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収穫祭は本来、秋の収穫を祝うお祭りです。けれど豊穣は子孫繁栄への願いにも繋がって宗教的な意味を持つと、この日に先祖が返ってくると言われるようになりました。
見えない霊が家族に気付いてもらうためにイタズラをするのだという話は、このお祭りを楽しみたい誰かによって考えられたイタズラなのかもしれません。
まだイタズラしたりない生徒は昼を過ぎてもイタズラを続けます。しかし、そういう者は指をさされて言われるのです「イタズラなんて子供がやるとこだ」「大人になりたまえ」と。さっきまで一緒になってゲラゲラ笑っていた皆が手のひらを返して冷笑します。これもまたお祭りの一部であり、この学校の伝統なのです。
1年生は訳も分からないままイタズラの標的にされたので悔しさが収まりません。だから誓うのです。来年はこのうっぷんを晴らしてやろうと。こうして過激な伝統は引き継がれていくのでした。
放課後はイタズラの後片付けになります。例の屋根の上へ乗せられた椅子に人だかりが出来ていました。
「どうやってあんな所に乗せたんだ?」
「魔法で下ろすか?」
「風魔法?下手にやると危ないわ。先生がそのうち下ろしてくれるんじゃない?」
なぜ誰かが散らかした後片付けを、何もしていない自分がやらないといけないのか?納得できない朝日は逃げる事にしました。アイラと一緒にマリーさんのお店へ向かいます。
「いいんですか?」
「いいでしょ別に。何もしてないんだから、何もしないだけじゃない」
お店には既にエミリーの姿がありました。
「エミリー様も後片付けから逃げていらしたのね」
「そう言うメイベールさんも?」
「ええ、今日は本当に疲れてしまいましたわ。エミリー様は大丈夫でした?」
「フフ、わたくしは何もイタズラされませんでしたわ」
「あら、そうですの?」
朝日は気付きました。きっと王女様だから誰もが気を遣って仕掛けてこないのだろうと。かく言う自分もケステルという公爵の名に気を遣われたのか、それともレディ・ボムの二つ名に恐れをなしたのか、直接誰かからイタズラをされたわけではないのです。用意されていたものに引っかかったくらいです。
アイラがボソッと言いました。
「トリック・プリンセス」
「え?なに?それ」
「イタズラは、されるより仕掛ける方で……」
「アイラさん!その呼び方はやめてちょうだい!」
喋っている途中でエミリーがアイラに抱きつきました。二人はじゃれ合っています。園芸クラブで一緒の彼女達は、いつの間にかそういう仲になっていたようです。今までアイラの事をほったらかしにしていた朝日は少し心配になりました。
(そっちのルートに行く事は無いよね……)
賑やかな声に、マリーさんがお店から出てきました。
「おや、来たのかい?統治際が済むまでは、畑の作業もお休みだよ」
「イタズラの後片付けから逃げてきただけですわ」
「ハハ!悪い子だ。片付けが嫌なら、これを手伝ってくれないかい?」
マリーさんからロウソクを渡されました。
「もうすぐ暗くなるから、ランタンをつけておこうと思ってね」
「最近、暗くなるのが早くなりましたわね」
二人にもロウソクを配ります。
「えーっと、マッチは……」
マリーさんがエプロンのポケットを探しています。けれど見つからないようです。
エミリーが言いました。
「無くても大丈夫ですよ」
彼女がメイベールに向かって笑いかけます。
「いいものを見せて上げましょうか?」
エミリーは片手を開きました。そして閉じたり開いたりして、そのうちボールでも持っているかの様に、ギュッと握った空気の塊に力が込められます。最後はそれを握りつぶして手を閉じました。
「ちょっと離れて、」
言われるまま一歩下がります。彼女は握った手の上で軽くロウソクを放り投げると同時に、指をパッと開きました。
ブオッ!
エミリーの手から大きな火柱が立ち上ります。
「ぎゃーあ!」
ビックリして朝日は叫びました。炎は一瞬で消え、エミリーがお腹を抱えて笑いました。
「クククッ!」
その子供の様な笑顔には既視感があります。ティータイムの時間にルイスも同じ様に笑っていました。
「何ですの!今の⁉ 魔法ですか?」
「フフフ!魔法じゃないわ。ただのトリックよ。クククッ」
アイラがまたボソッと言います。
「トリック・プリンセス」
朝日にもどういう事かやっと分かりました。エミリーは1年生の頃、相当やらかしていると聞いていたのです。自分達と同じように変な二つ名が付いてしまっているのでしょう。
いつまでも笑い続けるエミリーに朝日は澄まして言いました。
「イタズラなんて子供のする事でしてよ?大人になってくださいまし、エミリー王女」
「フフフ、ごめんなさい。こんなに驚いてくれるとは思わなかったから、ククッ」
「どうやってやりましたの?」
ふーっと息を吐いて呼吸を整えた彼女が説明してくれます。
「わたくしの魔法適性は風なのです。今のは魔力でもって空気を極限まで圧縮させたの。空気は圧縮すればするほど熱を持つのよ。だからああやって炎も起こせる。ロウソクはアッという間に燃え尽きてしまったわね。フフ」
「火をつけたいのにロウソク燃やしちまってどうすんだい」
マリーさんがまたマッチを探し始めました。今度はアイラが止めます。
「あ、火をつけるだけなら、たぶん私も出来ます」
彼女は人差し指を立てると、そこへロウソクの先端を近づけました。そして、
バチッ!
小さな稲妻が飛んだと思ったらロウソクに炎が灯りました。
「アイラさん、魔力操作が随分と上手になったじゃない」
「今のはただ魔力を指先に集めただけなので、大したことないです」
「お二人とも、魔力操作だけで炎が出せるなんて凄いですわ。わたくしも出来ないかしら?」
朝日はロウソクの先端に指を近づけ魔力操作で熱を与えてみますが、炎がつくにはいたりませんでした。
「おかしいですわね……」
「きっと無意識のうちに力を抑え込んでいるのね」
「そんなはずは……」
「炎というのは人にとって身近なものよ。けど、その怖さも大昔から体に刻み込まれてきた。理屈じゃない人間の深い部分で力が抑制されているの。だから抑制を解き放つためのきっかけとして呪文があるのよ。今の状態から呪文を唱えれば簡単に炎は現れるでしょ?」
「そうですわね」
「体の内と外。その違いだけで魔力と魔法の違いが生まれるのだから、面白いわね」
「わたくしもお二人の様に変わった適性を持ちたかったですわ」
「あら、火の適性を持っているからこそボムが撃てるんじゃない。とても素晴らしい才能よ」




