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11-6

ジョージ先生の研究室へ続く階段を降りて行きます。

そこは地下の為か湿っぽく、底冷えのする寒さでした。湿度を含んだ冷気はまるで氷水に浸かる様に体の芯を冷やし、骨がガタガタと震えるようです。

(相変わらず不気味なところだなぁ)

朝日は体をさすりながら、寒気を堪えました。


エミリーが分厚い鉄の扉をノックします。

「ジョージ先生、エミリーです。」

「どうぞ。入ってください」

扉が開けられると、中からはモワモワと湯気があふれ出してきました。3人とも訳が分からず扉の前で固まります。

「どうしました?寒いから早く中に入ってください」

先生は平然ともやに包まれ、その真っ黒な装いを白く隠しています。


朝日は聞きました。

「……何をしていらしゃるの?」

先生が「あーぁ」と間延びした声を上げて言います。

「この煙の事ですか?ハハ、これは暖房ですよ。この部屋には暖房設備がありませんからね。魔法で暖を取っているのです」

開けっ放しだった扉からは蒸気と共に熱が急激に上階へと逃げていき、部屋のもやは晴れました。

「寒いですね。さ、早く中へ」

3人ともおずおずと中へ進みます。


「ちょっと待っていてください」

先生はどうやらその魔法で暖を取る方法を実演してくれるようです。右の手のひらに火球が、左の手のひらに水球が現れました。

「最初は暑いですよ」

その言葉に嫌な予感がしたメイベールはすぐさま3人まとめてシールドを張りました。

火球と水球はフヨフヨと空中を漂い、部屋の隅まで飛んで行きます。それを見計らって先生が手のひらをパン!と張り合わせます。次の瞬間、二つの球は合わさり耳をつんざく破裂音が響きました。と、同時にブワッ!と水蒸気が爆発するように部屋を満たします。


「先生!危ないじゃないですのッ!」

メイベールは声を上げて抗議しましたが、先生は笑っています。

「祭りの日にアナタがやった事ですよ?私もあれから色々試していたのです。この部屋を暖めるなら、火球はコインくらいの大きさで十分ですね」

祭では迷惑をかけたのでメイベールお嬢様もそれ以上強く言えません。シールドを解きました。

解いたとたん、体を熱気が包みます。

「あっつ……」

部屋はさながら蒸し風呂の様です。

「暖を取るなら火球だけで十分でしょうに」

「それでは火球を維持し続けなければいけないじゃないですか。この方法だと部屋全体を素早く温められて便利ですよ。欠点は部屋中が湿気ってしまうことでしょうか?けれど冬は乾燥しているから丁度いい」

こちらの解せない視線にも、先生は意に介していない様子。


アイラが熱そうに手で顔を扇いでいます。けど、かえって熱風が顔に当たり余計に熱そうです。それを見ていたエミリーがいたずらっぽく笑いました。

「こうしたらもっと温かいんじゃないかしら?」

エミリーが指をクルクル回すと部屋に小さなつむじ風が発生しました。渦が空気を混ぜ、熱風が吹き荒れます。

「やめてー!」

アイラがエミリーに抱きつき、エミリーはケラケラと笑います。二人ともはしゃいでいるので汗とも水蒸気とも分からない水滴でびしょびしょになっていきます。


メイベールは湿気って首にまとわりつく髪を払い聞きました。

「それで?わたくし達に何の用でしょうか?」

「そうそう。お仕置きの件は覚えていますか?」

「何のことでしょう?覚えにありませんわ」

お嬢様はキッパリ言い放ちました。けれど先生は構わず続けます。

「本当は私の実験を手伝ってもらう程度で済ませようと思っていたのです。けれど、祭りの事もあってアナタ達の実力が広く知れ渡ってしまった。アレを危険視する声もありましてね。そこでアナタ達には魔法の特訓を受けてもらおうと思います」

「特訓?この、わたくしが?お断りしますわ。なぜ今更、特訓などしなければいけませんの?もう十分わたくしは魔導の真髄を心得ておりますわ」

「ふむ……もし、あの場に私やエミリー様、アイラ嬢がいなかったらどうなっていたと思います?」

「ムッ……それは、」

「一人で制御できない魔法は危険でしかありません。アナタには実力がありますが、もっと魔法の根本的な部分を心得て欲しいのです」

そう言われてはお嬢様も反論は出来ません。


「分かりました……では早速、始めてください。明日から冬休みなのですから、時間はありませんわ」

「そんな簡単に済ませられませんよ?アナタ達にはこの冬休みの間中、特訓を受けてもらいます」

「ちょっと待ってください!冬休みの間中⁉ずっとですか?」

「ええ、授業の補修とでも思ってください」

「やはりお断りしますわ!わたくし冬休みは予定がありますの。」

先生はワザとらしくため息をつきました。

「ふぅ、困りましたねぇ。これは一応、授業の一環として私が校長に頭を下げて何とか取り付けた処置なのです。断られるというのなら、アナタのお父様を呼んで話し合いをするしか無くなります」

「ムーッ!お父様を呼ぶなんて、ズルいですわ!……ハァ、致し方ありません。お受けします」


先生がまたワザとらしく言います。

「それは良かった!まあ、そんなに気落ちしないでください。特訓と言っても南の島へバカンスに行くのですから」

「南の島?」

「そう。行くのはワイト島、、、」

「すてき!」

それまでアイラとじゃれ合っていたエミリーが話に割り込んできました。

「もしかしてお婆様のところでしょうか?」

「その通り。女王のコテージです。話は付けてありますから、エミリー様には二人を案内して欲しいのです」

「喜んで!」

エミリーは胸の前で手を合わせて嬉しそうです。かと思うと、急に駆け出し扉を開けました。

「こうしてはいられないわ!早く明日の準備をしなくては!」

彼女にせかされ外に出た途端、冷気が吹き付けます。それが火照った体には気持ちよく、ボーっとする頭で朝日は考えました。

(どうなるんだろう?コレ……)

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