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ランタンに火が灯されていきます。夜になれば揺れる炎が幻想的に映る事でしょう。
「お疲れさん。ありがとね」
マリーさんがおやつにパンプキンパイを出してくれました。それを頬張りながらメイベールはエミリーに聞いてみました。
「風の魔法はとても操作が難しいと聞きますわ。わたくしにも少し教えてくださらないから?」
「そうねぇ……教えるのは構わないけど、言葉で説明するより体験した方が分かりやすいんじゃないかしら?」
エミリーに促され、テラスに出ます。そこで3人は向き合って手を繋ぎました。
「これからわたくしの魔力を流すから、二人はそのまま何もしないで手を繋いでいて」
アイラとした魔力交換を思い起こさせ、なんだか嫌な予感がします。隣のアイラも不安そうな顔でした。
「ねぇ……エミリー様、これは、危なくはないのでしょうか?」
「力は抑えてやるから。大丈夫よ……きっと」
”きっと”の言葉に含みがあった様に感じます。こちらの不安をよそにエミリーは子供の様に笑っています。
「魔力交換はしないでね。わたくしが手を繋いだ中をグルグル魔力を巡らすから、じっとしてて」
一呼吸おいて彼女の目に力がこもると、ソレは流れ込んできました。その強烈な刺激に声が漏れます。
「かァはっ!」
アイラの魔力交換とはまた違った刺激が体を突き抜けていきました。例えるならソレはグネグネと蠢く長くて太いナニか。体の内側を無理やり押し広げられるような感覚に腰がビリビリと反応します。
「んっ!」
アイラの方も体をこわばらせ、背はのけぞる様にして耐えていました。
「ちょっと強すぎたかしら?もっと弱めるわね」
エミリーが調整してくれ随分と大人しくなった魔力は、それでも体を通り抜ける時うねうねと波打ち突き刺すような刺激を残していきます。
「どうかしら?今のが最大限意識を集中して安定させた風の魔力よ」
「ずいぶんと……はぁ……荒々しい魔力ですのね、」
「風は自由だから、どこにでも吹き抜けて行ってしまう。そもそもの魔力操作にさえ集中を要するの。風魔法が難しいと言われるのはこの為ね」
「適性を持っているエミリー様でもこんなに激しいのですから、わたくしの風魔法がでたらめな所に飛んで行ってしまうのは当然ですわね」
「魔法はイメージの力。イメージしてみて、風を操る方法を。風なんて見えないし、捉えどころがないじゃない。それが扱いを難しくしている要因よ。火と違って身近にあっても意識しないから魔法にもそれが現れてしまうの。制御しようとすれば逆に吹き荒れる。わたくしはその風を一筋の流れとして捉えているわ。それを何本も束ねる事で威力を調整しているの」
メイベールは体験したことで何かを掴んだようです。早くも火球の威力を上げる方法を考え始めていました。
考え込んでしまったメイベールに代わり、朝日は聞きました。
「ねぇ、エミリー様。フライの魔法は使えませんの?」
「使えるわよ。一応ね」
「まあ!わたくし憧れですの、自由に空を飛び回るのが」
「飛び回るのは、難しいかしら……どちらかといえば飛ぶというより、跳ね上がる感じ?」
「やはり難しいので?」
「そうね。メイベールさんは空を飛び回るイメージは出来るようだけど、着地はどうするの?」
「着地?……ですか?」
「魔法はイメージの力よ。きっと誰もが空高く飛び上がるイメージは出来ると思うの。けれど、その後はあまり考えない。空中に人が留まる事は出来ないわ。落下するのよ?その落下のイメージでは着地は上手くいかないわ。空中に浮かんでいる間だって恐怖心を持った瞬間に魔法は乱れて落ちてしまう」
「やっぱり難しいのですわね」
「でも、落ちかけたらこうするの」
手を繋ぎ直し、またエミリーの魔力が流れ込んできました。
「いくわよ?」
何をするのか説明がないまま、彼女が確認を取ります。嫌な予感しかしません。すると突然、エミリーの魔力がググっと膨らんだかと思うと、制御を失った様に魔力の束がビクビクとうねり、勢いよく放たれました。
ブオッ!
3人の体が数十センチ浮かび上がります。爆風が起こったのです。その爆風でスカートもネクタイも髪も真上に逆立ちました。
「キャ!」
手を離してめくれ上がるスカートを抑えたものだからバランスを崩し、3人は一緒に尻もちをつきました。
「もう!エミリーさまっ!」
「あははははは!」
彼女は起きようとせず、テラスで寝そべって笑い転げています。その姿はおしとやかな王女とはかけ離れ、イタズラを喜ぶ悪ガキそのままです。
「はーぁ!こんなに思いっきり笑ったのは久しぶりだわ」
「わたくしエミリー様の事、誤解していましたわ。とんだじゃじゃ馬でしたのね!」
他に生徒がいなかったとはいえ、スカートがめくれ上がった恥ずかしさを朝日はぶつけました。
「あら、子供の頃に遊んだ時はメイベールさんの方がお転婆でしたのよ?」
「わたくしのは小さな頃の話でしょう?エミリー様はタチが悪いですわ。何の説明もなく、浮かび上がらせて……笑いものに?……するなんて……まさか、」
朝日は気付きました。
アイラも気付いたらしく言いました。
「もしかして、屋根の上の椅子って……」
「あら、なんの事かしら?」
既にその顔は笑いをこらえています。ですが堪えきれずに吹き出しました。
「プッ!ちゃんと下ろすつもりだったのよ?けど人だかりが出来てたから、そのまま逃げちゃった。フフ!」
「……とんだ悪ガキですわね」




