5-2
朝日は改めて聞きました。
「それで、統治祭がどうしましたの?」
「統治際はここリード領での呼び方だよ。ケント1世が戦っていた頃から北のスコーを抑える防衛都市としてリードは存在していた。昔からリードは魔法研究の中心地だからね。ここのお祭りでは魔法都市らしく、ケント1世が打ち上げた火球を再現しているんだ」
ルイスが口を挟みます。
「火球を夜空に向かって打ち上げるのはリード魔法学校の伝統になっている。特にフィナーレを告げる最後の打ち上げは、学生の中から最も優秀な生徒が選ばれるのが習わしだ」
「その大役『バーストマスター』を僕が毎年務めていたんだ」
ジャスパーは自慢げに言いました。
「だからお兄様は毎年赤の日は、うちに帰ってこないのですわね」
「ごめんよ。せっかくの祝日に僕も妹の顔を見に帰りたかったのだけれど、バーストマスターは名誉なことだから断る訳には行かなかったんだよ」
笑っていた顔が苦笑いに変わります。
「けどその大役もどうやら今年は僕じゃないらしい……」
「なぜですの?」
妹を見ている兄の顔が和らぎました。
「僕以上に優秀な生徒がいるからさ」
朝日は驚きました。
「え?わたくしですか⁉」
「そうだよ?入学早々、ヴァーミリオン・ボムを放とうとした生徒なんて前代未聞だよ。レディ・ボムの二つ名を知らない生徒は、いないじゃないか」
「お兄様!その呼び方はやめてくださいまし!恥ずかしい」
フフフと笑って彼が話を続けます。
「来年には僕も卒業だ。最後の祭りに妹の晴れ舞台を見れるんだ。こんな嬉しい事は無いよ」
彼は紅茶をすすりました。その表情はにこやかではありますが、少し寂しさも浮かんでいます。
「でも、優秀というならアイラさんだって魔力量は相当なものですわよ?」
アイラが慌てて首を振ります。
「私なんかがそんな大役、勤まりません!」
そういえばと、朝日は思い出しました。
(ゲームではアイラがお祭りデートをするんだっけ?)
だとすれば、ヒロインであるアイラの邪魔をするわけにはいきません。アイラとテオの仲を取り持ち、テオルートでエンディングを迎える事が日本に帰れる唯一の手掛かりなのですから。
ジャスパーが茶化す様に言います。
「雷公女様は雷の魔法が得意なんだよ。この前の様に雷雲を呼ばれては、せっかくのお祭りが台無しだ」
アイラは恥ずかしさでうつむいてしまいました。どのみちこれではしょうがないと、朝日は諦めて言いました。
「分かりましたわ。その役目、わたくしが務めます」
ジャスパーは満足気に頷きました。
「やるからには全力を出すんだよ。メイベール」
「全力で?よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕も毎年、全魔力を込めて打ち上げていたんだ。撃った後はフラフラで、一人で立っていられない程にね」
「でも、やり過ぎはよくないと仰ったのはお兄様ですのよ?恐怖を与えるからと、」
「それは誰に見せるかによる。この前の様に魔法が使える貴族相手に力を見せつけては孤立してしまうだろう。けど今回は庶民に見せるのだからね。上に立つ者として貴族とは時に畏怖の対象であらねばならない。祭りはその力を示す絶好の機会だよ。それに魔法学校の代表として立つんだ。盛大に打ち上げた方が生徒達も誇りに思い、キミの株も上がるというものさ」
ジャスパーの気配りにはかなわないなといった風にルイスは静かに紅茶を飲んでいます。
「そうですか……全力で、」
カラーン、カラーン、カラーン、と授業再開の鐘が鳴りました。
席を立ったメイベール嬢が力強く言います。
「分かりました。お兄様。わたくし全力を尽くします!」
メイベールの体は熱くなり興奮しているのでした。それを朝日はヒシヒシと感じていました。
(知らないよー……お嬢様、凄くやる気になってる)
「行きましょう。アイラさん」
去っていく2人を見送って、飲み干したカップを置きルイスが言います。
「ジャスパー、いいのか?全力でやれなんて」
「構わないよ。安全には配慮されているんだから。毎年やっている事じゃないか」
「あのお転婆なメイベール嬢だぞ?とんでもない事をやらかしそうに私は思う」
言われてジャスパーの顔が引きつります。
「二人とも……祭りの日はサポートを、ぜひ!お願いする」




