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放課後になると兄妹は早速、噂の図書館へと揃って向かいました。
「でもお兄様、いたずらしている生徒がいるとして、その方を捕らえるのですか?」
「いいや。そんな事はしなくていい。これは監督生である僕がこの事件に対して調べているというアピールをすればいいんだ。捜査していると生徒に知れ渡れば犯人だって捕まりたくはないだろう?いたずらも止むはずだよ」
「捜査だなんて、まるで探偵みたいですわね」
「フフ、ケステル兄妹にかかれば事件なんて、たちどころに解決さ」
兄が楽しそうにおどけます。子供の頃もこうして兄妹で遊び回っていたのだろうなと、朝日は暫くジャスパーに合わせてあげる事にしました。
まずは本が散らばっていた現場を見た先生に話を聞きに行きます。研究室で出迎えてくれたのは杖をついた年配の男性でした。
「やあ、ケステル家の兄妹が来てくれるとは。こんなたわいのない、いたずらにわざわざすまないね」
「いえ、生徒達の風紀を正すのは監督生である僕の務めですから。それで、昨晩の様子を教えていただけますか?」
「ああ、いいとも。」
先生は座らせてもらうよと断ってから腰を下ろし、話し始めました。
「昨晩、ワシは授業で使うプリントの準備をするため遅くまで残っておった。10時に近かったと思うが、下の図書室から物音が聞こえてきたんじゃ」
「確かに聞いたのですか?」
「ああ、間違いない。歳はとったが、耳ははっきり聞こえるのでな。それにここの床は直接、下の図書室の天井になっているから音が響きやすいんじゃよ」
朝日が分かっていないようなので、先生が説明してくれます。
「この図書館はリード城を改築したものだ。下の図書室は空間を広くとるため、壁や扉を取り払った。ところが壁が無くなると構造的に弱くなる。そこで天井も取り払い、中の梁を露出させ、補強のために柱を追加したんじゃよ。その柱の間には棚をはめ込むことで壁の役割も果たしておる」
「お詳しいのですわね」
「ほっほっ!ワシの担当は社会科じゃが、専門は建築学じゃ。特に城の研究をしておる。知っておるかな?このリード城はケント1世の時代から建っておる。領主が権力を示すような飾り立てた城ではなく、戦争の為の城じゃ。外壁は厚みのある所だと優に1メートルはあっての、下手な魔導士が火球を撃ち込んだくらいではびくともせん。構造もいたってシンプル。長方形の2階建てじゃ。後世になってから少しづつ装飾が施されたがの。それでも昔の武骨で堅牢な面影を今も残しておる」
先生は朗々と語ります。
「普通、戦いの為の要塞を作るのなら高い物見やぐらを付けるんじゃが、この城には付けておらん。なぜじゃか分かるかな?お嬢さん」
朝日は首を振ります。
「防御の為じゃよ。ここリードは魔法都市として名を馳せた。魔導士達によるシールドは鉄壁を誇っておったんじゃ。じゃから城に丸々シールドを張ろうと思った時、高い建物があっては入りきらん。それに塔は魔導士にとって絶好の侵入個所じゃ。風の魔法でひとっ飛びじゃからの」
「フライの魔法は操作が難しいと聞きますわ」
「そこで実際に塔から入れるか試した結果がこのザマじゃ」
先生は足をポンポンと叩いて見せました。
「そろそろ昨日の話を……」
ジャスパーが苦笑いしています。
「そうじゃった。城の話になるとつい話し込んでしまう。お嬢さんも興味があれば3年生に進学した際にはワシの講義を聞きに来ておくれ」
「ええ、ご迷惑でなければ」
話を戻します。
「床の話じゃったか?図書室の為に天井を取り払ったから下の階から見上げれば、ここの床が見えているんじゃよ」
先生は敷いてあったラグマットの端を座ったまま蹴ってめくると、露出した木の床を持っていた杖でコンコンと叩いて見せました。
「今、下にいる生徒の何人かは天井を見上げたじゃろう」
「床の話ではなく……どんな音を聞いたんですか?」
「そうじゃな。バン!と何かを打ち付ける音か。最初は本が倒れたんじゃないかと思ったんじゃ。ほれ、棚に隙間があると中で滑って倒れる事もあるだろう?じゃが、昨日は何度も物音がするから気になっての。見に行ったんじゃ」
朝日は聞きました。
「幽霊を見たのですか?」
「ハッ!ハッ!見たように思ったんじゃが、きっと窓から差し込む月明かりだったんじゃろう」
「人影ということは?」
「暗かったから、よく分からん。すぐに灯りをつけて見回ると本が窓際に散らばっていたんじゃ。おおかたワシが降りてくるのに気が付いて急いで逃げたんじゃろう。それくらい簡単なはずじゃ。なにせこの足だからのぉ」
先生は杖を持ちあげました。
「先生以外その時、人はいなかったのですか?ガードや他の先生とか」
「ああ、いなかったと思う。今月はワシが図書館のカギを最後に閉めて出る事になっておる。図書館を閉めるのは8時じゃ。それまでに先生も生徒も出ていく。ワシはプリントの準備をしたかったから、8時を過ぎてから入口のカギを内側からかけたんじゃ」
「あら、だったら誰も入り込めないではありませんの」
「しかし、図書館の中に身を潜めていたのかもしれん」
「他に気付いたことはありませんか?」
「ふむ……特にはないな」
「そうですか。お時間を取らせました。僕達はもう少し調べてみます。その本が散らばっていたという窓はどこでしょう?」
「図書室の一番奥じゃ」




