」
ジャスパーがまたニヤリと笑います。けれど、ルイスも負けてはいません。
「ケステルがケントの血筋と言うのなら、作らせたのはキミのご先祖様じゃないか。なあ?テオ」
「フッ、そうだな。2つも作らせて酷い話だ」
ルイスがテオに同意を求め、更に攻勢をかけました。それを受けてジャスパーは飄々と応えます。
「おっと、そうだった。テオすまない。キミのご先祖様がヒイヒイ言って作ってくれた宮殿を奪われてしまったよ」
今日はジャスパーの冗談に嫌味が効いています。余程、妹と過ごせない冬休みがショックだったのでしょう。憂さ晴らしをしているようです。
(うわぁ、お貴族様しか使えないジョークだ……)
朝日はハラハラしながら聞いていましたが、みんな昔の事など気にしていないのか笑い合っていました。




