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11-3

◇◇◇


王宮で会議が開かれている同じ頃、王都から西に少し離れた郊外の宮殿で同じくこの国の行く末を左右する集まりが開かれていた。

「ですから、我々カンロ派にとって好機なのです!今こそ長年の雪辱を晴らす時!」

小太りの中年が熱く語っている。立派な法衣を身に着けているその人物はブリトン聖教会カンロ派の大主教だ。


ブリトン聖教会には大主教が二人存在する。トップが一人でない理由はこの国が辿った歴史の諸事情に由来する。

今のブリトン王国は立憲君主制だ。王が君臨し、統治は貴族たちによる議会制をとり、法によって守られる。

無論、世界各国の歴史がそうであったように、ブリトン王国も王が絶対的な存在として君臨し統治する専制君主制だった。けれどもケント一族の圧政を良しとしないロンド家が決起し、それまでの王族は途絶えた。

革命の後、議会政治が設けられたが明確な統治者のいない国は混乱を極め、それを収拾させようと改めて王座を復活させる事となった。されど国民は再び王が統治する事に納得しない。そこで、不満の受け皿となったのが教会だ。それまでの教会は人々を惑わす存在(王の独裁にとって不都合)だと度々弾圧されていた。その宗教の自由と議会での発言権を認める形で、新王が大主教を任命したのだ。人々の要望を聞き入れ議会に提唱する民衆の代表として、教会はその存在感を増していった。

連合王国なので三国それぞれに大主教を据えたが、スコー国はセントランド国と近しい関係の為、あえて大主教の座は廃し、今の教会はカンロ派とセントランド派で対立を深めている。


語っている大主教は小太りな為に冬でも暑いのか、それとも思いがけず巡ってきた好機に興奮しているのか、いつも手に持っているハンカチで額の汗を拭きつつ皇后に言い聞かせた。

「フゥ、我らが実権を取ればカンロ王家の復興も叶いましょうぞ、フゥ、フゥ」

皇后の方は手にする扇で顔を隠し、彼の視線を遮っていた。なんとか話を聞いてもらおうと大主教の言葉にも益々熱がこもる。

「フゥ、セントランド派の者どもが行った聖女降臨の儀式も、我らにとっては好都合。そもそも焦って事を起こしたのは我々の力に恐れをなした現れ、、、」

「もうよい。」

皇后はうんざりといった感じに、持っていた扇で大主教の方を扇いだ。

「前回はそなたがどうしてもと言うから、申し出を受けてやったのであるぞ?」

「ですからカンロの為、、、」

「今回も同じであろうて。王は何も出来ないにしても、側には赤の公爵が控えておる」

「その公爵家の令嬢が我が陣営に加わるのです。向こうが取り付けた婚約ですぞ。それを今更破棄になど、しますまい。フゥ、フゥ、」

皇后はあからさまに不機嫌な様子でため息を吐いた。


それを察して、傍らで黙していた人物が一言、

「皇后様はもうよいと言っている。」

大主教はまだ何か言いかけたが、その赤髪の大男の気迫に押され言葉を飲んだ。

「では……今日のところはこれにて、」

去っていく後ろ姿も見たくはないといった様に、扇を差していた皇后は大きなため息をつき首を振った。

「なぜ、こうも上手くゆかんのじゃ?……あの子は母の事を恨んでいるであろうな、」

「殿下は聡明なお方。皇后様の心中も察してくれましょう」

赤髪の男はその強面な顔にそぐわない優しい言葉をかけた。


「兄さま、」

皇后は甘えるように、又はすがるように、その表情からは毒気が抜けた……しかし何かを思い出したのか、直ぐに険しいものへと戻る。

「お義母が言うように、あの子達を婚約させてしまえば何も問題は無かったはず。なのにあの小男め!カンロの為にと!」

皇后はまた頭を振った。

「我の再婚は、娘の為にと我慢できた。されど儀式までする必要はあったのか?圧倒的な力を持てば他を黙らせることが出来ると言ったのはあの小男じゃぞ?それが蓋を開けてみれば、対立を深めただけではないか!あの子を守る為、兄さまの所へ嫁がせようとすれば、それも阻まれる……いったいどうすれば」

男がいたって冷静に、落ち着いた態度で言い聞かせる。

「わが家へ殿下の輿入れは叶いませんでしたが、それは致し方ない事。ロンド本家その威光の為と、儀式は半ば強引に進めたのですから。その上、わが家へ輿入れするとなれば、あらぬ疑いをかけられても申し開きは出来ぬでしょう。和解のため、赤の公爵家と縁組をするより他なかった」


皇后がまた頭を振る。

「今度は兄さまの娘まで儀式にかける事となろうとは、」

「あの子は元々魔法が使えなかった。とはいえ代々雷帝と呼ばれる我が一族の血を引く者。余計な政争に巻き込まない為に神の御座へ仕えさせたのです。教会に入れたその時から、わが家とは無縁としてまいりましたゆえ、貴女が気に病む必要はありません。それよりもセントランド派が娘をわざわざ呼び戻したのは、やはり我らと事を構えたくない現れ。あの子が王家に名を連ねる事になるのなら、それはカンロとセントランドとの融和となりましょう」

「誰も対立など望んでおらんのじゃ。こちらにやましい考えなど無いというのに。全てはあの小男が私利私欲のために図った事!何がカンロの為か、ブクブクと私腹を肥やしよって!」

「大主教の事は捨て置けばよいでしょう。あとは”あの者”に任せておけば問題はないかと、」

「せめて先王が存命なら……」


皇后の怒りはフッと消え、代わりに悲しみの表情へと変わった。

「帰りたい……故郷のカンロに、」

「王が退位すればその願いも叶いますでしょう。今しばらくの辛抱です」

「帰りたいのは幼い頃、兄さまと供に過ごした思い出のカンロです」

「……私は貴女の相手をするようにと、父から申し付かっておりましたので。カンロからロンドへ嫁いでも心細くないようにと」

「本当の兄妹の様に過ごした日々が懐かしい……覚えていますか?屋敷の側の湖で釣りをした事」

「ええ。」

強面の表情が緩んだが、すぐに引き締まる。

「初めての釣りで思いがけず大物がかかって、フフ、あれは本当に大きかった。あまりに引っ張る力が強いから湖に落ちてしまって、兄さまが助けてくれた。二人ともずぶぬれになって帰ったら凄く叱られましたね」

「懐かしいですな」

二人は暫し幼少の思い出に浸った。

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