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「そうか。覚えていないのならロンド兄妹について少し教えておいてあげよう。あの二人が実の兄妹ではない事は知っているだろう?」
「そうなんですの⁉」
「おや、知らなかったのかい?勉強が足りないね。いや、もしかしたら、うちの家庭教師がロンド家に気を遣って教えてくれなかったのかな?まあ、いい。僕が教えてあげるよ。現在の国王様の名前くらいは知っているだろう?」
「ええ、それくらいは。ウィリアム3世国王陛下ですわ」
「じゃあ、先代の国王様は?」
「え?それは……」
「チャールズ8世だよ。どうやら本当に教えてもらっていないらしい。授業で恥をかく前に、図書室で勉強しておくんだよ」
「はい。それで?」
「先代のチャールズ8世がエミリーの父親でね、残念ながら若くして病気で亡くなられた。困ったのが王位継承だよ。直系のエミリーが継ぐのが望ましいけれど、まだ生まれたばかりで継ぐことは出来ない。代わりに皇后のエイラが摂政に就き、エミリーが成人するまで見守る話も出たそうだが、皇后はカンロ王室の出なんだ。ブリトン王国に統一されて250年以上経つが、未だに派閥というものは存在する。セントランド派はこれまで実権を握ってきたものの、その王は連合国として3国の長を兼任しているに過ぎない。だからカンロとスコーの元王室から妃を迎え入れるのが習わしなんだ。カンロ派に実権を握られたくないセントランド派はチャールズ8世の死後、その妹、ソフィアを頼った。普通の貴族であれば長男が地位を継ぐから妹は嫁がせる事になる。けれど王族であるソフィアは血縁を残す為に分家してウィリアム3世を婿に迎え入れていた。そして夫である彼がロンドの分家として今の王座に就くことになったんだ。現国王のウィリアム3世はもちろんルイスの父親だ。ルイスとエミリーは従妹という事だね。実はウィリアム3世もスコー王室の出身でね。カンロとスコーどちらがマシかで判断されたのだろう。ここで更に話をややこしくするのが、ソフィアまで病死してしまった事だよ」
「まあ!」
「立て続けに王族が亡くなられたから、当時は毒殺されたんじゃないかと噂されたんだ。その混乱を収める為、エイラとウィリアム3世が再婚する事になった。形の上だけどね。これでカンロ派もスコー派もセントランド派も一応の統一がなされたわけだ」
「じゃあ、あのお二人は従妹で義理兄妹ということですか?」
「そうだね。けど、僕はこの再婚を愚策だと思ってる。結局ルイスかエミリー、スコーかカンロか、どちらの血筋が次の王位を継ぐのか先延ばしにしたにすぎないのだから。最初からルイスとエミリーで婚約を結んでしまえばよかったのさ」
「従妹同士でですか⁉」
「従妹同士の結婚は貴族の間では珍しい事ではないよ。もしかしたら婚約を結ばせないための再婚だったのかもしれないけどね。形の上でも兄妹となれば後から結婚しようとしても世間の目がある。もう20年近く前の話なんだから当時の事を詳しく覚えている人はどれだけもいないだろう。あの二人は実の兄妹なんだと思っている人の方が多いかもしれない。キミのようにね」
(兄妹で……)
ジャスパーがメイベールの肩に手をかけました。
「あぁ、メイベール……本当はこんな話聞かせたくはないのだが、やはり避けては通れないだろう。落ち着いて聞いて欲しい。キミの婚約についても王家の派閥争いが関係しているんだ」
「どういうことですの?」
「今の国王ウィリアム3世はルイスがこの学校を卒業したらすぐにでも彼に王位を譲るつもりでいるらしい。そうなるとエミリーを推すカンロ派は面白くない。継承権で言えば長男のルイスが王位を継ぐのが妥当だが、ウィリアム三世はエミリーが成人するまでの間の繋ぎとして王になった。それに元は分家だ。だからカンロ派は正統な継承権はエミリーにあると主張した上で、彼女をテオに嫁がせようとしたんだ」
「なぜそこでテオ様が出てくるのです?」
「教えただろう?彼のベオルマ家は元々カンロの出身だ。ロンド家とベオルマ家も100年前の革命では手を取り合った仲だが、再びカンロ王国の勢力を盛り返す為、ベオルマを取り込もうという動きがあるんだ。その為にエミリーを使って、テオを王座に据えようという魂胆だったんだ」
「待ってください。じゃあ、わたくしはそれを阻止するために?」
兄は頷くと妹を抱きしめました。
「お父様から聞かされたから間違いない。ケステル家はロンド家と昵懇の仲だ。派閥争いを止める為、盾になったんだよ。けど、悲観しないでくれ。テオは僕の友人だ。少し不愛想だが気のいい奴だ。ベオルマ家へ嫁いだとしても大切にしてくれるだろう。もしキミがどうしても嫌だと言うのならテオの方から婚約破棄してくれるよう頼んであげてもいい。だからルイスが卒業するこの1年だけは間違いを起こさないでおくれ」
「お兄様……安心してください。悲観などしておりませんわ。わたくしの婚約がケステル家の為になるのであれば全て受け入れます」
メイベールは笑顔を見せる為、兄の胸から離れました。
ジャスパーは首を振ります。
「そんな覚悟は持たなくてもいい。僕を頼ってくれ。正直、次の王が誰になろうと関係ないと思ってるんだ。皆、僕の友人だからね。この学校で築いた交友関係は僕にとっての力となる。派閥争いなんてものは周りが勝手に言っているだけだ。邪魔はさせない」
「そうですわ!今度の統治際でわたくしがケステルの名をこの国に轟かせて差しあげます!スコー王を黙らせた様に、とびっきりの火球を打ち上げて誰にも文句は言わせないようにするのです」
兄の心配そうな表情は、妹の思いもよらない言葉に晴れました。
「ハハハ!さすが僕の妹だ。それはいい!ケントの血筋の復活だ!その魔力で皆を黙らせてくれ」
「ハイ!」
(なんか大変な事になってきちゃったなぁ……)
朝日は不安を感じながら二人の会話を聞いていたのでした。




