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二人は図書係に頼んでおいた本の紛失結果を聞きに行きました。今さらですが、ジャスパーが声のトーンを落として訊ねます。
「昨日の件、調べてくれましたか?」
「まだ確認している途中です。あまりに図書の数が膨大なものでして、」
「そうですか……」
「それより、昨晩も本が散乱していたんです」
「本当ですか⁉」
「はい。そのままにしてあるので。見てもらえますか?」
図書係に連れられて案内されたのはやはり図書室の一番奥。例の窓がある場所です。長テーブルの上には数冊の本が無造作に散らばっていました。すぐそばには『触らないように!』と張り紙がされています。
そのテーブルに着いて、テオは今日も一人で本を読んでいました。気を遣ったのか一番端っこにいます。朝日が軽く手を振ると、微笑んでくれました。
図書係の人が説明します。
「今朝この本がここに置かれていたんです。昨日は帰る前に誰もいない事は確認しましたし、本が出ていない事も確認してました」
「このテーブルに置かれていたんですか?床に散らばっていたんじゃなく?」
「ハイ。あったままにしてあります」
「そうですか……ご苦労様でした。引き続き無くなっている本がないか確認作業の方、お願いします」
図書係が行ってしまってから朝日は聞きました。
「お兄様、本当にフライングブックなのでしょうか?」
そこにある本はどれも古そうな魔導書ばかりです。
「フフ、魔法と幽霊ではそもそも根本的に違うと言ったのはキミだよ?しかし床に散らばっていなかったとなると、どうやら僕のトリックは本当に見当違いだったらしい」
テーブルと本棚までは人が通れる幅があります。ただ糸で引っ張っただけでは、本は床に散乱するはずです。
「けど、この場所には何か意味があるようだね。これで3回ともこの窓の前で事件は起こっているのだから」
「やはり窃盗事件なのでしょうか?あの窓だけ開くことは出来ますでしょう?格子を外すことが出来れば侵入も出来そうですわ。本が置かれていたのは品定めしていたのではありません?」
「もし窃盗だとしたら、監督生である僕の仕事ではなくなる。学校に報告するだけさ。確認作業が終わるまで何とも言えないが……」
考え込んでいたジャスパーは急に顔を上げ、今頃気が付いたかのようにわざとらしく言いました。
「テオ!キミは本当に毎日、図書室に通っていたんだね!」
面倒くさそうな顔がこちらに向きます。
「お前のせいで、今日もまた曇ってる」
「秋は終わった様だ。これから冬の間中こんな天気だろうよ」
「寒くなりましたものね」
「昨日は曇っていたが、夜は晴れて月が綺麗だったよ。窓から差し込む月明かりが、とても明るく幻想的だった。その光の元で詩でも書こうと思ったくらいだよ」
「あら、お兄様ったらロマンチストですのね。知ってます?冬に月が綺麗だと、次の日の朝は濃霧だと言いますわ。今朝は霧が出ていたでしょう?放射冷却現象によるものなんですって」
「キミは随分、現実的な思考をしているね」
「わたくし、ここで読んだ本で覚えましたのよ」
ジャスパーの鋭い視線がテオに向けられます。彼は聞いていなかったかのように、本に視線を落としたままです。
「妹よ、捜査に戻ろうか……どうやって犯人は本をテーブルの上に乗せたかだよ」
考え込む二人を鼻で笑って、テオが言います。
「こんな方法はどうだ?」
彼は持っていた本をテーブルの上に置きました。そして指でそっと触れたのです。すると本はスーッとテーブルの上を滑ってメイベールの目の前で止まったではありませんか。
「すごい!どうやって動かしましたの⁉」
静かに、と明星が唇に人差し指を当てます。朝日は手で口を押えました。
「その本を触ってごらん」
朝日が触れようとした瞬間、バチっと静電気が飛びました。
「いたっ!」
痛がる彼女を明星が笑っています。
「フフ、すまない。ジャスパーに触らせるべきだったな」
「おい、」
「なんですの?今の」
「本に静電気を帯電させておいたんだ。そこへ反発する電気を流すと、今の様に物が動かせる。逆に引き寄せる事だって出来る」
「引き寄せる事も?やって見せてください」
彼は困り顔になりました。
「これは魔力によるものなんだ。触れる方ならいいが、離れた物を引き寄せるのは難しい。ここには結界が張られているから」
ジャスパーが捕捉します。
「さっき教えた魔力操作だよ。体の外に魔力を流せばそれは魔法だ。けれど呪文が確立している魔法と違って、魔力操作はただ魔力を操作するものだから、結界の中ではほとんど使えない。相当な魔力量を持っていれば別だが……そういえば、テオの魔法適性は雷だったか」
「ああ、そうだ」
「そうか、そうか、」
ジャスパーがテオの側に行き、その肩に手をかけました。
「キミが犯人だったのか」
「まさか!おにぃ……」
朝日はまた手で口を押えました。テオの中身は明星なのです。彼が犯人などありえません。
「身近な人物が犯人だったという話は推理小説の王道展開だよ」
テオが余裕で笑います。
「フッ、今お前が言ったんだぞ?結界の中では使えないと」
「図書室の中ではね」
ジャスパーが窓を指さします。
「窓の外からなら使えるんじゃないか?ちょっと来てもらおうか」




