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図書館を出て扉の前に立ちました。城の正面であるファサードには雨除けの屋根があり、石作りの優美な柱が支えています。先生の話だと、ここの装飾は後から施工されたものなんでしょう。目の前にはデザインを合わせた渡り廊下が真っすぐ校舎へ伸びています。
元のリード城は戦いの為の城。城の前面は兵士が戦地に赴く前の集合場所になっていました。戦後、その広大な広場に校舎と寮を建設していったのです。
ジャスパーがこれまでをまとめる様に言います。
「図書館が8時に閉まって、寮の門限が9時だ。そして10時前に事件が起きた」
「ええ。入口はここの扉しかありませんし、本を図書館の外に持ち出すことも無理そうですわ」
「だから僕はこの事件が、いたずらだと思ったんだ。寮の門限は9時だからね。図書館に留まっていたというのなら、9時に行われる点呼に間に合わないよ。昨日男子寮に生徒は全員揃っていた。女子寮の監督生にも確認を取ったから昨晩は9時の時点で生徒は皆、寮にいたんだ」
「そうなんですの?だとしたらどうやってイタズラを?」
「おいで、メイベール」
彼は先ほどの窓へ向かうようです。図書館に沿って東の方角へと歩き出しました。
歩く途中で窓辺に座る生徒と目が合いましたが、すぐに視線は外されました。
「ここの窓からも人が出入りする事は出来そうにありませんわね」
どの窓も格子がはめられていて、戦いの為の城だったリード城の面影を残しています。
「ここは換気用でもないから、窓は全てはめ込まれているね。開ける事も出来ない」
先ほどの高窓までやってきました。それは図書館の東壁面に取り付けられています。
ジャスパーがフッと笑いました。
「ほら、図書室を覗くのにちょうどいい椅子が置いてあるよ」
確かに窓の下には簡単な作りの小さな椅子がポツンと置かれていました。
「図書室は元々、調理場と食堂だったんじゃないかな?」
彼は壁をコンコンと叩きました。そこだけ不自然に壁から塔が飛び出ています。
「身を潜めるのに丁度よさそうだ。これは煙突だよ。かまどは塞がれてしまったようだけど、」
「だからここだけ換気用の窓か付いていましたのね」
ジャスパーが得意気に話します。
「おそらく事件のいきさつはこうだ。犯人は収穫祭が近い事に合わせ、幽霊騒ぎを起こして皆を驚かせてやろうと考えた。図書館に出る幽霊。話のネタとして悪くない。いたずらをする相手は今月、図書館の管理を任されている先生だ。ちょうど都合がいい事にあの先生は足が悪い。見つかったとしても逃げ切れると踏んだのだろう。どうやって驚かせてやろうか?犯人は図書室を歩き回って見つけたんだ。ここの高窓がほんの少し開くことを。きっとあの隙間から糸を通したんだよ。その糸を本の間に挟んでおいて外から引っ張れば棚から落ちるハズさ。バン!と大きな音を立ててね。2日連続散らばっていたのは予行練習でもしたのだろう」
朝日は小さな椅子を踏み台にして中を覗きました。テオが長テーブルにポツンと一人で本を読んでいます。彼の後ろには本棚が並んでいて、確かに糸で引っ張ればその場に本が落ちそうです。
腰を支えてくれているジャスパーが言います。
「どうだい?僕の推理は」
椅子から降りた朝日は聞きました。
「なぜ、こんな事をするのです?」
「ハハ!いたずらに動機は必要かい?強いて言えば楽しいから。愉快犯というやつさ」
「先生まで巻き込んで?」
「昔から先生にいたずらを仕掛けるのは、この学校の伝統みたいなところがあってね。さっき先生も会うなり言っていただろう?いたずらだと。これまでも何度となく生徒達のいたずらを見てきたはずさ」
日本の学校に通っていた朝日には少し理解しがたい話です。先生をターゲットにして、いたずらを仕掛けたのなら、バレた日には親を呼ばれ説教されそうです。けれど、ジャスパーの話は筋が通っている気がします。
ふと、気が付いて聞いてみました。
「もしかしてお兄様が犯人なんじゃ……」
「フフ、一緒に捜査していた人物が犯人だなんて、オチとしては悪くないね。けど違うよ」
「こんなに詳しく話してくれたではありませんの」
「探偵さんは推理力が足りないなぁ。なぜ先生が図書館に遅くまで残ることが分かったんだろう?僕はあの先生が昨日、図書館に居る事を知らなかった。いつも手伝っている助手じゃあるまいし……」
ジャスパーは窓から離れ南西の方角を向きました。その視線の先には女子寮があります。
「9時に点呼は取るけど、その後部屋にいるかどうかまでは確かめない。まったく、ガードに見つかったらどうするんだ。やり過ぎだよ」
彼の言葉に朝日も気付きました。
「あ!」
ジャスパーがニヤリと笑って人差し指を立てます。
「お兄様は最初からご存じだったのですわね!」
「なんの事かな?」
彼はとぼけて言いました。
「僕は友人から事件の話を聞いて、調べて欲しいと頼まれただけさ。頼まれた通り調べ、そのついでに面白そうな噂を広めてあげただけじゃないか。犯人の事なんて知らないね」
「それは、事件のほう助に当たりますわよ!」
彼が歩き出しました。
「さあ、そろそろ夕飯の時間だ」
「もーっ!」
笑い合いながら帰る兄妹は、自分達に向けられている視線に気付いていません……
事件は解決したかのように思われましたが、これで終わりではなかったのです。




