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第九章 「The Fog Walker」 9-1


「アナドリ」第1巻が電子書籍で販売中です。投稿サイトでは発表していない「クラブ活動」と「エミリー」のエピソードを書き下ろしてますので、ぜひ読んでみてください。


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イタズラの祭は終わりました。けれど、興奮が収まらず眠れない生徒もいます。そういう子はこっそり友達の部屋へ行き、今日の出来事をヒソヒソと語り合うのです。

寮は門限を超えてからの外出は禁止ですが、寮内であれば見回りのガードはいません。寮長に見つからないように友達同士で集まるのはよくある事でした。

その日もある女子生徒がティータイムの時に取っておいたお菓子を持ちより、バレないよう部屋の明かりはつけず月明かりの下で気の済むまでお喋りしていました。

深夜になり、すぐ隣の部屋であるにもかかわらず戻るのが面倒になったその子は狭いベッドで友達とくっつき合って眠りました。


最近急に寒くなり、その寒さで朝早くに目が覚めた彼女達は見てしまったのです。窓の外でゆらゆらと揺れる白い影を。最初はイタズラしたりない誰かが、ふざけてシーツでも被って歩いているのかと思いました。けれど、起床時間前に外を出歩いて見つかれば謹慎処分になりかねません。なのにあんな見つかりやすい格好で歩くなんて。


濃い霧の中をふらふらと白い影が漂っています。よく見ようと目を凝らすと、その白い影は地面に足を触れていませんでした。空に浮いているのです。見ているうちにスーッと滑るように移動していきます。その影がピタリと止まりました。次の瞬間ふわりと浮いて跳躍したではありませんか。まるで重さを感じさせない動きに驚きを隠せません。風魔法を操るのが難しい事は魔導士の卵である彼女らでも分かっています。何より校内で魔法の使用は禁止されていますし、それよりも見えている白い影から魔法発動に伴う魔力を感知できません。

二人はイタズラではない何か異常なものを感じ始めていました。


跳躍したその影は校舎の上に降り立ちました。そこに置いたままにされた椅子へと腰掛けたように見えます。頭らしきモノが濃い霧の中で辺りを見渡しています。それがピタリと止まると、こちらを見ている様に思えました。

握りあった友達の手が震えています。

『フフフフフ……』

湿った風に乗って不気味な笑い声が聞こえてきた時には、二人は大声で叫んでいました。


◇◇◇


「フゥー……」

ティータイムの席でジャスパーがため息をつきました。

「どうかしましたの?お兄様」

「聞いているだろう?今朝の女子寮の噂」

朝日は首を振りました。今朝はイタズラの疲れからか、ぐっすりと熟睡していたのです。だから寝過ごしてしまい、慌てて制服だけ着て出てきたのです。朝食を貰い損ねたので、いま二つ目の小さなパンを飲み込んだところでした。三つ目を手に取ると兄二人が笑っていました。

「食べ過ぎだ」

テオが呆れて言い、ジャスパーが笑います。

「今朝はよく食べるね、メイベール。僕は噂話のせいで紅茶しか喉を通らないよ」

「なにかありましたの?」

「女子寮で起こった事なのに、本当に知らないのかい?」

横からアイラが教えてくれました。

「今朝、悲鳴を聞いたんです。私もビックリして飛び起きました」

「わたくし疲れていたからぐっすり眠っていましたわ。まだ誰かがイタズラしてますの?」

「そうかもしれない……いや……んー、」

兄はなんとも歯切れの悪い返事です。


隣でテオが青ざめた表情で言いました。

「幽霊だ……」

ジャスパーもルイスも笑いを押し殺しています。

「テオにも怖いものがあったなんて驚きだよ」

「お二人は幽霊が怖くないので?」

「幽霊といっても元は人間だ。怖いとは思わないね。それに、もしかしたらご先祖様が祭りの間、帰って来てくれているかもしれないんだ。是非ともお会いしたいよ」

ルイスも頷きます。

「そうだな。私も一度、先祖の顔というものを拝んでおきたいな」

「ルイスの所には恨みを持った亡霊しか現れないと思うけどね」

「それで、今朝の悲鳴は本当に幽霊だったのですか?」


ジャスパーが言うには女子寮で早朝、幽霊騒ぎが起きたとの事。目撃したのは3人。女子生徒2人と、朝の見回りをしていたガードです。

「霧の中を彷徨う幽霊『ザ・フォグ ウォーカー』と、既に名前まで付いてしまったよ。やれやれ。女子生徒だけなら、ただのイタズラとして見過ごしてあげてもよかったんだけどね。ガードが魔法を使っているところを目撃したと言うんだ。ガードに見つかっては何もなかったじゃ済まされないよ。ということで、また監督生である僕の出番という訳さ」

「魔法をつかうところを見られるなんて、その生徒もドジを踏んだものだ」

ルイスは済まして紅茶をすすっています。

「ルイス様、そもそも魔法を校内で使うのは禁止されていましてよ?」

「フフ、これは言い方がまずかった。そうだな。校内で魔法を使うなんて、けしからん生徒がいたものだ」

彼は悪びれる様子もなく笑っています。まだ昨日のイタズラ祭りの余韻が残っているのでしょう。

収穫祭は昨日で終わりましたが、そのまま統治祭まではお祭り気分で誰もが浮かれてソワソワしたまま5日間が過ぎていきます。イタズラしたりない生徒がこの期間に問題を起こすのは毎年の恒例なのでした。


「妹よ、今日も兄さんと一緒に犯人捜しを手伝ってくれないだろうか?」

「構いませんわ」

メイベールは二つ返事で了承しました。

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