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今朝の事件は生徒達の間で話題になっていました。朝早くにガードが走り回っているのを見た生徒が何人もいるのです。「どうやら図書館に逃げ込んだらしい」「幽霊だったのか?」「誰のイタズラ?」噂は面白おかしく広まっていました。
ティータイムになり、ジャスパーが今朝の出来事を興奮気味に話しました。
「僕が駆け付けた時には確かに誰かが居たんだ。けど、その後の捜索では館内に誰もいなかったと言うんだよ」
彼はチラチラとルイスの事を見ています。
「ジャスパー、キミは犯人が捕まえられなかったのに、なぜそんなに嬉しそうなんだ?」
「ルイスは嬉しくないのかい?」
「嬉しい?まだこんなバカ騒ぎが続くからか?私は頭が痛いよ」
「そうか……まあ、どこのイタズラ好きか知らないけど、命拾いしたね」
朝日は不思議に思い聞きました。
「お兄様、その人物は館内にいたのですか?」
「ああ、保管庫に居たんだ。明かりが付いていたのを確かに見た」
「でもどうやって逃げたのでしょう?出口は一つですし、周りはガードに囲まれていたのですよね?それにどの窓にも鉄格子がはめられていて人が出る事は出来ませんわ」
「案外、幽霊という話もあり得るかもしれない」
今度はテオの方をチラチラ伺っています。
「実は後ろ姿を見たんだ。長い髪が美しい女性だったよ」
「本当ですか?」
朝日は疑いの目を向けました。彼はエミリーをかばおうとしているかもしれないのです。けど、兄が嘘を言っている様には思えません。優しくメイベールの事を見てきます。
「きっと僕が見たのはシャーロットお婆様だったに違いない」
「シャーロットお婆様?」
「僕達のお婆様だよ。メイベールが赤ん坊の頃に亡くなってしまったから、記憶にないのは当然さ。キミに似て長い銀髪が美しい人だった。キミのミドルネーム『シャーロット』はお婆様にちなんだものだよ」
「そうだったのですか」
「僕が呼びかけたら、優しく笑って消えていったよ。お婆様は読書家だったから帰って来ている間中、図書室で本を読んでいたんだろうね。ついていた明かりも案内役のスパンキーが本を読めるようにと照らしてくれていたんだろう。散らばっていた本は僕に気付いてほしかったのかもしれない」
「フフ、まるでおとぎ話の様で素敵ですわね」
テオが頭を振っています。
「素敵なんかじゃない……オレは脅かされたんだぞ」
「テオの所にも誰かご先祖様が会いに来てくれたんじゃないのか?」
「分からない……」
隣に座っているアイラは怯えるテオの手に触れて魔力を流してあげているようです。
(ムー……)
明星を独り占めされているようで朝日は面白くありません。この間は二人に気を遣ったので、今日の放課後は兄と一緒に居る事に決めました。
午後の授業が終わり、朝日はアイラに声をかけました。
「アイラさん、今日も図書館に行くでしょ?一緒に行こ」
「えっと、今日はマリーさんの畑を手伝いに行こうかなと、」
「そうなの?」
明星に会いに行くのが目的なので別に一緒でなくても構いません。むしろ明星を独り占めできるので都合がいい。彼女と別れ、足取り軽く図書館へ向かいました。
メイベールお嬢様は最近、積極的に図書館へ行こうとしません。もう火球の準備が整ったようで、彼女の意識は力を蓄えているかのように眠ったままの事が多いのです。なのでお嬢様がどんな秘策を隠しているのか朝日にも分かりません。
図書室のいつもの場所に来ると、明星はテーブルに突っ伏していました。
「おにぃ?」
肩をトントン叩きます。鋭い視線がこちらに向けられました。
「なんだ?」
ゾクッとして朝日はたじろぎました。
「え?あ、その……」
言葉を探すうちに彼の眉間のしわは消えました。
「すまん、少しウトウトしてた」
「おにぃ……なの?」
「ああ。幽霊騒ぎがあってから余り寝れてないんだ。テオの方も少しイライラしてたんだろう。悪かった」
明星が大きく伸びをして聞きます。
「アイラは一緒じゃないのか?」
「うん。マリーさんの畑に行くって言ってた……(あれ?)」
「そうか……凄いよな、魔力を分けてもらうと眠気が無くなるんだ。あの子にはだいぶ助けられたよ」
「ふーん、」
朝日は明星の手に触れて魔力を流し込みました。
「ッ!」
「これで目が覚めたんじゃない?」
彼を置いて図書館を出ます。確かめたいことが出来たのです。




