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10-3

朝日が見てしまったのはエミリーとルイスが隠れて会っている現場でした。そこは入学式でダンスを踊った大広間です。昔は謁見の間として使われていて、図書館の隣にある事を思い出しました。地下通路は繋がっていたのです。

シャンデリアだけに明かりが灯され、薄暗い中で照らされた二人は床に一つの影を落としています。

(えっ?エッ⁉どういう事?)

こんな所で二人は何をしているのか?それは朝日にも察しがつきました。朝早くに隠れて男女が会っているのですから。


(兄妹なんでしょ⁉)

先日ジャスパーが教えてくれました。二人は従妹同士なのです。そして貴族の間では従妹同士でも結婚する事は珍しくないと。

ルイスが彼女の耳元に口を近づけ何か言っています。遠くて聞こえませんが、エミリーは笑って応えている様に見えました。

二人の影は一緒にユラユラと揺れています。

(えぇ~っ!い、いいの⁉)

エミリーのイタズラを暴くつもりが、王族のとんでもない秘密を覗いてしまったのです。こんな場面を見ていてよい訳がありません。もし見つかってしまったら、いくら公爵家の令嬢であろうと許されない気がします。これはただの逢い引きではないのです。王家の派閥争いが激化する一大事なのですから。


朝日はゆっくり静かに後ずさりしました。……したつもりでした。足が勝手に動き、隠れていた柱の陰から体が出ていきます。

「おっ!お嬢様っ⁉」

止めようと思った朝日は思わず声が出ていました。

「誰だっ!」

ルイスの鋭い声が飛びます。

(もーっ!どうしてくれるのよ!コレ!)

メイベールお嬢様はルイスに淡い感情を抱いていたのです。その気持ちが足を前に動かしてしまったのでしょう。


観念して朝日はシャンデリアの光の下に進み出ました。

「あはは、お、おはようございます」

「メイベール嬢、なぜこんな所に?」

「えーっと、朝のお散歩?ですわ。オホホ」

あからさまな噓にルイスは天を仰ぎました。

代わりにエミリーが聞きます。

「もしかしてメイベールさん、わたくしの後をつけて来たのかしら?」

変に隠しても今更どうしようもない気がします。朝日は素直に応えました。

「はい。エミリー様が怪しいと思い、つけさせてもらいました。なぜこんな事を?」

「そうですか……」


エミリーが応えようとしたのを遮り、ルイスが前に進み出ます。

「メイベール嬢、これはジャスパーに頼まれてやったのかな?」

「いえ、ジャスパーお兄様は関係ありません。わたくしの独断です」

「そうか……メイベール、どうかこの事は秘密にしてもらえないだろうか」

「それは構いませんが。こんな事をしていて、よろしいのですか?」

「キミは、私達が実の兄妹ではないことは知っているか?」

「ええ、知っております。従妹同士の義理兄妹だと」


ルイスは頷いてから言いました。

「私達は兄妹だと言うのに、自由に会う事が許されない。それはエミリーが前国王の娘であり、私が現国王の息子だからだ。王宮には私達が一緒に過ごす事を快く思わない者達がいるのだよ。この学校でさえ、お互い近侍に見張られている。あれは護衛という名目の監視役だ。その監視の目が届かない早朝のこの一時だけ、隠れて会っていたのだ」

そういえばと思い出しました。ティータイムにエミリーの姿を見かけたことがありません。二人が一緒に居るのはマリーさんの用事でルイスがアトリエを訪れた時ぐらいです。


「キミは忘れてしまった様だが子供の頃、キミ達兄妹が遊びに来てくれる事を私達は心待ちにしていた。4人でいる時だけは王族の身分は関係なく、子供としていられたからだ。ケステル兄妹にはとても感謝しているのだよ」

ルイスは頭を下げました。

「や、やめてください!殿下!」

彼は頭を下げたまま言いました。

「どうか、この事は誰にも言わないで欲しい」

「無論です!ただの好奇心でわたくしがお二人の邪魔をしてしまったのです。悪いのはこのわたくしなのですから」

ルイスは頭を上げると、安堵の笑顔を見せてくれました。


「良かった……ここでエミリーとダンスの練習が出来なくなると、体がなまってしまうからね。パーティーで踊れない皇太子などカッコ悪い。ハハハ!」

(ダンスの練習?)

「こんな朝早く練習に付き合わされるこちらの身にもなってください」

(ん?もしかして、さっき抱き合ってたのって?)

「他の者と踊っていると色々勘違いされるからね。朝早くにこうして付き合わせることが出来るのは妹ぐらいさ」

(妹……)

「わたくしもお兄様と気兼ねなく会える時間が出来るのは嬉しく思いますのよ?けど、寝不足になってしまいますわ」

(お兄様……)

「そう言うなら、私の乗馬クラブなんて毎日休まず早起きしないといけないんだぞ?」

二人は楽しそうに笑っています。そこに後ろめたさの様なものは感じられません。

メイベールの体からは冷や汗が吹き出しました。ルイスとエミリーは男女の中ではなかったのです。兄妹として会っていたのでした。

(ハーーーーァ!危なかったぁ!アタシ、とんでもない失礼をぶちかますところだったーぁ!)


一人で大騒ぎして勝手に納得した朝日はこの際、聞いてみました。

「でも、分からないのです。隠れて会うのなら、なぜあんな目立つことをしたのですか?」

「目立つこと?……とは?」

「フォグウォーカーの件です。あの正体はエミリー様なのでしょう?」

「え?違いますわよ」

「え?」

お互い訳が分からず、顔を見合わせました。


「じゃあ、スパンキーやフライングブックの件は?」

「それもわたくしではありませんわ」

「だって、エミリー様はトリックプリンセスと呼ばれて、」

「メイベールさん!その呼び方はやめて頂戴!……確かにそんなあだ名が付いてしまっていますけど、わたくしがイタズラをするのは収穫祭の時だけですのよ」

ルイスが頷きます。

「そうだな。エミリーが1年生の時の収穫祭は酷いものだった。皆、王女様に気を遣っていたのに、キミはやりたい放題で、」

「お兄様も言わないでっ!」


(だったら誰があんな事……)

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