8-7
朝日は言いました。
「知ってまして?昔の魔導士はネコを使い魔にしていたのですわよ」
エミリーが笑って応えます。
「知ってるわ。ロンド家の紋章にはその使い魔であるネコが描かれているもの」
ルイスが後ろで笑っています。その隣ではジャスパーが苦笑いしていました。ロンド家の使い魔は魔導士なら知らぬ者がいない常識なのです。
朝日は取り繕いました。
「わっ、わたくしも使い魔が欲しかったですわ」
「ダメよ、メイベールさん。今は使い魔を使役する事は禁止されているのよ」
「どうしてですの?」
「それは……」
エミリーが助けを求める様にルイスを見ました。
「それは、宿す精霊の数に限りがあるからだ」
「どういうことですの?」
「そうだな……いずれ魔法の授業で習うだろう」
言葉を濁すルイスの事をジャスパーが笑います。
「いいかい?メイベール、これは王家がひた隠しにする。国家機密なんだ。その真実を聞いた者は粛正されるから、これ以上は知らない方がいい」
「ジャスパー、誤解を招くような言い方はやめたまえ……はぁ、メイベールも知っての通り、ロンド家の歴史は後ろめたいものばかりだ。いずれ授業でも出てくるから教えるが、その一つが召喚術なんだ。使い魔というのは精霊を召喚し猫などの小動物へ”ある魔法”でもってその精神を繋ぎ止めたものだ」
「バインドの魔法ですわね」
今度は知っていたので得意気に答えたのですが、ルイスとエミリーが目を見開き驚いていました。
「なぜキミがその魔法を知っている?」
「え?っと……ジョージ先生に聞きましたわ」
「あの人は……」
ルイスは握った拳をコツンとおでこに打ち付けました。どうやら知ってはいけないものだったようです。変な空気になったのを察して、ジャスパーが大げさに笑って言いました。
「ほらね!メイベール、ダメじゃないか!人には知られたくない、暗い過去があるものなんだよ」
エミリーの表情もさえません。朝日も空気を換える為、声を張り上げます。
「オホホ!お兄様、どうしましょう?このままではケステル家がお取り潰しですわ!」
ハァとルイスがため息をついて言いました。
「メイベール嬢なら悪用なんてしないだろう?」
「もちろんですわ!わたくし、名前を知っているだけで魔法を使う事など出来ませんもの」
「なら問題あるまい。問題なのはあの人だ。なぜこんな重要事項を喋ってしまうんだ……」
「秘密にするから喋りたくなるのが人情というものさ。けれどどのみち魔法なんていうモノはケント1世の名の元に全て白日にさらされたんだ。今更、秘密にしたところで意味はないだろう?」
「全ての魔法が公開されたからこそ、管理が重要なんだ。国が危険と判断したものは使用禁止にしてその魔導書も閲覧禁止にされた」
「ふむ、なら大変だ。誰かのイタズラのせいで簡単に図書館へ侵入し、本をばらまくことが可能だと判明してしまったのだからね。あそこには貴重な魔導書もある」
「図書館の管理もジョージ先生に任せてあるのに……ハァ」
「はいはい、お腹がすくと怒りやすくなるからね。おやつでもお食べ」
マリーさんが鍋を持ってきました。
蓋を開けると中には串に刺された具材が煮込まれていました。その食べ物に朝日は見覚えがあります。冬になると無性に食べたくなるアツアツのアレです。でもこんなファンタジーの世界には似つかわしくない食べ物に彼女の頭が混乱します。
(待って、え?これって……)
「おでんだよ」
マリーさんがにこやかに言いました。
(本当に⁉)
「寒くなってきたからね。アイスはやめて、これからはおでんの季節だよ」
「マリーさんのおでんをいつも楽しみにしてるんだ」
ルイスは先ほどまでの苦悩はどこへやら、笑顔になっています。
「ここのおでんは冬の名物だよね」
ジャスパーも早速手を伸ばしています。
(みんな普通に食べてる……この世界には日本の様な国もあるのかな?)
朝日も一つ食べようと鍋を覗き込みます。
入っているのは定番の大根に卵、何かのつみれ団子、ちょっと変わり種にソーセージとおそらく牛筋、小さな玉ねぎが2つ串に刺さった物、後は大きなマッシュルームもあります。
定番の大根を取りました。
(いただきます)
よく煮込まれた大根は軟らかく、嚙む力を必要としません。ハフハフと口を動かすだけで崩れていきます。するとしみ込んだスープがあふれ出ました。味は日本の和風だしというより、西洋のコンソメスープに近い味わいがします。この国で手に入る具材で工夫して作られているのでしょう。とても美味しいものでした。
皆、笑顔でおでんを頬張っています。
けれど朝日はまだ知らないのでした。これからこの笑顔が凍り付く恐怖の一日が始まる事を……




