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放課後、ジャスパーとメイベールはフォグ ウォーカーを目撃したという場所に向かいました。
「女子寮の監督生の話では、今朝早く悲鳴が聞こえて、廊下には喚きたてる女子生徒が2人居たそうだ。起床時間前だから7時前という事になる」
朝日が手帳にメモしていきます。ふと疑問に思い聞きました。
「女子寮の監督生もいらっしゃるのですよね?なぜわたくしがお兄様の手伝いをしなくてはいけないのでしょう?」
「嫌なのかい?」
「そういう意味ではありませんわ。女子寮の監督生は何をしているのかと思っただけです」
「彼女には僕の方から任せてくれるように話を付けておいたんだ。いずれキミも監督生を務める事になるだろうから、僕がいるうちに教えておこうと思ってね」
「わたくしがですか?」
あからさまに嫌そうな妹の顔を笑ってジャスパーが言います。
「こういう務めというのは上位貴族に回ってくるものなんだよ」
「ずっとお兄様が監督生を務めていますの?上位貴族なら他にもいらっしゃるでしょう?」
「順位から言えばルイスが務めてもおかしくはないけど、彼は乗馬クラブに入っているから馬の世話に忙しくて監督生の仕事は合わないよ。テオがやってくれてもいいんだが、彼はあの通り不愛想だ。とても勤まらないだろうね。監督生は来賓の接客もしなければいけない事があるから」
「接客……わたくしもしなくてはなりませんの?」
「貴族の仕事なんてほとんど接客の様なものだろう?屋敷に客人を招いて、友好関係を築き、家を発展させる。社交界とはそういうものだ。特に女性にはそういう社交性が求められる。学生のうちから経験しておいて損はないよ」
話して歩いているうちに女子寮の前までやってきました。
ジャスパーが中に入る訳にはいかないので、入口の前に立ち南東の方角を見ました。その先にある校舎の屋根には今も椅子が乗せられたままです。
「女子生徒の話によるとフォグ ウォーカーは北から南へと浮遊しながらやってきたそうだ」
「浮遊⁉」
「フフ、何と言っても幽霊だからね。濃い霧でハッキリしなかった様だが全身白い姿だったという。フッ、誰かがシーツを被って魔法で飛んでいたのだろう」
「そんな目立つ格好なら他に目撃者はいませんの?起床時間前と言っても、もう起き出していてもおかしくはありませんわ」
「誰かさんのように、皆ぐっすり眠っていたんじゃないかな?最近は起床時間になっても日が昇らなくなったし、霧も出ていたから見えづらい。それに男子寮の方からは気付きにくいよ」
「なぜですの?」
「窓の向きさ」
ジャスパーが女子寮の窓を指さします。
「寮の部屋は東側に配置されている。当然窓も東向きだ。男子寮からでは西側に位置する校舎は部屋から見えないんだよ」
「でもお兄様、イタズラが目的だというのなら誰にも気づいてもらえなければ意味がありませんわ」
「だから魔法なんて使ったのかもしれないね。感知されて気付いてもらうために。大胆にもその人物は校舎の前で跳躍すると、屋根に降り立ちあの椅子に座ったらしいよ」
「そういえば、あの椅子ですけれど……」
ジャスパーは歩き出してしまいました。
「次はガードの話を聞きに行こう」




