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放課後、朝日は火球の威力を上げる為にはどうしたらいいのか調べようと、図書館へ向かいました……いえ、メイベールお嬢様の体が勝手に動いて行くのです。相当張り切っているのは朝日にも分かりました。
(お嬢様って目立つの好きだよねー)
朝日は考えました。もしこの前の様にお嬢様がとんでもない魔法を使おうとしても、今回は止めてみせようと。朝日にも魔法が、どういうモノなのか分かってきたのです。体をめぐる魔力をほんの少し弱めてあげるくらいなら、今の朝日にも出来ます。そうすればジョージ先生が言ったような惨事は防げるはずです。
張り切っているお嬢様には申し訳なくも思うので、暫くは彼女の好きなようにさせてあげる事にしました。
校舎本館から渡り廊下へ出ます。この渡り廊下は学校が作られる時に建造されたものですが、元々あったリード城の外観に合わせ古い建築様式で作られています。
曲線が美しいアーチの天井を支えるのは優美な彫刻が施された柱です。立ち並ぶ白い大理石の柱の間からは目的の図書館が見えます。まるでお城の様な外観は実際にリード城だったものを改築して、丸々図書館として利用されているのです。その蔵書数は国内でも随一と言われ、様々な魔導書が網羅的に収められています。
ここに来れば魔道の全てが分かると言われる程です。しかし同時に、全ての魔法を得る前にその人生は尽きるとも言われ、お目当ての書物を見つけるだけでも一苦労です。
図書館への入り口は防犯の為、正面に一つしかありません。大きな木製の扉は秋のカラッとした空気を取り込む為か、開け放たれていました。
館に一歩足を踏み入れただけでも、そこが元はお城だった事がうかがい知れます。入口正面には二階へと続く幅の広い階段があり、途中のステップで左右へと分かれています。そのステップの先には大きな絵画が飾られています。威厳たっぷりの長いひげが特徴的なその人物画は、現リード魔法学校の校長です。
いずれ校長となるジョージ先生もいつかその絵画が飾られるのでしょう。アナドリのファンからすれば、ジョージ先生にまつわるモノが飾られていればそこは絶好の映えスポットです。
(フッ)
朝日はファンの女の子達が階段周りで思い思いポーズをとって撮影している風景を想像し、笑ってしまいました。自分だけが今、実際にアナドリの世界にいるのです。少し優越感すら覚えます。
そのロビーでは先生達が雑談している姿がありました。
二階は先生達や魔法を研究している教授達の研究室となっているのです。日本の学校でいえば職員室の様なものでしょうか。
お目当ての魔導書は一階にあります。正面左は貴重な魔導書が保管される保管庫になっていて、一般生徒は立ち入る事が出来ません。自由に手に取って読める本は右の図書室にあります。
図書室に入れば、ここでもお城を改築してあることが見て取れます。元は部屋で区切られていたであろう事が分かる構造体の太い柱がむき出しなのです。必要ない扉や壁は取り払われ広い空間へと作り変えられています。柱と柱の間には壁の代わりに棚がはめ込まれ、天井まで届くその棚にはぎっしりと本が収められているのでした。
入ってすぐの場所は広くスペースが取られており、放課後を読書で静かに過ごしたい生徒が既に集まっていました。
入口近くに置かれて目を引く推理小説やラブロマンスなど、人気の本に集まっている生徒達を横目に通り過ぎ、一番奥に設けられたスペースへと向かいます。
(もう来てるかなぁ……いた)
気を遣われているのか、それとも怖くて近寄りがたいのか、目立つ赤髪に少し強面な生徒の周りには誰もおらず、ポツンと一人で座って本に向かっています。
朝日は明星の隣に腰を下ろしました。
座るまで気付いていなかった視線が妹を認めると、その目は緩みました。
「来たのか」
「うん。お嬢様がね、火球の威力を上げたいみたいなんだ。それで調べようと思って」
「ジャスパーが心配してたぞ。あまり無茶するなよ」
「わかってるよぉ」
朝日は明星の腕に掴まって体を密着させました。
「何読んでるの?」
頭を無理やり押し込むようにして、彼が読んでいた本を覗き込みます。
「古い魔導書だよ。バイロケーションとかいう魔法が載っている」
『バイロケーション:意識を遠く離れた場所に飛ばす魔法。戦地において情報伝達に用いられてきた。しかし、コントロールが難しく、その用途は限られる。』
本には呪文と、その発動条件などが詳しく書かれています。
「この世界ってまだ電話が無いから、使えたら便利かもね」
明星が真面目に応えます。
「もしかしたら日本に帰る手掛かりになるんじゃないかと思ったんだが、コントロールが難しいんじゃ使えないな」
「おにぃ……」
いつも明星は放課後になると図書室で魔導書を読み漁っているのです。それは日本に帰る手掛かりを探してくれていたのだと、朝日は今気づきました。
妹は兄の肩に頭を預けました。
「……お前は何も心配しなくていい。任せておけ」
「うん……」
兄は妹を心配させないようにと、全て抱え込んで守ってくれているのです。その事に申し訳なく思いつつも、ずっと甘えていたいと思う自分がいる……ダメだと分かっていてもこの世界でなら、それが実現できてしまう……
ふにっ
「きゃっ!」
不意に脇腹を突っつかれ、朝日は声を出して飛びのきました。明星がいつまでも腕を離さない妹にいたずらをしたのです。
あまりにいい反応だったのが可笑しくて、彼は声を殺して笑っています。
「くくっ、お前、お菓子食べ過ぎじゃないか?くくく」
「もーっ!」
「しーっ……」
明星がにやけて曲がった口に人差し指を押し当てました。視線は向こうから歩いて来るガードに向けられています。ガードとは、ここ魔法学校で警備を任されている者達です。その役割は争い事の抑止だけにとどまりません。男女で交遊しないようにと監視しているのです。貴族の学校なだけあって、そういうところは厳しいのでした。
「ほら、調べものに来たんだろ?」
「ムー……」
朝日はふてくされながら調べものへと向かいました。




