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研究室を後にして朝日は楽しそうに言いました。
「なんだか本物の探偵のようですわね」
「僕も楽しくなってきたよ」
手帳を持っていた事を思い出して、制服のポケットから取り出します。
「わたくしは助手ですわ」
「フフフ、本格的だね」
2階から下のロビーが見渡せるところまでやってきました。
「図書館に入るには正面玄関の扉をくぐるしかない」
入口は一つと、メモを取ります。
「二階は研究室になっていて、それぞれに部屋のカギは先生達が管理している。廊下は見通しがいいし、隠れられそうにはない。そしてここからならロビーに誰かがいれば気付くはずだよ。先生の足でもここに到着した時点で犯人と鉢合わせる可能性がある。逃げる時間の余裕はそんなになさそうだ」
階段を下っていきます。正面入り口の扉まできました。今日の天気はあいにくの曇り空で、換気のために扉は開け放たれていません。大きな両面開きの扉を押して生徒が入ってきます。
「先生は入り口のカギをかけたと言っていましたわ」
「だとすれば、トイレに隠れていたか、図書室の本棚の間に身を潜めて誰もいなくなるのを待っていたのかもしれない」
ジャスパーが正面左側の保管庫へ向かいます。扉に手をかけ押し引きしますが、カギがかけられていて開きません。
「この先には貴重な資料が保管されているから常にカギがかけれているようだね」
「珍しい魔導書もあるのでしょうか?」
「そうだね。興味あるかい?」
「ええ、風の魔法など覚えたいと思っていますの。簡単なのは使えますけど、もっと威力の大きなものを会得したいのです」
ジャスパーが首を振ります。
「やめてくれ、メイベール。風の魔法は操作が難しいんだ。さっき先生も言っていただろう?フライの魔法なんて使って怪我したらどうするんだ」
「確かにフライは興味ありますけれど、危ない事は致しません」
「一体なにをするつもりだい?」
「統治際で打ち上げる火球の威力を上げたいのです。炎は風を送り込むと勢いよく燃え上がりますでしょう?」
兄の顔は引きつっています。
「メイベール、十分危ないよ。頼むから無茶はしないでおくれ」
「フフ、楽しみにしていてくださいまし。とっておきの火球を見せて差し上げますわ」
引き続き捜査の為、今度は目撃現場である図書室へと向かいました。
今日も放課後に読書をして過ごそうという生徒が集まっています。朝日は入口近くに陳列されていた推理小説を手に取り、小声でジャスパーに言いました。
「知ってました?図書室の本は借りられないのですよ」
「ああ、僕が入学した頃はまだ貸し出していたんだけどね」
彼が図書係のいるカウンターへと向かっていきます。声のトーンを落とすことなく話しかけました。
「少し尋ねたいのだけど、いいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「僕は監督生のジャスパーだ。昨晩、図書室で不思議な出来事が起きたと聞いて調べてるんだ」
周りにいた生徒は本から視線を外し、ちらりと確認してからまた戻しました。しかし、耳はそばだてているはずです。
「本が散らばっていたそうじゃないか。フライングブックとか言って変な噂になってる」
「ええ……もう片付けてしまいましたけれど、」
「噂はさておき、誰かが侵入したのかもしれない。盗られた本は?」
「ないと思います」
「本当に?」
「……まだ本に記してある番号と照らし合わせてみないと、なんとも言えませんが、」
「寮を勝手に抜け出せば謹慎処分だ。それどころか窃盗となれば退学は免れない」
「そうですね、ちゃんと確認してみます」
「頼むよ。」
ジャスパーが歩き出したので朝日も付いて行きます。
声を潜めて彼が言いました。
「これで僕の仕事も終わりだ。念のため窓も調べておこうか」
「もうお仕舞いですの?楽しくなってきたところでしたのに」
「フフ、では今日は令嬢探偵の気が済むまで、付き合ってあげるとしよう」




