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校舎の一室にあるガードの待機所までやってきました。そこでは休憩中とみられる数人のガードが雑談をしています。その一人がジャスパーの顔を認め声をかけてきました。
「わざわざ、すまないな」
「いえ、これも監督生の仕事のうちですから」
二人は親し気です。
「お知合いですか?」
「僕達の先輩だよ。ガードの多くはここの卒業生なんだ」
「そうでしたのね」
ガードの彼は胸に手を当て、軽く会釈してくれました。
「メイベール嬢、ごきげんよう」
「あら、わたくしの名前をご存じで?」
「ハハハ、学生の名前と顔はほとんど記憶しているよ」
「メイベール、ガードは使用人たちと違って貴族なんだ。失礼があってはいけないよ」
「貴族と言っても家を継ぐ必要のない次男や三男ばかりだ。自分で稼がないと食っていけない、使用人と変わらないな。違うのは魔法が使えることくらいさ」
「だからガードとして雇ってもらえるんだよ」
「魔法の使える悪ガキを監視する仕事だから、こちらもそれなりに魔法の扱いに長けていないと舐められるからね」
悪ガキと言った時に目が合いました。メイベールの二つ名はガードの間にも広まっているようです。
貴族は世襲制です。長男が爵位や領地、財産の全てを相続します。次男以下は何も与えられないので裕福な貴族でなければ養う事はできず、家を出され平民扱いとなります。それでも魔法の使える事には変わりないので、国に仕える官僚に就いたり、領地で役職を与えてもらったり、最近は魔道具に使われる魔力石を提供して収入を得たり様々です。中には裕福な商家へ婿入りして一から貴族の家を興す者もいます。そういう成り上がりは新興貴族のジェントルと呼ばれるのです。
女子であれば他の貴族家へ嫁ぐのが普通です。稀に男子の生まれなかった家では女主として家を継ぎ、婿を迎え入れる事もあります。
「それで、今朝の話を聞かせて欲しいのですが、」
「ああ、目撃したのは昨晩の当直だったんだ。もう帰ってしまったから私が代わりに聞いてある」
先輩は部屋に張り出されていた校内の地図を指さしながら教えてくれました。
「巡回ルートは時々変えているから詳しく教えられないが、今朝は訓練場の方をぐるりと回るルートだった」
指が地図をなぞっていきます。訓練場は図書館の北側にあり、魔法適性を計った場所です。
朝日は簡単な地図を描き、メモしました。
「訓練場で、明かりが灯っているのを見つけたそうなんだ。時間外に生徒がいれば声をかける事になっている。近づいて行くと明かりは消えてしまった。どうやら極々小さな火球をつけて明かりにしていたらしい。魔力感知したと言っている。場所は魔法の訓練場だし、熱心な奴が火球の練習でもしているのかと思ったそうだ。けど校内で魔法の使用は禁止されているだろう?罰則は罰則だ。連れて帰って先生に引き渡さないといけない。しかし、濃い霧に阻まれて見失ってしまったんだ。その後、暫く周囲を捜索したが見つからず、今度は女子寮であの騒ぎが起きたという訳だ」
「実際に姿を見たわけではないのですか?」
「そうだな、まだ暗かったし霧も出ていたから、明かりしか見えなかったんじゃないか?魔力を感じたと言っていたから人がいたのは確かだろう」
「その時間、外に出ている人は?」
「もし先生や使用人だったとして逃げる理由が無いな。学校関係者なら何をしていたのか事情を説明すればいい話だ。ナニかやましい事をしていたのなら別だが。学生だと乗馬クラブの連中が馬の世話の為に厩舎にいるくらいだな」
「外部から侵入した可能性は?」
「魔導士のいる学校に忍び込む度胸のある奴がいるとは思えないが、もしもの可能性も考えて今日から統治際の間まで見回りは強化することになったよ」
「そうですか……また何かあればよろしくお願いします。先輩」




