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生徒達が寝静まり、夜の静寂が広がる中、月明かりが図書館の窓から差し込んでいた。
そこに人影はない。ただ静かに本たちが存在している。
ズー……バタン!
その静けさを破る物音が館内に響いた。
誰もいないはずの図書室で棚から本が落ちた。
パタ、パタ、パタ、
落ちた本が勝手に浮かび上がる。
ページが開かれた姿で羽ばたき、空中を浮遊する。
ズー……バタン!
パタ、パタ、パタ、
棚の間を蝶のように飛び回る本たち。それは生を与えられたように、軽やかに空中を舞った。ページをひらひらと揺らし、差し込む月明かりに蜜を求めるかの如く窓へ吸い寄せられていく。月光に照らされ文字が輝いた。
図書室には誰もいない……
◇◇◇
朝日は次の日の放課後も図書館へ向かいました。いえ、やる気になっているお嬢様の体が勝手に動いて行くのです。
昨日と同じように明星の隣に座ります。
「今日も調べものか?」
「うん……なーんか、水蒸気爆発を利用して威力を上げようとしてるみたい……ふわぁぁぁあ」
朝日は大きなあくびをしました。明星が笑っています。
「おにぃ、図書室って眠くならない?」
「そうか?集中して読んでると、眠気は感じないけどな」
「アタシ、ちょっと寝てるからメイベールに話しかけないでね」
「フフ、分かった」
体の主導権を得たメイベールは今日も本を読み漁りました。
しかし、文字だけではどうしても理解が及ばない部分があります。それに魔導書は膨大にあるのです。統治祭まであまり日にちはありませんし、彼女は少し焦りを感じ始めていました。
ツン、ツン、
魔導書を読みふけるメイベールの肩を突っつく人物が。そこに居たのはテオです。調べものを邪魔された彼女の眉間にシワが寄りました。
「何ですの?テオ様」
彼が意外そうな表情を浮かべます。少し間を置いて、
「そろそろ夕食の時間だ。この辺にしておいてはどうだろう?メイベール嬢」
「お心遣いは結構です。わたくしはまだ調べものがありますの。あなたはそんなところに立っていないで、どうぞお先に。」
彼はフッと笑いました。
「あさひ」
兄の呼びかけに朝日はハッと目覚めました。ビクンと体が脈打ってから、辺りをきょろきょろと見回します。
「おにぃ……アタシ今、完全に寝てた。ごめん」
「フフ、みたいだな……」
明星の顔は少し寂しそうです。
「何かあった?」
「いや、ちょっと話しただけだ。メイベールはやっぱりテオの事、嫌ってるんだな、」
「嫌いというか……たぶん、このお嬢様は全部ケステル家の為に行動してるんだと思う。お兄ちゃんの、ジャスパーの為に」
「そうか……夕飯の時間だ。行こう」
「うん」
席を立った朝日に明星が注意します。
「本を元の位置に戻しておけよ」
彼が指さした先には柱に張り紙がされていました。
『本は元に戻す!守らない生徒は図書室の利用を禁止します』
「昨日はそんな張り紙なかったんだけどな」
本を棚へ納め、夕食に向かいました。
二人は気付いていません……窓の外から様子をうかがう、その視線に。




