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『魔導士の視点から考察するケント1世の実力』
タイトルにケント1世の名が書かれていたのでお嬢様の興味を引いたようです。パラパラとめくって、気になった個所を読み始めました。
ケント1世が絶大な魔力を持っていたのは疑いのないところである。それは魔法を使えない歴史学者であっても周知の事だろう。しかし、カンロ派の魔導士の中には古い資料の信憑性を疑い、あろうことかケント1世は後世の権力者によって都合よく英雄化されたのだと主張する者がいるのだ。だと言うのならその証拠をまず提出すべきだ。証拠もなく推測だけで語り、セントランドの歴史をゆがめるのは侵略行為となんら変わらないのであって……
パラパラとめくります。
ケント1世がカンロ侵攻を決行した際、誰もその愚行を止めなかったのだ。(ここではあえて愚行という言葉を選んだ)この時の戦況は硬直状態だったのである。具体的には中央のセントランド、西のカンロ、北のスコー、三国の力は拮抗していて三すくみの状態にあった。共闘という選択肢は長い戦いの中で失われてしまった。互いに互いを憎悪の対象でしか見れないのだ。そんな状態でどこかの国が動けば、動いた方は背後を突かれる。攻められる方もそれが分かっているので、防衛に専念すればよい。もしくは正面と背後で挟み撃ちにして一気に叩き伏せるか。実は背後を突くと見せかけて、共に襲い掛かって来るかも知らない。この様に三すくみとは、どう動こうと皮肉なことに、疑似的な共闘が生まれやすのだ。無論それが自国に有利に働くとは限らない。
また戦争において、同じ兵力なら攻めるより守る方が容易なのは歴史の結果を見れば明らかだ。むやみに攻めて弱るより、動かないことがこの時の最善の策だったのである。そこをあえて動いたのはなぜか?それはケント1世が即位されたからである。
カンロ侵攻のわずか数日前(正確な日にちは資料が残されていない為、分からない)セントランドの王であるエドワード5世はケント皇太子によって暗殺された。この事は当時、一切の秘密にされた様である。エドワード5世は勇猛果敢な性格でその武勇は広く知られたところである。戦いには向いていたと言っていいだろう。その彼が暗殺されたのであれば、家臣は動揺し国は大混乱に陥ったはずだ。にもかかわらず、カンロ侵攻を決行し大勝利を収めたのである。
そこにケント1世の傑物たる片りんを見て取れるのだ。即位した当時の年齢は若干16歳。まだ少年と呼んでいい彼に家臣たちを引きいて、指揮する能力があっただろうか?しかも通常の王位継承とは異なるのである。もしかしたら優秀な家臣が支えてくれたのかもしれないが、逆になんという事をしてくれたのだと、王殺しの罪で縛り上げられてもおかしくはない。
ここは作者である私の推測だと述べておくが、ケント1世は家臣を黙らせるだけの力を持っていたのだと考える。絶大なる魔力で有無を言わせなかったのだ。
パラパラとめくります。
次に記すのはカンロにある教会から見つかった当時の日記だ。そこにはこう書かれている。
『その日、土砂降りの中ケガをした兵士が続々と運ばれてきた。どの兵士も酷い火傷を負っている。彼らが傷ついた理由は分かっている。戦争がまた始まったのだ。だが、それを戦いと呼んでいいのか私には分からない。たった一度、大きな衝撃音を聞いた。神の天罰が下ったのだと思う。戦いは一瞬で終わっていた。街には何も残っていなかった。跡形もなく吹き飛んでいた。カンロ兵も、住んでいた住人も、家も何もかも。戦いが終わったのなら敵味方など関係ない。神の御使いとしてセントランドの兵であろうと手当するのみだ。』
この日記から読み取れる注目すべき点はセントランドの兵が手当されていることだろう。どういう状況だったのか?
カンロとの口火を切ったこの戦いは歴史的に見ても重要であることは述べるまでもないが、その資料は極端に少ないのである。日記にあるように戦いの場となった街は跡形もなく吹き飛んだため戦況を語る者がいなかったと推測できる。そのうえ、カンロは自らの国の汚点を隠そうと、この時代に書かれた書物を残らず破棄した可能性がある。
ではセントランドに資料は残っていないのか?残念ながらこちらもほとんど資料は残っていない。ここで重要になってくるのが先ほど述べたセントランドの兵が手当されたという記述だ。これも作者の推測であるが、セントランドの兵は火球(おそらくヴァーミリオン・ボムクラスの大魔法)の爆発に巻き込まれたのだ。当時の街は防壁でぐるりと囲まれた作りのものが多い。この時の戦いも防壁をセントランドの兵が取り囲んでいたと思われる。そこへ街を丸々吹き飛ばすほどの魔法が放たれたらどうなるだろう?想像に難くない。
セントランドに資料が少ないのもケント1世の絶大なる魔力の前に兵や家臣、同盟を結ぶ諸侯すら恐怖で口を閉ざしたからではないだろうか?『魔力至上主義』の始まりである。
パラパラとめくります。




